2016 Fiscal Year Annual Research Report
新興国の援助ドナー化プロセスの比較研究:「新興国アイデンティティ」
Project/Area Number |
26301016
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
近藤 久洋 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 教授 (20385959)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 誉明 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 准教授 (00384165)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 規範 / アイデンティティ / 新興国 / 援助 / 人道主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書では、本研究が「新興国アイデンティティ」という観点から新興ドナー援助の形成・変容を理解することを目的としていることをこの目的のため、1年目には、先行研究・政策のレビューを通じて、(1) 国際社会における新興国の位置づけ・アイデンティティとは何か、(2) そうしたアイデンティティは新興国の国際行動(対外援助を含む)にどのような影響を及ぼすか、(3) 新興国援助はどのように変容しつつあるか、(4) G20の枠組みが総体的に重要性を増す中で、新興国の援助は伝統先進国の援助レジームにどのような影響を与えうるか、という問題を扱うこととした。 3年目には、2つの活動実績を残すことができた。 第一に、2年目から注目している人道主義という特定規範に対し、新興国がどのような距離感を持つかについて、主要新興国を比較分析した論考を取りまとめた。当初、2年目に公刊予定であったが、加筆・修正等が重なり、2017年3月に『東洋文化』特集号に査読付き論文として公表している(研究代表者・研究分担者)。研究代表者の論文では、韓国・台湾・湾岸ドナー・南アフリカの人道主義を比較し、人道主義に対する各ドナーの受容度に差異が見られる要因として、各ドナーが持つアイデンティティ・規範が影響していることを論じた。研究分担者の論文においては、紛争地帯の周辺に形成される諸国は「難民受入」を行っているが、通常「難民受入」は援助として認定されていない。しかし、その実は、先進国・新興国が紛争国で行う人道支援と変わらず、「あらたば人道支援」として捉えられるべきと論じた。 第二に、比較政治学会において、やはり特定規範としての人道主義に対する新興国の受容の差異を決定する要因を特定した(研究代表者)。特に、コンストラクティヴィズムの分析視角に基づき、国際社会における各ドナーのアイデンティティが大きな決定要素であると提起した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査方法別に研究の進捗度を整理すると、第一に、文献レビューは順調に推移している。研究代表者・研究分担者ともに、援助論・新興国分析・人道主義に関する主要書籍・論文の検討により、分析枠組みと具体的事例の双方についてのデータを得ている。 第二に、本研究費の多くを占める現地調査計画については、研究代表者が、新興ドナーとして台湾を、援助受入国としては主要ドナーが援助競争を展開するカンボジアについて現地調査を行っている。当初予定であった南アフリカ・中東については、昨年度、研究代表者・研究分担者ともに国際協力機構(JICA)の調査プロジェクトに急遽参加することになったため、充分な調査期間を確保することができず、2017年度に実施を見送った。 研究成果の公表はほぼ順調である。2015年度に公表した論文のなかで、今後の研究の分析枠組みを提示しており、本年度2016年6月の学会報告(研究代表者)、2017年3月の査読論文(研究代表者・研究分担者)のいずれも分析枠組みに基づく新興国の人道主義規範について研究成果を発表できている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究期間の延長を申請し、幸いにも承認が得られ、本研究プロジェクトは2017年度も引き続き行うことになった。2017年度は、(1) 2016年度に実施できなかった現地調査の実施と、(2) outputの取りまとめ、の2点を行う。 第一に、現地調査に関しては、研究代表者が南アフリカでの現地調査を行う。南アフリカは援助実施期間の本格整備が始まったばかりであり、新興国でのドナー化プロセスが進行形で確認できる貴重な事例である。従って、南アフリカの援助がどのように形成され、規範がどのように影響してきたかを調査することは、未だに先行研究が扱っていない事例となるであろう。研究分担者は中東諸国の援助について現地調査を行う。中東諸国は先進国のような援助調整機関を自ら形成しており、どのような要因(規範を含む)が援助機関相互の制度化を進めたかを分析する上で、興味深い事例である。従って、南アフリカと中東諸国は現地調査対象として外すことが困難である。 第二に、本研究プロジェクトの当初の目標である英語ジャーナルにおける論文発表もイギリスのジャーナルの特集号として掲載される予定である(特集号の構想は確定しているが、脱稿は2017年春以降である)。
|
Causes of Carryover |
平成28年度春から援助機関における新興国援助研究会の中心メンバーとなり、当初予定の8月の南アフリカ、9月のアラブ諸国における現地調査を予定通りに実施することができなかった。その結果、当初予定されていた旅費についての執行ができなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
幸いにも補助事業期間の延長が認められ、平成29年度には、7月に南アフリカで現地調査を、9月にはアラブ諸国もしくはルワンダの調査を予定している。新たにルワンダを調査対象としたのは、数多くの援助が流入しているルワンダで現地調査をすることで、援助受入国が各国ドナーにどのような認識を持っているかを把握するためである。 英文ジャーナルへの校閲費用も使途に含めている。 平成29年度は援助機関の研究会での業務が少なく、現地調査を行い、10月には研究成果を取りまとめ、国内学会で報告と英文ジャーナルへの寄稿をしたい。
|