2016 Fiscal Year Research-status Report
インド石窟美術史のための調査研究-西インド古代後期~中世前期石窟寺院を中心に-
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26300018
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
平岡 三保子 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00727901)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インド美術史 / 仏教美術史 / ヒンドゥー教美術史 / インド石窟寺院 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は申請時の研究計画に加え、ウッタラ・プラデーシュ州マトゥラー博物館の調査を行った。ガラスケースに陳列された遺品の記録に特殊な撮影方法を新たに導入し、良質なデータを収集するためである。次にマディヤ・プラデーシュ州のサーンチーを調査対象とした。当地は2014年度にも前期仏教石窟と同じサータヴァーハナ朝時代の造形活動を比較分析するために調査対象に加えたが、その折にはサーンチー考古博物館の調査に及ばなかったため再訪が必要となった。インド考古局管轄の遺跡では、遺跡の調査は管轄区域の考古局支部の許可申請が、遺跡に付随する考古博物館の調査はデリー本部 Museum Sectionでの許可申請が別個に必要であり、煩雑な手続きに時間を要するからである。今回の主たる目的は同博物館所蔵で20世紀初頭の発掘以来非公開の第1塔南門東柱の特別拝観と調査を行う事にあったが、インド考古局の人事異動と調査期間が重なったため局長以下諸部門における関係者との度重なる交渉が必要となった。最終的に、短時間ではあったが南門東柱の覆いを外し、写真撮影する得がたい機会に恵まれた。 ムンバイではチャトラパティ・シヴァジ・マハラジ・ヴァーストゥ・サングラハーラヤ(旧プリンスオブウェールズ博物館)の館長、ムンバイアジア協会の研究者、デッカン・カレッジの研究者たちと貴重な情報交換の機会を得られた。また、前年度雨天のため未完了だったカーンヘーリー、アジャンター石窟寺院の現地調査に再度取り組んだ。しかしいずれもまた雨天日が多く、予定通りには完遂できなかったものの、アジャンター第1,2窟の主要な壁画を記録する事ができた。エローラ石窟滞在中にも雨天日が多かったが、第16窟寺院内部のヒンドゥー教尊像および神話場面浮彫に関しては一通りの資料収集を遂行できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
先述インド考古局の人事異動により、①インド考古局デリー本部(サーンチー考古博物館) ②アウランガーバード支部局(アジャンター、エローラ石窟)に対して申請者が提出した撮影・調査許可が適切に受理されず、インド到着後に研究代表者の知己を頼り多くの関係者を通じて許可書獲得に至った。この経緯により遺跡・博物館の予定滞在時間が大幅に削られることとなった。マトゥラー博物館では改修工事のため十分な照明を得られず、時間的にごく一部の遺品のみの記録に終わった。またマハーラーシュトラ州は天候不順で9月に入って多雨となった。このためカーンヘーリー、アジャンター、エローラでの現地調査が難航した。エレファンタ石窟行の船も風雨でキャンセルされたため訪問できなかった。また豪雨に見舞われた後に研究代表者が風邪をこじらせムンバイで寝込んだため、コーンカン地区の石窟寺院調査を断念せざるを得なかった。また研究計画の主たる対象であったエローラ第16窟について、寺院内部(回廊、本堂、副祠堂等)の尊像、神話場面の浮彫に関しては一通りデータ収集を行うことができたが、膨大な量の尊像や神話場面に対し、細部の撮影には及ばなかった。また雨天が多かったので外壁の彫刻の撮影は捗らなかった。また、列柱や入口装飾といった様式変遷の決め手となる建築装飾もあまりにも分量が多く記録を中断した。第16窟はそれ自体が標準的な石窟寺院を数十倍に拡大した複合的な巨大建造物であり、最初の研究計画ではとても網羅的な悉皆調査に及ばない事を思い知らされた。他方、近年経済力を増しているインド人にレジャーブームが訪れたり学校教育の一環として遺跡見学が重視されたりと、各地の遺跡や博物館が目立って混雑するようになってきた。特に世界遺産として名高いアジャンター、エローラ等では三脚を用いた遺跡の撮影に環境的・時間的な制約が著しく増加したことも遅延の原因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
西インドの古代後期~中世前期に属する膨大な量の石窟美術を、5年間の研究計画で包括的に扱い、とりまとめる事の難しさを過去三年間の研究実績において痛感した。当初の計画では次年度は調査対象をジャイナ教石窟となっているが、過去三年においてヒンドゥー教石窟はおろか、仏教石窟ですら資料収集が十分とは言えない状況であり、ジャイナ教石窟の調査が次年度、一度限りの現地調査では不完全に終わるであろう事は明白である。従って現在、当研究課題の延長申請を検討している。そして研究課題の期間延長および将来的な詳細な調査を視野に入れ、そのための予備調査という位置づけで調査対象を扱う事とする。また、進捗状況でも触れたように撮影環境の制約が年々増えており、エローラ第16窟のような遺跡では早朝しか理想的な撮影環境の確保ができない場合もあるため、十分な滞在時間の確保にも配慮する事とする。 またこれまで長期滞在となる現地調査はインドの雨期がピークを過ぎる夏期休暇後半(8月下旬~9月中旬)に設定してきたが、過去三年の調査において雨天およびこの時期特有の祭礼に左右されることが多々あったので、今後は冬期休暇や春期休暇を利用し、短期滞在を数回重ねることで現地調査を行う可能性を検討している。 この研究課題による過去三年の現地調査においてインド人研究者との交流が深まりつつあるものの、共同調査がなかなか実現できずにいる。これは研究代表者の資金提供に制限がある事も大きな原因となっており、今後も引き続き研究費の確保に務めねばならない。 またムンバイ周辺の大学において石窟美術を専門とするインド人研究者の数が近年増えており、日本では存在を知られていない彼らの研究成果を積極的に紹介すること、逆にインド人に知られていない日本における仏教石窟美術の成果をインドに紹介する事も重要な課題だと考えている。
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Causes of Carryover |
インド現地における学術図書購入費、現地調査補助・協力に対する謝金として利用されるべき金額であったが、残念ながら一部の契約において領収書の発行を現場で依頼できなかったため、自費で立て替えた状態に終わっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の図書購入費として使用する
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