2015 Fiscal Year Annual Research Report
迷惑施設をめぐる権利の正当性:日中での比較調査・実験・ゲーミングによる多角的検証
Project/Area Number |
26301031
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
野波 寛 関西学院大学, 社会学部, 教授 (50273206)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田代 豊 名桜大学, 国際学部, 教授 (20441959)
坂本 剛 名古屋産業大学, 環境情報学部, 准教授 (30387906)
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 正当性 / NIMBY / 迷惑施設 / ゲーム / 内モンゴル自治区 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在のわが国では原子力施設や軍事基地など、いわゆるNIMBY(Not in my backyard, 広域多数者への公益供給に不可欠な点から多くの人々がその必要性を認める一方、立地地域に損害を及ぼすため自分の居住地への立地には誰もが反対する)の構造を有する迷惑施設の是非が喫緊の問題となっている。こうした公共施設には利害や価値観の異なる多様な人々(アクター)が関与するため、その是非に関する合意形成には、当該施設の是非の決定権を「誰に」「いかなる根拠から」承認すべきかの判断を、アクター間で一致させることが重要である。 本研究では、迷惑施設の是非に関する決定権の承認可能性を“正当性(legitimacy)”と定義し、公共財の管理権をめぐる多様なアクター間での正当性の相互評価構造をシミュレートした参加体験型ゲーミング“誰がなぜゲーム(WWG)”(野波, 2011)のNIMBY問題への転用可能性を検討した。また、WWGのオンライン版の作成を進めた。さらに、中国(内モンゴル自治区)と日本での調査を通じて、迷惑施設に関わる当事者と非当事者の認知や情動過程を検証した。迷惑施設をめぐる合意形成過程を模擬体験させる教育・訓練用ゲームとして“誰がなぜゲーム/NIMBY版(WWG/NIMBY)”の有効性が裏づけられ、そのオンライン版のプログラムがほぼ完成した。内モンゴル自治区での調査からは当事者のコミュニティにおける正当性の抑制が示唆され、日本での調査からは当事者と非当事者の合意形成における共感性の重要性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、①NIMBY問題へのWWGの転用、②そのオンライン版の作成、③当事者と非当事者の合意形成に影響を及ぼす認知・情動過程の検証という3点であった。 これら3点について、現状でいずれも一定の成果が得られ、これまでに野波(2015)、野波・大友・坂本・田代(2014)、および野波・坂本・大友・田代(2014)などの学会発表がなされた。また一部は、論文として公刊された(野波・大友・坂本・田代, 2015)。 本プロジェクトは、シミュレーション・ゲーミングとともに、国内外での調査研究および場面想定法による調査実験も併用した総合的研究となった。迷惑施設をめぐる多様なアクターの正当性について、多面的な手法・フィールドを用いて検討した本プロジェクトの成果は、原子力施設や軍事基地など、現在のわが国が直面する迷惑施設の合意形成問題に結びつく、応用可能性の高い知見であると言える。たとえば、地層処分場の是非を焦点とした体験型ゲーム“誰がなぜゲームNIMBY版”(WWG/NIMBY)に関しては、2016年4月現在、本プロジェクトの成果をもとに産官学提携の共同プロジェクトの立案を進めている段階である。本プロジェクトの成果には、地層処分場をはじめとした迷惑施設をめぐる係争解決の手段提供につながる大きな発展可能性を見こむことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトは、調査および実験の進行についてはおおむね予定通りだが、迷惑施設をめぐる合意形成過程を模擬体験させる体験型ゲーム“誰がなぜゲームNIMBY版”(WWG/NIMBY)のオンライン版作成は、当初の予定よりも遅れている。これは、プログラミング作業に多大な時間を要しているためである。現時点でプログラムそのものはほぼ完成し、Web上でのゲーム実施について今後の見通しも立っているが、そのために必要な改善点がいくつか、明らかになっている。今後さらに、画面上でプレイヤーに呈示するガイダンスなどの教示文を改善することで、Webへの導入が可能となる見込みである。2016年度はこの作業を中心に進める予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度内に計画、遂行した調査(委託調査)の契約額と、海外(内モンゴル自治区)で実施したフィールド調査に要した旅費が、いずれも当初の予定額より低かったことから、当該助成金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
プロジェクトの一環である体験型ゲーム(“誰がなぜゲーム”NIMBY版)のプログラム作業を進める委託経費として使用する。
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Research Products
(10 results)