2015 Fiscal Year Annual Research Report
貧困削減と切花輸出産業の発展:ケニアとエチオピアの事例
Project/Area Number |
26301018
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
真野 裕吉 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (40467064)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 綾 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (20537138)
松本 朋哉 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (80420305)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 貧困削減 / 園芸産業 / 技術採用 / 販路 / 雇用創出 |
Outline of Annual Research Achievements |
<ケニア> 2015年8月から9月まで出張し、中部ケニアの約300農家に対して、調査および研修を行った。対象農家については2011年から調査を続けており、伝統的な作物に加えて、最近では、水と市場へのアクセスの良さを生かしてさまざまな野菜や切花を栽培しているのが特徴的である。これらの農家は必ずしも新しい作物の栽培方法についてきちん教わったことがない。また、農業のカギとなる土壌管理の仕方についても通り一遍の知識しかなく、せっかく土壌テストを実施しても、本人はおろか、近隣にその結果を解釈することができる専門家もいない。また、さまざまな作物を栽培し、販売しているが、きちんと帳簿をつけていないため、それぞれの作物からどのくらい所得を得ているのか、自分でもわからない。 本プロジェクトではモイ大学出身の農業普及委員を雇い、対象の13農民組合を訪問し、1)園芸作物の生産(トマト、キャベツ、あるいはジャガイモ)、2)前回収集した土壌サンプルの調査結果を基にした土壌管理、3)シンプルだが各作物からの所得を把握できる帳簿付け、についてトレーニングを提供した。また、合わせて彼らの情報ネットワークについて調査を行い、新しい知識がどのような経路によって農家に浸透していくのかについても情報を収集した。 2016年1月にケニアを再訪し、上記の研修の効果を計測するために、フォローアップ調査を行った。現在は、収集したデータの分析を行っている。
<エチオピア> 大規模切花農園について独自に収集したデータを分析し、利潤の低い農園が退出したり、経営効率の低い農園が買収によって経営陣が交代することによって、産業全体として資源配分が効率化していることを示した論文が査読付き学術誌に掲載された。また、切花産業が労働者にもたらす貧困削減効果について論文をまとめ、学会などで報告している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<ケニア> 東アフリカの小規模農家の間で園芸作物の生産が急激に増加している。伝統的な作物に比べ、園芸作物は多様なインプットを使用することと収穫・販売の頻度が高いために、収支の把握が難しくなる。そのために帳簿をつけて収支を把握することが、利益を高めるためにより重要である。しかし、現状は多くの小規模農家が帳簿付けを行っていない。2015年度は、セントラル・ケニアの花卉などの園芸作物を生産する小規模農家に対して、簡易な農業簿記に関するワークショップを行った。その後そうした技術指導がどれくらい根付くか、所得への影響はどの程度かを検証するために、フォローアップ調査も行った。現在データの解析と論文執筆を進めている。
<エチオピア> 2015年度は、大規模切花農園について本プロジェクトで独自に収集したデータを分析し、研究成果をまとめた論文が査読付き学術誌に掲載された。利潤の低い農園が退出したり、経営効率の低い農園が買収によって経営陣が交代することによって、産業全体として資源配分が効率化していることを示した。 さらに、それまでに収集したエチオピア切り花産業の労働者とそれ以外の産業の労働者のデータの分析を進め、論文の形にまとめ、国内外の学会で発表した。分析の結果、切り花産業従事者は、他産業に比べて所得や貯蓄率が高く、仕事に対する満足度も高いことが明らかとなった。所得が高いのは企業側に離職率を抑えたい狙いがあること、貯蓄率が高いのはワーカー間の交流の密度が高いことが背景にあると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
<ケニア> これまでに収集したデータを元に論文にまとめ国際学術雑誌への投稿、掲載を目指す。執筆中の論文は2本あるが、まず一つ目は園芸作物生産への農民組合の役割に関するもので、特に、販売価格への影響及び生産性への効果を検証している。第2の論文は、農業簿記に関するワークショプで帳簿付けがどの程度根付いたか、また参加者のどのような属性が帳簿付けの習慣化に影響しているかを検証する。
<エチオピア> 2016年度は、これまでの分析でまだ使用していないスーパーバイザーのデータを用いて、心理的要素やスキルが所得や貯蓄率、転職等にどう関係するかを検証する計画である。また、これまでの分析で切り花産業の労働者は貯蓄率が高いことが分かったが、そのメカニズムを解明するため、特にROSCA(無尽講)の利用に関して現地で追加調査を実施したい。 さらに、労働者の調査と並行して、切花農園の全数調査も行いたい。われわれは2008年からすでに4回にわたり、エチオピアの切花農園の詳細な情報について全数調査を実施し、パネルデータを構築している。ここに独自の調査による最新のデータを追加し、希少価値の高い研究を推進したい。2016年9月ごろから、鈴木と真野が現地に出張し、予備調査、質問票確定、調査員研修、本調査と作業を進める。労働者数、生産量、販売額などの一般的な変数だけでなく、経営者の人的資本や経営システム、販路などの情報も収集することで、近年非常に注目を集めている経営が企業の業績にどのような効果をもたらすかについても明らかにし、エチオピア切花産業の発展の仕組みを明らかにする。
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Causes of Carryover |
ケニアにおいて委託調査を行うことを想定して科研費を獲得したが、近年各国の研究チームが盛んに調査を行っているため、予想をはるかに上回る勢いで委託調査費が高騰してしまった。そこで、松本と真野が現地への出張を当初の予定より延長し、調査員らを直接雇用することで、委託によらない、独自の調査を行った。そのため、松本と真野の貴重な研究時間を犠牲とした代わりに、委託費として準備した予算の一部を節約することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016度は、当初から予定していたエチオピアでの切花農園の調査に加えて、次年度使用額を活用することで、切花産業の労働者のフォローアップ調査を行う。
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Research Products
(7 results)