2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26301030
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 洋子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90202176)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 労働政策 / 労働時間 / ワーク・ライフ・バランス / パートタイム / ドイツ / 人事政策 / 育児 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
仕事をする労働時間と、さまざまなケアのための時間を柔軟に調整するための政策、すなわち時間政策が大きく普及しつつあるドイツの働き方を、制度と実態の両面から明らかにするため、まず論文・報告書・文献についてのサーベイ研究を行った。 さらに企業・職場レベルでの実際の運用を明らかにするため、7月に11日間の日程でドイツの調査を行った。まずデュッセルドルフの経済社会研究所を訪問し、関係する労働研究者との研究協力体制をつくった。その後ボンのフリードリヒ・エーベルト研究所において文献・資料収集を集中的に行った。その中で、育児を行う女性のパートタイム労働が1960年代から少しずつ拡大したこと、しかしその際に日本のパートの時給制度とは異なる、時間割合の給与があらわれていたことが明らかになってきた。 また、シュトュットガルト市のダイムラー社本社および全従業員代表委員会において、育児と仕事の両立を可能にする労働時間がどのように調整されているか、インタビュー調査を行った。この中で、子供をもつ女性はもちろん、肉体的疲労を感じている中高年の男性労働者を含めて、非常に柔軟に労働時間が運用されていることが明らかになった。 こうした時間政策や独自のパートタイムの展開について、4月5日にはドイツ経済研究会での報告、8月3日には立教大学での社会政策学会大会準備報告会での報告、9月19日には韓国・ソウルでのワークショップにおいて報告、10月11日には社会政策学会大会共通論題報告、12月2日には中央大学企業研究所研究会での報告を行った。また2015年1月10日にデュッセルドルフ大学・筑波大学・国際交流協会の主催で行われたシンポジウムにおいて、仕事とケアの間で揺れ動く日本とドイツの女性をテーマに招待講演を行った。1月22日にも山口大学にて女性労働の国際比較についての報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は文献研究と海外調査の両面で、若干の遅れはあるものの、おおむね順調に進んでいる。研究会やワークショップ、シンポジウムでの7回の報告の準備を行う中で、これまでの報告書や文献、最新の論文などの先行研究のサーベイを進めてきた。同時に、海外調査を行う中で、一方では企業現場でのインタビュー調査を通じて具体的な職場実態や、仕事と家庭の実際の両立の仕方・運用方法などについての事例を明らかにすることができた。また現地での文献・資料を収集し、それを分析する中で、これまではっきりしなかった歴史的な経緯が徐々に明らかになってきた。この点は日本との比較研究をする際に特に重要な点になると思われる。 研究の中でわかってきた点、とりわけ育児をはじめとする家族への責任と仕事との調整をパートタイム労働で行う点については、さまざまな形で報告することができた。その中でも、特に社会政策学会大会共通論題で行った報告、デュッセルドルフ大学で行ったシンポジウムでの報告には研究者から大きな反響があった。ただし、報告原稿はあるものの、論文投稿を行っていないため、本年度の総括としてこの点は次年度に行う予定である。 また、研究計画にいれていたとおり、ベルリン・フンボルト大学国際研究所での「リ・ワーク(労働再考)プロジェクト」に、このテーマについての英語論文を書いて応募したところ、フェローとして採用されることが10月に決定した。これにより計画どおりドイツでの海外調査がよりスムーズに行えることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の成果を踏まえて、育児をめぐる時間政策についての論文を完成させ、発表していくのと平行して、介護をめぐる時間政策についての研究を進めていく。介護についての制度はまだはじまったばかりであるため、まず最初に法律と制度の仕組み、普及の度合いを検証する。それが実際にどのように運用されているかについては、最新の調査・論文に目配りをしつつ、現地調査を進めていく。 まず、7月にドイツに調査に行き、ドイツ労働総同盟・サービス産業労働組合・ドイツ経済団体連合・ドイツ商工会議所などでの時間政策についてのインタビューを行う。育児や介護などのケアのための時間をどのように確保するかという問題をめぐり、各組織がどのような姿勢でのぞみ、また何を問題にしているかをはっきりさせていきたい。 さらに制度と実際の運用、またその一致や乖離の関係についての調査を進めるため、企業レベル、職場レベルでの調査も行っていきたい。企業内資料・統計を収集するとともに、人事部・ダイバーシティー委員会、従業員代表委員会・労働組合へのインタビュー調査を行っていく。こうした調査を先行研究の中で位置づけながら、論文としてまとめていく。 10月からはベルリン・フンボルト大学での「労働再考」プロジェクトにはいりつつ、この研究と現地調査を進める。11月1日には、社会政策学会秋季大会にて報告を行う予定であり、これを英語論文として2016年1月4日にアメリカ雇用労働学会LERAにてセッション報告を行う予定である。さらに1月8日にはベルリンでの国際比較ワークショップを日独ベルリンセンターおよびベルリン・フンボルト大学との連携のもとで行うつもりである。これらで行われた議論を踏まえて、英語論文を完成させ、発表する計画である。
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Causes of Carryover |
研究遂行上の必要性から、アンケート調査について、国と企業における制度的枠組みについて明らかにし、その特徴を認識したあとに行うこととした。そのため、アンケート調査やそれに付随する翻訳・校閲費用などを次年度に繰り越しすることとした。また、日程の都合でドイツでの調査期間を少し短めにしたため、次年度において現地調査をより大きな規模で行うこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に行った調査が比較的短めだったこと、またアンケート設問調査を後にまわしたことを踏まえ、次年度にはドイツでの調査をより大きな規模で行い、またアンケート調査の遂行、それに伴う翻訳・校閲費用などにあてることとしたい。
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