2014 Fiscal Year Research-status Report
カンボジア・アンコール砂岩の風化プロセスに関わるクリープ変形と風化環境の研究
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26300008
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
藁谷 哲也 日本大学, 文理学部, 教授 (30201271)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地形学 / 岩石風化 / 建築材料 / 熱環境 / 地盤工学 / 世界遺産 / 樹木伐採 |
Outline of Annual Research Achievements |
アンコール遺跡が19世紀後半に発見された際,石造寺院の多くは厚い植生に覆われ,崩壊状態にあったとされる。その後,石造寺院の保存・修復が進む中,樹木伐採が進められてきた。しかし植生は,熱帯気候に置かれた石造寺院の急激な気温上昇や蒸発量の増加を抑制し,水分変化に由来した建築石材の劣化を妨げる働きを持つと推察される。そこで本研究では,植生の被覆状況が異なる石造寺院を選定して,その熱環境を分析した。対象としたのは,アンコール・ワット(以下ワット),バンテアイ・クデイ,タ・プロム(プロム)寺院などである。また,過年度からワットで稼働している気象ステーションを更新して,人工衛星経由で現地の気象データを随時モニタリングできるシステムに改良した。加えて,ワットの回廊を対象に横断測量を進め,柱の基部にかかる荷重を構造解析するための基礎資料を得た。これらのうち気温測定は,各寺院に温・湿度を4分間隔で測定するロガーをおよそ40基設置し,9月7~13日に実施した。その結果,各寺院の中心に位置する建物(祠堂)と周囲との温度差は,夜間に最大となることがわかった。とくに植生被覆がほとんどないワットでは,6時における祠堂とオープンスペースとの温度差は7.9℃に達し,祠堂部分が高温化したホットスポットを形成していた。夜間にホットスポットが形成されるのは,日中日射を浴びた砂岩石材の表面温度が40-50℃に達し,この熱が石材に蓄熱されるためであろう。祠堂における高温状態の持続は,砂岩石材の乾燥化を招くが,雨季には石材は頻繁に降雨により湿潤化する。すなわち,砂岩石材は激しい乾湿変動の繰り返しに曝されている。植生被覆の程度が低いプロムでは,ワットのような大きい温度差が明瞭ではない。これは,植生被覆による日射の遮蔽効果によると考えられる。すなわち,石造寺院周辺の樹木伐採は,石材の風化を加速させる条件を形成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は,研究対象寺院を選定しAPSARA(the Authority for the Protection and Management of Angkor and the Region of Siem Reap)からの調査許可後,連携研究者や現地協力者などと現地で熱環境調査,気象ステーションの改良,構造物測量などを実施した。熱環境の調査計画では,対象寺院を10箇所程度選定するとしたが,実際に調査すると設置した機材の盗難が生じ,管理面で問題の生じることがわかった。このため,調査対象を3寺院に絞って実施した。これらでも機材の盗難が生じ,一部天候にも苦慮したが,当初目論んだ温・湿度のデータセットを得ることができた。 過年度ワットに設置した気象ステーションは,日本で気象データの常時モニタリングを行うため改良を計画した。計画では早い時期に機器の更新を行うことを予定したが,業者による通信テストや無線免許取得などに期間を要したため,12月となった。しかし,この改良により,気象の随時観測が可能となり機器のトラブルにも即応できるようになった。 対象寺院における構造物の横断面測量は,ワットで実施した。測量はレーザー距離計を用いて実施し,回廊の外縁部分を正確に測量することができた。しかし,内側部分については砂岩石材の凹凸が激しく,天井高も高いため,十分な測量が行えず課題として残された。 これら研究の概要や成果の一部は,アンコール遺跡保存修復国際調整委員会(ICC)や日本地理学会などで報告し,当初の目的をある程度達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の現地調査は,植生被覆の割合が高い寺院と低い寺院を対象に祠堂から周辺部までを含めた温・湿度観測を計画する。また,連携研究者や現地研究協力者とともに構造解析に必要な構造物の測量や古環境試料(植物化石や有機物など)の採取を行う。とくに試料採取については,遺跡周囲につくられた環濠や水田などから不撹乱試料の採取を計画する。 学内では,連携研究者とともに砂岩供試体を利用した変形試験を実施する。これは砂岩ブロックの構造解析結果を裏付けるために行うもので,劣化して凹みが形成された砂岩ブロックの応力状態を模した試験である。試験は現地の年平均気温・湿度に設定した恒温槽内で,精密整形した砂岩供試体に一定荷重をかけ,変形特性をひずみセンサーを用いて実施する。また,現地で得られた気象データの解析や古環境試料の分析を通じて長期・短期の風化環境の変化を分析する。これら研究成果の中間報告は,国際地理学連合や国内の学会などで報告する。
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Causes of Carryover |
「現在までの達成度」に記述したように,過年度ワットに設置した気象ステーションは,日本で気象データの常時モニタリングを行うため改良をおこなった。改良は,観測データを人工衛星に送信する通信システムを既存システムに組み込むとともに,これに対応するデータロガー,プログラムの交換を伴っていた。とくに通信システムは,業者による通信テストや無線免許取得などに期間を要した。このため,機器の現地における本格稼働は12月下旬となり,衛星のシステム使用料は3か月分のみとなったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は乾季と雨季に現地調査を実施するとともに,モスクワで開催予定の国際地理学連合における成果発表を計画している。このため,予算総額の半分程度が旅費として8,9月および3月に支出される。また,変形試験用石材の整形,衛星通信費,気象ステーション管理費,および論文校閲などの支出を随時予定する。
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Research Products
(8 results)