2014 Fiscal Year Annual Research Report
難治性嗅神経障害の病態生理解明とその診断・治療法開発のための分子生物学的研究
Project/Area Number |
26293366
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近藤 健二 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40334370)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊田 周 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00555865)
有田 誠 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, チームリーダー (80292952)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 鼻科学 / 嗅覚医学 / 嗅神経障害 / 神経再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
①カロリー制限モデルにおける嗅神経上皮の細胞動態の解析:マウスに隔日で低カロリーペレットを与え、摂取カロリーを通常摂取カロリーの約64%に調節して飼育したカロリー制限マウスと対照群マウスの嗅神経上皮の細胞動態の解析を行い、カロリー制限により基底細胞の分裂増殖が抑制され、またメチマゾール傷害を与えた際の神経再生が不完全になることが明らかとなった。 ②新規ドラッグデリバリーシステムを用いた神経上皮の傷害制御・再生促進に関する解析:神経栄養因子であるBDNFのmRNAを高分子ポリマーに抱合しナノミセルとして嗅粘膜に点鼻投与する新しい方法を開発し、これをメチマゾール傷害後の嗅神経上皮に投与することで神経再生が加速することが明らかとなった。 ③嗅神経上皮の加齢・傷害・再生過程における組織脂肪酸組成変化の網羅的解析:8週齢マウスにメチマゾール投与による嗅粘膜傷害を惹起し、傷害後2週間の神経再生が盛んな時期に粘膜を摘出し、メタボローム解析システムを用いて粘膜の脂肪酸組成を非傷害マウスの嗅粘膜と比較した。結果として、嗅粘膜にはDHAが豊富に含まれており、また傷害からの再生過程で脂肪酸組成が大きく変化することが見出された。 ④n-3脂肪酸合成酵素トランスジェニックマウス(FAT-1マウス)の解析:②と関連してn-3脂肪酸合成酵素のトランスジェニックマウスで体内のn-3/n-6脂肪酸バランスが高く維持されているFAT-1にメチマゾールに嗅粘膜傷害を惹起し再生過程を組織学的に追跡したところ、FAT-1マウスでは傷害後の嗅神経の嗅球への軸索投射が促進されることが見出された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①カロリー制限モデルにおける嗅神経上皮の細胞動態の解析:組織学的解析がほぼ終了し、現在1本目の論文投稿を準備している。本組織解析で明らかとなった細胞動態の変化の背景分子メカニズムを調べるため、コントロール食とカロリー制限食で飼育したマウスの嗅粘膜からRNAを回収しDNAマイクロアレイ解析を行った。現在同解析結果に基づいて定量PCRによる確認作業を準備している。 ②新規ドラッグデリバリーシステムを用いた嗅神経上皮の傷害制御・再生促進に関する解析:神経栄養因子であるBDNFのmRNAを高分子ポリマーに抱合しナノミセルとして嗅粘膜に点鼻投与することで傷害後の組織再生が促進されることが示された。本研究はすでに論文が受理された。 ③嗅神経上皮の加齢・傷害・再生過程における組織脂肪酸組成変化の網羅的解析:若齢動物の非傷害時、傷害からの回復期における脂肪酸組成の解析が行われた段階であるが、両者で脂肪酸組成が大きく異なっているという興味深い結果が得られており、今後の研究の進展が期待できる。 ④n-3脂肪酸合成酵素トランスジェニックマウス(FAT-1マウス)の解析:組織学的解析が進行している。これまでは理研で飼育したマウスで解析を行っていたが、国内移送の手続きが完了したため今後東京大学耳鼻咽喉科での繁殖が可能となり、研究が迅速に進むことが期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
①カロリー制限モデルにおける嗅神経上皮の細胞動態の解析:上記の組織学的解析結果を論文化する。また同モデルにおける嗅粘膜の遺伝子発現の変化の解析をDNAマイクロアレイの結果に基づいて定量PCRで進める。 ②嗅神経上皮の加齢・傷害・再生過程における組織脂肪酸組成変化の網羅的解析:非傷害時、傷害からの回復期における脂肪酸組成の変化に関わる酵素の発現の網羅的解析をDNAマイクロアレイで行う。またそれら酵素の遺伝子欠損マウスを用いた解析も行い、これらの多面的な解析が一致するかどうかを調べる。また好中球性炎症が関与するPoly(I:C) 点鼻投与嗅神経傷害モデルでは若齢マウスに比べ高齢マウスで炎症・傷害が強く現れることが分かっており、加齢変化に伴う脂肪酸組成の変化が関与する可能性があると考えている。若齢(6週)と高齢(2年)のマウスの嗅粘膜で上記分析を施行、脂肪酸組成を比較する。 ③n-3脂肪酸合成酵素トランスジェニックマウス(FAT-1マウス)の解析:上記②と連動して、EPAやDHAなどのn-3脂肪酸を生体内代謝しレゾルビン、プロテクチンと呼ばれる強い抗炎症性代謝物を生成する12/15-lipoxygenase (12/15-LOX)の欠損マウス(分担研究施設で維持されている)、及び飼料にn-3脂肪酸を添加して飼育するマウスに嗅粘膜傷害を惹起させ、組織の再生及びその過程における遺伝子、蛋白、脂肪酸組成の網羅的解析を行う。さらに、レゾルビン、プロテクチンなどn-3脂肪酸由来の生理活性代謝物を直接投与することによる嗅神経上皮組織の保護・治療効果についての検討を行う。
|
Causes of Carryover |
本年度の研究費で購入予定であった、動物の嗅覚検査に用いるオルファクトメーター本体を他の研究室から譲渡されたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に嗅覚検査関連の物品費として使用予定である。
|
Research Products
(11 results)