2014 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義国の大学運営における党組織の役割変容に関する比較研究
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26301040
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
近田 政博 神戸大学, 大学教育推進機構, 教授 (80281062)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会主義国 / 大学ガバナンス / 共産党 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、市場経済化が進行している社会主義国の大学において、これまで政治的に厳しく制限されてきた「アカデミック・フリーダム」、すなわち大学における「運営の自由」、「教育・研究の自由」、「学ぶ自由」がどこまで認められうるのかを、現地調査によって検証することである。本研究の調査対象は、市場経済化が進行あるなかで共産党による実質的な一党支配体制を今なお堅持している中国とベトナムである。大学での研究活動においては、政策担当者や個別の政策批判までは許容されるが、今なお公の場における体制批判は認められていない。教育活動においても、大学で扱うべき専門分野のカテゴリーを国が直接規定しており、大学教員の裁量は大きく制限されている。 大学内の組織構造の点でも、社会主義国の大学は西欧型の大学とは大きく異なる。大学トップは学内の党委員会書記であり、学長は党委員会書記に次ぐ立場であることが通例である。大学の最高レベルの方針は党委員会において決定され、各部局に教授会は存在しない。したがって、一般の教員が大学の意思決定に参加する機会は限られている。その代わりに教務や人事などの管理部門が大きな権限を握っており、こうした管理部門を統括するのは共産党員の上級教員(教授、副教授など)である。 中国の各大学では2013年から大学憲章(原語では大学章程)を作り始めている。大学憲章は各大学の党常務委員会で決定したのち、中央政府である教育部が承認する仕組みとなっている。教育部が各大学に憲章を作らせているのは、社会に対する各大学の発信力を高めつつ、内部ガバナンスを高めさせたいというねらいがある。従来の中国の大学には細かな規則はあったが、憲章の形で公開することはなかった。ベトナムの大学においても、党の役割を文章で明文化しながら、各大学のミッションをホームページ等で公開する動きが活発になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度の主な調査項目は、大学教職員は人事・予算および大学運営において、どの程度の自律性を保障されているのか。その自律性の大きさに変化はみられるのか。学内の意思決定において、党委員会、教員集団、事務局の関係性はどのようになっているのか、であった。調査対象者は、中国教育部およびベトナム教育訓練省における大学教育担当部局の幹部、各大学における党委員、複数部局の学部長・学科長、事務局幹部(教務処、人事処等)。収集すべき資料は大学の組織構造、運営、予算、人事等に関する学内通則、規則、内規等。大学内の党組織に関する規程等。新任教職員対象の研修等で通知される服務規程等 であった。 平成26年8月に上記の内容を調査するためにベトナム・ハノイ市と中国上海市・南京市を訪問した。ところが、中国では習近平政権の方針により、大学管理職に対する中央政府の監督が強まっており、大学内の党組織に関する規程等の内部文書を入手することができなかった。また、研究代表者自身が本務校における管理運営業務が激増し、補足調査をすることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、社会主義国(中国とベトナム)の大学において大きく制限されてきた「アカデミック・フリーダム」の可能性を、「運営の自由」、「教育・研究の自由」、「学ぶ自由」の3つの側面から考察したい。そして、これら3つの側面を統制と緩和のバランスという視点から分析したい。本研究が扱う範囲と明らかにしたい点は次のとおりである。 人事・予算に関する政府の大学管理にはどのような法的論理が用いられているか。大学教職員は人事・予算および大学運営において、どの程度の自律性を保障されているのか。その自律性の大きさに変化はみられるのか。 教育・研究活動への政治的制約はどのような論理、手段に基づいているのか。市場経済化に伴って、研究活動への制約が緩和されつつあるのか。それは、いかなる高等教育機関、研究分野において顕著か。 社会主義理念を体現する必修科目である政治思想科目、生産労働実習、軍事訓練などはカリキュラムや教科書においてどのように規定され、実施されているか。急激な市場経済化によって、これら政治必修科目の履修内容は現実世界の変化にどのように対応しようとしているのか。統一的・系統的な知識の伝授を重視し、同時にその弊害を認識してきた中国・ベトナムの高等教育において、批判的思考法や自律的な学習を組織的にどのように促進・奨励しようとしているのか。学生の大学運営への組織的参加はどの程度認められるのか。
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Causes of Carryover |
研究補助アルバイトの採用が予定よりも一ヶ月近く遅くなり、その分の人件費が予定よりも約5万円少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に研究補助アルバイトの勤務時間を当初の予定よりも増やすことによって調整することが可能である。
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Research Products
(4 results)