2015 Fiscal Year Annual Research Report
在外絵入り本を中心とする書誌・出版・解釈の総合的研究
Project/Area Number |
26300020
|
Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
山下 則子 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (40311162)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神作 研一 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (30267893)
小林 健二 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (70141992)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 在外絵入り本 / 国際情報交換イタリア / 国際情報交換アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
1,キオッソーネ東洋美術館所蔵絵入り本の調査と研究について キオッソーネ東洋美術館所蔵日本古典籍目録を、日本語と英語を併記して完成させた。この目録を作成するにあたっては、特に重要な絵入り本を抽出し、版種推定等の詳細な書誌的考察を付した。この研究成果は、文学・美術・出版の各方面の研究者から成る共同研究会で発表を行い、様々な意見を反映させた上でまとめたものである。共同研究会は、2015年9月11日(金)に開催し、その発表内容は、山下則子―キオッソーネ東洋美術館蔵『百千鳥狂歌合』について、伊藤善隆―『たまひろひ』と『山城名勝風月集』―絵俳書の板木再利用、武藤純子―奥村政信画横大判墨摺十二枚揃にみる月次風俗―菱川師宣画『月次のあそび』との類似点と相違点、浅野秀剛―絵半切と清書巻について、であり活発な質疑応答があった。 目録の英文化にあたっては、多くの問題が浮上した。今後の日本文学研究の国際化に際して当面するであろう具体的な諸問題を集積できた。完成した冊子体目録は、特に文学史的にも重要な作品に関する論文「土佐浄瑠璃六段本『京太郎』」(高橋則子執筆―山下則子の筆名)とともに、国内国外の日本文学研究者に送付し、大変好評を得た。
2,ホノルル美術館リチャードレインコレクション版本の調査と研究 本年度の調査は2016年2月11日(木)~2016年2月18日(木)に実行した。調査はレインコレクション版本を網羅的に対象とし、ホノルル美術館所定の書誌調査カードを用いて、書誌的事項を記入するという形式で行った。調査点数は総計約150点であった。調査が重なるにつれて、研究成果の発表に際し、先行して調査に入っている調査団と調整する必要があるのではないか、という点を美術館側と検討した。現在、美術館側と他の調査団との間に結ばれている協定は何も存在しないことも併せて確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
キオッソーネ東洋美術館所蔵日本古典籍目録を、日本語英語併記で完成させ、特に重要な絵入り本に関しては、詳細な書誌的解題と、その作品に関する先行研究も紹介し、それらを踏まえた上での解説を行った。故にこの目録を配布した国内国外の研究者からは、絵入り本に関する研究として高い評価を得ることが出来た。 目録の校正には多大な労力がかかり、数人の緻密な校正作業を必要とした。特に日本語目録の英文化に際しては、多くの問題が発生したが、これらは、今後当面するであろう日本文学研究の国際化に、具体的で重要な示唆を与えるものとなった。 2016年5月に近世演劇研究者を主な対象とする『演劇研究』41号に、高橋則子(研究代表者山下則子の筆名)が「土佐浄瑠璃六段本『京太郎』」を発表した。これはキオッソーネ東洋美術館蔵絵入り本の中でも特に重要な作品で、正本不明とされてきた(昭和19年『古浄瑠璃の研究』)土佐浄瑠璃作品である。この本の写真版と厳密な翻刻、解題を行った。この本は書物蒐集で高名な三人のコレクターに蔵されていたもので、江戸時代から希少価値が認められていたことがわかる。 ホノルル美術館リチャードレインコレクションの絵入り本調査は、昨年度は美術館側の都合と当方の日程調整がつかず、他所での諸本調査になったため、今年度がはじめての来訪となる研究協力者もいた。調査方法は今まで通り美術館所定の書誌カードに、網羅的に絵入り本の書誌を記入する方法である。調査が重なるにつれ、成果発表をどのように行うかという問題に直面するようになった。ホノルル美術館には、現在他の調査団と結ばれている協定はないことも確認したが、成果発表に関するルール作りが必要という認識をホノルル美術館側と相談の上、先行調査団メンバーに「成果発表に関するルール」案の検討を依頼した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1,キオッソーネ東洋美術館所蔵絵入り本については、完成させた目録及び主要絵入り本解説の内容を更に充実発展させる。解説で扱った絵入り本は、世界各地に存在する著名な絵入り版本であり、更に多くの諸本研究を行うことにより、その内容の精度を高めることが可能である。またキオッソーネ東洋文庫蔵日本古典籍目録のデジタル公開を検討する。 2,ホノルル美術館蔵絵入り本については、従来の調査対象であるリチャードレインコレクションの書誌調査の外に、レインコレクション以外にも調査対象を拡大して、キオッソーネ東洋美術館蔵絵入り本研究で重点的に研究した著名絵入り本についても、諸本研究の一環として調査を行う必要がある。また、ホノルル美術館所蔵日本古典籍を用いて、現地の若手日本文学研究者も交えた研究会等を開催し、日本の古典文学への関心を広げ、日本古典籍に関する書誌的知識を伝えることも心がけたい。ホノルル美術館のデジタル画像公開に助力するための網羅的書誌調査と、著名絵入り本の諸本調査、絵入り本と共通する絵師の浮世絵調査、現地若手日本文学研究者への成果還元等の方向から、今後の研究の推進を考えていきたい。
|
Causes of Carryover |
本計画は、在外絵入り本の資料調査を、助成金の主たる使用目的としている。昨年度は調査予定美術館の行事予定と、調査可能日程との調整がつかず、少数参加者による他所蔵機関での諸本校合調査へと振り替えざるを得なかった。本年度は計画通りの執行となったが、昨年度分の余剰がそのまま持ち越しになっている。また、在外著名絵入り本を書誌や出版の方面から、更に研究を深めるためには、その資料となる古典籍を購入して、緻密な比較調査を行う必要があるが、それに該当する最適な資料が市場に現れなかったので、購入を見送った。そのため、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
極力多くの参加人員での調査を実行するために、早期の日程検討を行い、調査先のホノルル美術館との充分な調整を行う予定である。また、研究代表者及び研究分担者や協力者は、昨今の多忙な勤務状況により、調査の予定が揃わない可能性も充分にありうる。その場合は日程をずらしたり、何回かに分けて調査したり等の方策も検討している。また、在外絵入り本調査に重要な意味を持つ古典籍が市場に流通した場合には、可能な限りそれを購入したい。
|
Research Products
(31 results)