2015 Fiscal Year Annual Research Report
肺腺癌浸潤における癌幹細胞の役割についてのiPS細胞技術を用いた研究
Project/Area Number |
26293317
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
眞庭 謙昌 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50362778)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青井 貴之 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00546997)
林 祥剛 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (50189669)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 肺癌 / 発生・分化 / バイオテクノロジー / トランスレーショナルリサーチ / 癌幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
[目的] K-ras変異陽性の原発性肺腺癌細胞株であるA549細胞に、特定の因子の導入することにより、癌幹細胞性を有する細胞の誘導を行う。誘導された細胞を用いて、肺腺癌の浸潤部位形成と伸展機序を解明する。 [方法] レトロウイルスベクターを用いて、A549細胞に体細胞初期化因子(Oct 3/4, Sox2, Klf4)の導入を行う。それにより誘導される細胞の、形態的変化及びE-cadherinの発現を解析し、上皮間葉転換の評価を行う。Wound healing assayおよび非侵襲ライブセルイメージング顕微鏡であるHoloMonitor M4や、2層化コラーゲンゲル半球(DL-CGH)を用いて、細胞の移動能・浸潤能を定量的に評価する。 [結果] 体細胞初期化因子を導入したA549細胞において、遺伝子導入後10日~15日目に核/細胞質比の高い小型の細胞からなるコロニーを認めた(OSK-A549-Colony)。コロニーのみを培養することにより、その周囲には紡錘形の細胞(OSK-A549-SN)が出現した。OSK-A549-SN細胞において、E-cadherinの発現低下を認め、Wound healing assay法、HoloMonitor M4による観察及び、元のA549細胞に比べて有意に高い細胞移動能を認めた。さらにDL-CGH法において、OSK-A549-SN細胞の浸潤能が、元のA549細胞と比較して有意に高かった。[結論]本実験系により誘導される肺癌幹細胞様の細胞は、浸潤に関与している可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、フローサイトメトリーを用いた、E-cadherin発現解析ではE-cadherin 陰性細胞の割合は、A549、OSK-A549-Colonyに比較して、OSK-A549-SN細胞で最も高いことが示された。また、Wound healing assay にて、OSK-A549-SN細胞では移動能が元のA549細胞に比べて高かった。次に、HoloMonitor M4を用いた細胞移動能・形態的変化の定量的解析により細胞の移動した軌跡を比較したところ、OSK-A549-SNの移動距離が元のA549やOSK-A549-Colonyに比べて最も大きかった(Figure 6, 7)。また細胞形態は、OSK-A549-SNにおいて、Roughness (細胞内の高さの違い)が高く、Eccentricity (楕円率)が高く、Irregularity(細胞の外周の不整度)の高い細胞が多い傾向を認めた。さらに、DL-CGH法による浸潤能の評価により、浸潤能を評価したところOSK-A549-SN細胞が最もコラーゲンゲルの外層へ浸潤する傾向を認めた(Figure 9)。Image Jを用いた解析では、OSK-A549-SNの浸潤部面積は、元のA549細胞に比べて有意に大きいことが示された。 以上のように、予定どうりに研究結果を得ており、順調に進んでいると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに、体細胞初期化因子を導入したOSK-A549において、遺伝子導入後10〜15日にコロニーが出現し、誘導された細胞の周囲に、紡錘形の細胞が多数出現することを確認した。 癌幹細胞は転移・再発の原因となると考えられているが、癌幹細胞がどのような機序により転移・再発に関わっているのかは、明らかになっていない。肺癌の浸潤部において、繊維芽細胞の増生、上皮間葉転換(Epithelial mesenchyme transition: EMT)を認めるが、この繊維芽細胞の増生・EMTの有無が手術後の肺癌患者の予後を大きく左右している。 本研究により誘導された紡錘形の細胞(OSK-A549-SN)は、E-cadherinの発現が低下しており、Wound healing assay, HoloMonitor M4を用いた解析において、OSK-A549-SNは、高い移動能を呈した。さらに3D in vitro モデルであるDL-CGH法により、OSK-A549-SNの浸潤能が高くなっているのを確認した。以上より、本研究で誘導されるOSK-A549-SNは、癌幹細胞様の細胞から産み出される、EMTを生じた細胞であると考えられ、この細胞の解析により、肺腺癌の浸潤部位形成と進展機序の解明につながると考えられた。 今後は、本研究で誘導されるOSK-A549-Colony、OSK-A549-SNと元のA549のRNA を抽出・精製し、得られたRNA をマイクロアレイによって解析し、癌幹細胞様特性獲得や、高い移動能の獲得に関与する遺伝子の候補を抽出する。これらの遺伝子候補の機能解析を細胞生物学的手法により行う。すなわち強制発現やノックダウンによる機能喪失実験によってこれらの遺伝子候補の関与を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
少額の研究費が残り、研究を進めるための適切な消耗品購入には不適当であったため、次年度に繰り越した上で、必要物品の購入に当てることとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
iPS技術を用いた肺癌幹細胞様細胞を得るための試薬購入に当てる。
|