2014 Fiscal Year Annual Research Report
掛け合い歌のメカニズムを応用した音楽学習過程の研究―アジアの民俗音楽調査をもとに
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26301043
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
伊野 義博 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (60242393)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 幸正 国立音楽大学, 音楽学部, 教授 (60440301)
権藤 敦子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70289247)
加藤 富美子 東京音楽大学, 音楽学部, 教授 (30185855)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 掛け合い歌 / 掛唄 / 音楽学習過程 / 音楽教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、即興的に掛け合う歌唱行動が歴史的にも地理的にも受け継がれているアジア地域の「掛け合い歌」について、ブータンを中心に民俗音楽的な調査を行い、その成果を音楽教育学へと応用し、日本の学校音楽教育の新しい方向性を見出すことにある。具体的な目的は、①「掛け合い歌」のメカニズムを明らかにすること、②その結果を学校教育に照射し、音楽の学習過程を捉え直すこと、③音楽教育の新たな方法論として提案することの3点である。 平成26年度は、これまで継続してきたブータンの「掛け合い歌」の調査を補完し、その全体像を描くとともに、日本の「掛け合い歌」の調査を行い、その多様性を見える形で示した。また、音楽教育における「掛け合い歌」の可能性と意義について明らかにした。具体的な内容は以下の通りである。 ①ブータン東部(タシガン、メラ)における「掛け合い歌」であるツァンモとカプシューの調査を現地研究協力者とともに行った。②秋田県横手市金澤八幡宮の掛け歌大会を調査した。また、同日開催された日本民俗音楽学会第9回民俗音楽研究会において、公開パネル・ディスカッション「つくりうた・かけうたの諸相―うたをつくる」に参加するとともに、「掛け歌に関するレビュー」「音楽学習過程と替え歌の関連性」について研究発表を行った。③これらの調査・研究をもとに、日本音楽教育学会第45回大会では、「掛け合い歌の教育学Ⅰ」と題して、ラウンドテーブルを実施し、掛け合い歌の教育的意義、歌謡史から見た音楽学習の再考、音楽創作表現の可能性などの点から検討し、「歌を掛け合うこと・歌をつくること」を音楽教育に生かすための提案を行った。 以上の成果は、論文及び研究報告として、『民俗音楽研究第40号』(日本民俗音楽学会、掲載予定)、『音楽教育学第44巻第2号』(日本音楽教育学会)、大学紀要等に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた、ブータン東部メラにおける「掛け合い歌」の調査を順調に行うことができた。また、ここでは、これまで調べてきたツァンモではなく、あらたにカプシューと呼ばれる歌と言葉のやりとりが混在した掛け合いがあること、及びそれら実際を明らかにすることができた。同時に行われたタシガンでの調査では、ブータン各地の出身者のツァンモの体験、実際をインタビューし、ツァンモが国語であるゾンカ以外の土地の言語で歌われたり、学校教育における新たな伝承の実態が浮かび上がったりしている。 26年度の調査とこれまでの継続研究とを合わせることにより、広くブータンに伝承される「掛け合い歌」ツァンモ及びそれに類似するカプシューの具体的な内容、現状、歴史的文化的背景、構造などを明らかになってきた。また、秋田県横手市の「掛け歌」の調査とも関連させつつ、音楽教育研究の歴史的背景も勘案しながら、音楽教育へ生かすための可能性について提案も行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、ブータンにおける「掛け合い歌」ツァンモ等の継承の現在を探る。すなわち、学校教育における伝統文化としてのツァンモの位置づけや指導の実際、ツァンモ大会などの参観、教員へのインタビューなどを通して、伝統文化としてのツァンモ継承の課題や意義について実態調査を行う。また、ラジオをはじめメディアの活動の実際、放送内容や活動方針等について、実態調査する。さらに、現地専門家よりブータンの歴史、言語的文化的背景、伝統音楽の専門的内容等について教授を受ける。日本においては、秋田県横手市の「掛け歌」の調査を継続するが、ラオス、チベット族の「掛け合い歌」を調べ、アジアの他の地域に調査範囲を拡げる。これらの結果と先行研究のレビューと重ね合わせ、社会的文化的コンテクストを踏まえた掛け合い歌のメカニズム解明に迫る。 以上の成果は日本民俗音楽学会等で発表するとともに、「掛け合い歌」の構造、場の生成などの分析から、歌が生まれるメカニズムについて検討し、「うたをつくる・掛け合う」といった活動が教室においてどのようになされるのか、また、それは現在の子どもにとってどのような意義を持つのか、現場教師と協同しながら音楽教育上の実践を試みる。 日本音楽教育学会においては、掛け合うという双方向的なコミュニケーション活動と即興的につくるという行為の実践例として示し、音楽教育のカリキュラムの発想へと結び付けるべく提案を行う。 以上の成果を学会誌、紀要等にまとめ、公表する。 平成28年度は、研究のまとめとして、「掛け合い歌」のメカニズムを学校教育に照射し、音楽の学習過程を捉え直し、音楽教育の新たな方法論として提案する。
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Causes of Carryover |
対象地域(ブータン)への調査を予定していたが、調査地域が3500mの高地であり、調査者の体力を考慮したことにより、予定人数の一名減で調査が実施されたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度分を利用し、本年度分に加え、対象地域(ブータン、中国、ラオス)での調査内容を充実させる。ブータンの場合、平成27年度は、首都ティンプーを中心とした、比較的低地での調査である。中国では、内モンゴルに加えチベット族の調査も実施したい。主として現地までの交通費、謝金に使用する。
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Research Products
(13 results)