2015 Fiscal Year Annual Research Report
ミャンマーの古代湖・インレー湖における固有魚類の現状,起源,および保全
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26304007
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡辺 勝敏 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00324955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鹿野 雄一 九州大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60467876)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 固有種 / 淡水魚 / 古代湖 / 東南アジア / 外来種 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミャンマーの古代湖・インレー湖には,16種の固有種を含む30余種の在来淡水魚が記録されているが,長らくほとんど研究調査が行われないまま,環境改変と外来種の移入のために,その生物多様性が危機にさらされている.本研究は,在来および外来魚類の生息現状の調査,データベース化,および分子遺伝学的手法による固有種の起源に関する研究を行い,インレー湖の貴重な固有魚類相の現状を明らかにすることにより,その学術的・生物資源的価値を顕在化することを目的としている. 野外調査:第2年度は,10~11月の約3週間および3月の2週間にわたり,インレー湖周辺において野外調査を実施した.それぞれ日本から2名および3名,またタイの研究協力者1名が参加し,ミャンマーの森林局等の協力を得て,インレー湖および下流モビエダムを含む周辺水域で魚類標本の採集を行った.さまざまな方法で収集した各魚種の生鮮写真,遺伝子分析用試料,そして分布や生息情報に関する情報を得た.入手した魚類標本は,ミャンマーの研究者との協議を経て,タイ・カセサート大学に移動し,標本の登録管理作業を進めた. 遺伝分析:インレー湖周辺より得られた遺伝分析用試料についてDNAバーコーディング(mtDNA COI)領域ほかの遺伝子塩基配列を決定した.バーコーディングはほぼ全種に関して完了した.東アジア要素として注目すべき固有種であるコイ属とコイの養殖集団の交雑状況およびコイ属固有種の系統的位置についての分析を進めた.ミトコンドリア全ゲノムを用いた系統解析の結果,コイ属の中でもこの固有種が基部に位置することが高い信頼性で明らかになった.また発見された未記載種の系統的位置,形態的難同定種のDNA分類等を各種群について進めた. データベース公開:データベース公開に向けて,データ・写真の整理を進めた.さらに3D形態情報の取得を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査,遺伝分析,データベース公開において,下記のとおり,当初の計画に沿って,おおむね順調に研究は進展している. 野外採集調査:当初秋季に1回の野外調査を行う予定であったが,異なる季節に採集努力を行うことにより成果を上げるため,3月に2回め(通算3回め)の調査を行った.絶滅の可能性もある希少種2種を除くほぼ全生息種の標本および遺伝試料を得ることができた.標本はタイ・カセサート大学において,魚類標本として整理し,保存,活用できる状態となっている. 遺伝分析:約2,000点得られた遺伝分析試料から,各種網羅的に試料を選び,約700個体のDNA分析を完了した.その中で特に注目すべき固有種のコイ属については近縁種とともに系統解析を終了し,論文準備を進めている. データベース公開:初年度および第2年度の野外調査データはすでにデータ整理を終え,3Dデータの取得にとりかかっている.
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Strategy for Future Research Activity |
野外調査,遺伝分析,データベース公開に関し,今後,下記のとおり,基本的に当初の計画に沿って研究を推進する. 野外採集調査:最終年度はこれまでの3回の調査で不十分であったサンプリングを補完するため,これまで得られた情報をもとに,未調査であった雨季前期(6~7月)に野外調査を実施する. 遺伝分析:得られた遺伝分析試料のDNAバーコーディングを完了する.絞りこまれた重点課題に関係して,近縁種の既存データの利用および新たなデータの取得を進め,固有魚類相の起源に関する研究をとりまとめる. データベース公開:データベースならびに現地向けの情報発信を積極的に行う.現地調査による採集・分布データと写真,3D形態情報,およびDNA塩基配列データは,ウェブデータベース「Fishes of Mainland Southeast Asia(FiMSEA)」に登録し,公開する.それに関係する論文を公表・発信する.また現地で取得した写真類を活用した啓発・情報発信・収集用の印刷物を作成,配布する. 学会セッション:9月に開催される日本魚類学会において,ミャンマーから1名,タイから1名の研究協力者を招聘し,本計画に関連する学会セッションを開催し,今後の研究および研究交流の促進を図る.
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Causes of Carryover |
第2年度は当初,野外調査を秋季の1回のみ行う予定であったが,現地調査時の情報収集の結果,異なる季節に調査を行う必要性が高いことがわかり,年度内(3月)に2回めの野外調査を行うことにした.そのため,これまでの調査費に基づく前倒し支払い請求を行い,計画を再検討することとなった.その中で再度大きく旅程や支出内容,経費負担の見直しを行い,前倒し支払い額をよりも少ない経費で2回めの野外調査を実施することができた.その差額として,次年度使用分が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画よりも1回多い野外調査を,調査目的上必要とされる時期に小規模に実施する.また,今後の研究と研究交流促進を図るため,学会時にセッション(ミニシンポジウム)を開催し,そのためにタイおよびミャンマーから研究者を招聘する.次年度使用額の一部はそのためにも利用する.
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Research Products
(4 results)