2014 Fiscal Year Annual Research Report
フェアトレードによるインパクトの地域間比較:徳の経済を念頭に
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26301020
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
池上 甲一 近畿大学, 農学部, 教授 (90176082)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧田 りえ 立教大学, その他の研究科, 准教授 (20585450)
鈴木 紀 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (40282438)
辻村 英之 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50303251)
坂田 裕輔 近畿大学, 工学部, 教授 (50315389)
鶴田 格 近畿大学, 農学部, 准教授 (60340767)
山尾 政博 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70201829)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フェアトレード / 徳の経済 / 貧困削減 / 南北問題 / 認証制度 / 5つの資本論 / インパクト評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、いわゆるフェアトレード(以下、FT)を「徳の経済」(Economy of Virtue)の実践形態として捉え、その定着・拡大の前提条件となるFT の効果を測定するための考え方と手法を開発する。とくに徳の経済を理論的背景とした地域間比較を行えるような分析枠組みと評価手法の開発を目指して研究を進めてきた。その際、生産者に対する所得向上などの直接的効果だけでなく、生産地における社会構造や価値観などの間接効果についても明示化を計る。あわせて、消費者への効果についても研究を進めている。 本年度は生産者・生産地に対するFT効果の評価枠組みを作る上で必須となるケース・スタディの深化と消費者に対する効果を解明するための理論的、実態的潮流に焦点を合わせた。前者については、従来の研究蓄積をベースに9月に開催されたアジア農村社会学会で報告を行った(報告内容は同学会編集の論文集に掲載、池上、牧田、鶴田、西山、箕曲)。また11月の第7回白山人類学フォーラム(東洋大学)で池上、鈴木、箕曲が報告を行った。後者については、倫理的消費とフェアトレードとの関係を考察し、日本におけるその実情と可能性について研究を進めた(大野)。 ケース・スタディについては農水産物と手工芸品を対象に調査を行った。農産物ではコスタリカとパナマのカカオ(鈴木)、タンザニアのコーヒー(辻村)、タイの有機米(鶴田)について、手工芸品ではタイ北部山岳地帯(坂田)とインドネシア・バリ島(箕曲)を対象に、さらに水産物の世界貿易におけるMRCなどの認証制度の意義(山尾)について調査を行った。その結果、それぞれの生産実態と担い手、抱えている課題が明らかになったが、とりわけ認証の意義と限界、ケイパビリティーの向上に果たすFT社会開発プレミアムの役割、観光業への事業拡大などをFT効果の評価枠組みに反映させる必要のあることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フェアトレードによるインパクトの地域間比較を行うために必要な基礎文献を収集するとともに、研究組織メンバーによるフィールド調査が順調に進んでいる。その結果を研究会で報告し、全員で共有して次年度のFT効果評価の枠組み作成に向けた準備を整えることができた。FTの対象商品としてはこれまで代表的な熱帯産品であるコーヒー、カカオ、紅茶、バナナを調査してきたが、タイ北部およびインドネシア・バリ島の手工芸品を加えることができ、FT効果評価の対象品目の充実に役立つと考えられる。本研究の前身である科研で行ってきた従来の調査蓄積もふまえた研究結果を国際学会や国内学会などで積極的に発表するとともに、論文や図書として公刊した。またアジアにおけるFT認証と有機認証を利用した農業発展についての図書刊行の準備も進んでいる。 徳の経済については、研究代表者を中心に文献の収集に力を入れ、アダム・スミス以外の経済学者における「徳の経済」の流れを概略的に把握できた。次年度には論文または口頭報告で公表する準備ができつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に行った研究会の議論ならびに実態調査の結果をふまえ、FT効果の評価枠組みのドラフトを早期に完成させ、本年度の実態調査に利用する。その結果をふまえて、ドラフト版を改善し、総合的・複合的な評価ができるように、使い勝手の良い評価枠組みを確定する(アカデミック版)。その後、NGOやJICAなど、FTや国際協力に携わる組織・機関に協力を仰いで、実践的なものも用意する(実務家版)。 消費者へのFT効果については、フランスまたはイギリスにおける現地研究者の協力をえて、実態調査を効率的に行うとともに、効果測定の枠組みについてもコメントを得る。 文献のデータベース化についてはフォーマットを設定し、サマリーのできたものからオルタトレード研究会のウェブサイトに逐次アップしていく。 徳の経済の理論化に関しては、これまで招聘してこなかったアダム・スミスやマーシャルの経済思想に関する専門家を講師として招き、論点の明確化と深化を計る。
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Causes of Carryover |
研究代表者の池上が5月から2ヶ月間入院したため、ヨーロッパにおける消費者調査を実施できなかった。また研究分担者の坂田が学内管理職に就いたため、実態調査を行うことができなかった。さらに研究協力者の大野がイギリス、ドイツ、イタリアの消費者によるフェアトレード評価を調査する予定であったが、学務上の理由で延期せざるを得なくなった。その分を研究資料の購入である程度カバーしたが、入荷に時間がかかり、次年度まわしとなっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度は、2014年度にめどがついたラオスの民芸品を対象とするフェアトレードについて池上が1週間程度の調査を行う(海外旅費25万円、車借り上げ+謝金10万円)ほか、国際学会誌への投稿にともなう英文校閲料に25万円を予定する。また収集した資料や文献が蓄積されてきたので、2015年にはアルバイトを雇用して整理することとしたい(15万円程度)。
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Research Products
(42 results)