2015 Fiscal Year Annual Research Report
角膜内皮細胞亜集団間コミュニケーションによる相転移制御の分子実態解明
Project/Area Number |
26293376
|
Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
木下 茂 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30116024)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽室 淳爾 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (80536095)
上野 盛夫 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40426531)
奥村 直毅 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (10581499)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 再生医療 / ヒト角膜内皮細胞 / 細胞相転移 / 細胞外微粒子 / エキソゾーム / miRNA / フックス角膜ジストロフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究主題は「角膜内皮細胞亜集団間コミュニケーションによる相転移制御の分子実態解明」である。培養ヒト角膜内皮細胞(cHCEC)が細胞亜集団から構成されるとの世界初の知見をもとに、亜集団間の細胞機能の差異と相互干渉をヒト病態の疑似モデルに外挿し、新たな角膜内皮移植医療創出に革新的な視座を提供する。 26年度に引き続き、cHCECの相転移に係る細胞外微粒子(EV)の分子動態と機能解析を中心に研究を展開した。フックス角膜ジストロフィー(FECD)患者において内皮細胞密度の低下と細胞外マトリックス蛋白を高産生するGuttata形成病態で特定のmiRが著明に低下すること、培養ヒト角膜内皮細胞の老化変性に並行し同一のmiRが低下することを確認し、ヒト病態の疑似モデルを確立できた。同時に、角膜移植、DSAEK施術患者での角膜移植時の残りリムの培養により生成される成熟分化内皮細胞比率と前房水、血清などのサイトカインプロファイルの対応付けを継代培養数5世代まで実施した。 5つの達成目標の内、1.については26年度に終了。2. 亜集団の細胞形質と機能的変化の対応付けについては病態進行に内皮細胞のミトコンドリア呼吸鎖機能の変化の起こることを確認した。3. 亜集団間の細胞間相互作用については、選択miRのmimicsの細胞内導入実験や分泌エキソゾーム分子種を同定できた。分泌型miRを遊離型とエキソゾーム包埋型に分類した。4. 前房内サイトカイン環境については、その多様性を明らかにし、miRプロファイルについても解析し、SASP(senescence-associated secretory phenotype)因子の含量との対応付けを行っている。5番目の長期臨床成績に優れる角膜内皮移植医療の臨床評価技術の解明については大いに進捗した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
亜集団の細胞形質と機能的変化の対応付けについては表面抗原を指標にcHCEC を分別し新鮮角膜内皮組織に存在する成熟分化型の内皮細胞類似の培養細胞が高効率に産生される培養法を確立し、成熟分化型の培養ヒト角膜内皮細胞はクエン酸回路主体のエネルギー代謝特性を示すことを明らかにした。細胞形質の可塑的性については未分化幹細胞様増殖細胞と成熟分化細胞の間にCD44 細胞表面抗原の消長でモニターされる分化方向、並びに脱分化方向への可塑性のあることが判明し、Rhoキナーゼ阻害剤が大きな役割を担っていることが判明した。 亜集団間の相互作用を担う分子実態の解明については、選別亜集団培養上清の詳細な解析により4種類の分泌型miRを確定した。遊離型とエキソゾーム包埋型の双方に分布するものと前者のみに存在するもの分別された。機能検定のためにはmiR-mimicsの細胞内導入による成熟分化細胞機能誘導試験を実施した。病態の擬似モデルに活用できる相転移細胞では細胞外へのエキソゾーム、EVの放出が大であり、CD63, CD9双方の陽性のものの放出が著明で、成熟分化細胞と好対照をなしている。 Guttata陽性のFECD患者において特定のmiRが著明に低下すること、老化変性cHCECで患者と同一のmiRが低下することは、ヒト病態の疑似モデルとして、本指標を創薬評価に用いることのできる可能性を示す。 前房内サイトカイン環境については、その多様性を明らかにし、miRプロファイルについても解析し、SASP含量の多様性との対応付けを行っている。角膜移植患者血清中の自己抗体様の存在についても解析を進め、患者間で共通に存在する抗原と患者毎に異なる抗原などへの分類が終了した。前房内サイトカン、miRプロファイルの多様性と角膜移植の長期予後成績との対応づけにより本移植医療に全く新しい視点からの解釈を提供できると確信するに至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
順調に進捗しているので計画書記載の方向で進める 分化成熟エフェクター細胞、幹細胞様増殖性細胞および休止期細胞の3 種が培養HCEC に亜集団として存在し、亜集団間に情報交換がなされ、SASP因子・miRNA・エキソゾームを介する亜集団間相互作用により動的可塑性が維持されることが具体的に明らかとなり、関与する分子種も明確になりつつある。国内学会発表予定3件、海外学会発表予定5件、既投稿報文2報、執筆中2報である。1.亜集団の細胞形質と機能的変化の対応付け、2.ヒト角膜内皮細胞の培養における形質の均質性の評価技術の確立、3.亜集団間動的可塑性の人為的制御技術の開発、4.幹細胞様形質を有する亜集団の拡大培養法の確立、5.レシピエント側の前房内微小環境が移植角膜内皮細胞の相転移に及ぼす作用の解明などを計画書の予定に沿って着実に進める。唯一、4については最終成熟細胞への分化技術の確立が難航しているが28年度に全力を挙げる。5.については予想以上の進展で、再生医療において移植細胞の品質と共に、移植部位の局所微少環境の重要性を示すもので、他研究者への波及効果は頗る大である。これらの基礎治験を礎に、長期機能維持の可能な角膜内皮移植術の基盤技術を確立し、現在の角膜移植技術の根本的な革新を図る。同時に角膜内皮機能不全病態の分子実態を明確化し、革新的創薬・診断技術の開発につながる可能性が現実化した。28年度中に此処までを完成し、29年度からは革新的創薬、診断技術研究を軸とする発展的継続課題への展開を新たな申請課題として進めることを展望している。
|
Causes of Carryover |
27年度は、約500万円を消耗品代に集中的に使用し、研究が順調に進展した。結果、29年度以降への発展的展望が明確になってきた。このため所期の予定を超えて、角膜内皮機能不全の分子実態解明への挑戦を介して、29年度以降の革新的創薬開発につなげるために、エキソゾーム関係の分子的解析とin vitro 病態擬似モデルの対応付けを新たに進める必要性が浮き彫りになった。28年度に一部の予算を繰り越し対応することとした。当初予定の予算では本新展開の遂行が無理と予想されたためである。27年度予定は前年26年度の繰り越しを活用して成就できたものである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
エキソゾーム関係の分子的解析のため、エキソゾーム関係の新しい純化技術のための試薬を購入すること、患者の血清のmiR解析のための追加チップ購入費用に繰り越し分、約142万円をあてる。当初予定額240万円は予定通りの使途である。報文投稿費用が予定より18万余計にかかる予定である。上述の4、5の課題に傾注する。
|