2015 Fiscal Year Annual Research Report
ディルムン文明の起源―バハレーン島における古墳群の考古学的調査研究-
Project/Area Number |
26300030
|
Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
後藤 健 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 特任研究員 (40132758)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浜崎 一志 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (00135534)
安倍 雅史 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (50583308)
西藤 清秀 奈良県立橿原考古学研究所, 嘱託職員 (80250372)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ディルムン / バハレーン / ワーディー・アッ=サイル / 発掘調査 / 古墳 / メソポタミア / インダス |
Outline of Annual Research Achievements |
ディルムンはメソポタミアの文献資料に登場する周辺国の1つであり、前2千年紀前半(前2000~前1800年)にメソポタミアやオマーン、インダスを結ぶペルシア湾の海上交易を独占し繁栄した王国である。現在、ペルシア湾に浮かぶバハレーン島が、このディルムンに比定されている。 本プロジェクトの目的は、古代ディルムン文明の起源を明らかにすること、すなわちバハレーン島でどのように社会が複雑化を遂げ、王権が発達し、ペルシア湾の海上交易を独占するに至ったかを、考古学的に解明することである。 2014年度から、バハレーン島の中央にあるワーディー・アッ=サイル古墳群で発掘調査を実施している。前2050年から前1800年にかけての時期は、ディルムンの『文明期』に相当する。この時期、ディルムンはペルシア湾の海上交易を独占し、社会の複雑化が進み、巨大な王墓や城壁都市、神殿などが建設されたことが確認されている。一方、前2200年から前2050年の時期は『形成期』と呼ばれ、階層差がなく比較的平等な時期であったと考えられている。ワーディー・アッ=サイル古墳群は、バハレーンに唯一現存する形成期の古墳群であり、古代ディルムン文明の起源を研究するうえで、非常に有望な遺跡である。 2015年度も、2016年の1月上旬から2月中旬にかけて発掘調査団を派遣し、ワーディー・アッ=サイル古墳群の発掘調査を実施した。また、あわせて古環境調査なども行った。 今回の発掘調査によって、具体的に古代ディルムンの系譜が見えてきた。ワーディー・アッ=サイル古墳群と非常に酷似した古墳群が、アラビア半島北部の内陸乾燥域に広範囲に分布しており、ディルムンの系譜はアラビア半島北部の内陸乾燥域に辿れること、おそらく当地域に暮らしていた先史遊牧民が前2200年前後にバハレーン島に到来したことなどが明らかになりつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの骨子であるワーディー・アッ=サイル古墳群の発掘調査に関しては、2015年度も無事計画通り実施に至った。発掘作業も順調で、着実に成果があがりつつある。本プロジェクトの目的は古代ディルムン文明の起源を明らかにすることであるが、発掘調査を通じ、具体的に、ディルムンの系譜はアラビア半島北部の内陸乾燥域に辿れること、おそらく当地域に暮らした遊牧民が前2200年前後にバハレーン島に到来したことなど、具体的な答えが現在見えつつある。 また、発掘調査と並行して実施しているバハレーンの古環境調査でも、2016年の1月に鍾乳石が発達した有望な洞窟を発見することができ、すでに鍾乳石のサンプリングも終了している。サンプリングした資料に関しては、現在、九州大学で分析中であり、今年度中にも、バハレーンの古環境に関する分析結果を公表できると思われる。 また、研究成果の発信に関しても、順調に進展している。例えば、研究代表者の後藤が2015年12月に、一般の読者向けに筑摩書房から『メソポタミアとインダスのあいだ-知られざる海洋の古代文明』を出版するなど、成果があがっている。この本は、読売新聞や日本経済新聞に書評が掲載されるなど、好評を博している。また専門家に対しても、西アジア考古学会やオリエント学会で発掘調査の諸成果を発表済みである。 以上の理由により、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度も、1月上旬から2月下旬にかけてワーディー・アッ=サイル古墳群の発掘調査を実施する予定である。例年と同じように2基あるいは3基の古墳の発掘を考えている。また古墳群の測量も今年度中に終了させる予定である。 また、発掘調査に並行して、可能ならばバハレーン国立博物館所蔵のディルムン期資料に関しても調査研究を実施したいと考えている。バハレーン国立博物館には大量のディルムン期の資料が未整理、未報告のまま死蔵されているからである。 また今年度は、本プロジェクトの3年目にあたるため、いままで以上に研究成果の発信に力をいれていきたいと考えている。今年度は、著名な考古学者であるピエール・ロンバル博士を日本に招聘し、一般向けのセミナーを東京、奈良で計2回実施する予定である。また、あわせてロンドンで開催される国際学会などでも、海外の専門家に向け、過去2回の発掘調査成果を公表する予定である。
|
Causes of Carryover |
今年度、中東地域が政治的に不安定だったため、所属機関から渡航の許可がおりず、当初発掘に参加する予定だったメンバーの渡航がキャンセルとなったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度、古墳内から得られた炭化物の放射性炭素年代測定費用にあてる予定である。
|