2014 Fiscal Year Annual Research Report
ベンガル・デルタの農林生態系アリ群集:インドと東南アジアのアマルガム解明
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26304014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
緒方 一夫 九州大学, 熱帯農学研究センター, 教授 (40224092)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江口 克之 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30523419)
高須 啓志 九州大学, 農学研究院, 教授 (50212006)
細石 真吾 九州大学, 熱帯農学研究センター, 非常勤研究員 (80571273)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 系統生物地理 / バングラデシュ / ツムギアリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はバングラデシュでの農林生態系のアリ相およびツムギアリを対象とする系統生物地理の解明を目的とし、南アジアにおけるアリ類の群集生態学および進化生物学的な知見の進展に貢献するものである。 2014度はバングラデシュでの農林生態系モニタリング調査地の選定とツムギアリ(Oecophylla smaragdina)のサンプリングおよびDNA分析を計画した。特に本年度はツムギアリの系統生物地理を明らかにすることに焦点をあてて、2014年11月に中央部(ダッカ管区)と東部(シレット管区など)を調査した。予備調査として2014年3月に実施した西部(クルナ管区とラジュシャヒ管区)からのサンプルとあわせ、6管区(Division)、20県(District)、36郡(ウポジラ)からの39コロニーについてミトコンドリアDNAのCOIとCytbを解析した。 西部、およびダッカ管区の一部についての分析結果から、これらの地域のツムギアリはすべてインド型個体群であることがわかった。従来バングラデシュの個体群は東南アジア型として報告されており、この発見はこれまでの記録とは一致しない。しかし、2014年11月の調査によるサンプルでは、北東部のシレット管区や南東部のコックスバザールの個体群は東南アジア型であり、中央部ダッカ管区では、インド型と東南アジア型が混在することを見出した。つまりバングラデシュでは、西部はインド型、東部は東南アジア型、中央部では両者が混在していることが明らかとなった。 以上より当初に仮説の一つとして予想していた両タイプのガンジス川境界説およびジャムナ川境界説は成立しないこととなるが、メグナ川流域についてはなお詳しい調査が必要である。 なお、西部のクルナ、ラジュシャヒ、およびダッカ管区の一部についての分析結果は、2014年9月の日本昆虫学会第74回大会で口頭にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バングラデシュにおけるツムギアリのインド型個体群の発見により、ベンガル・デルタにはインド型と東南アジア型の両方のタイプの存在が確認され、「アマルガム」としてのバングラデシュの生物地理上の位置づけが検証された。ツムギアリは単一の種であり、インド型や東南アジア型を形態的に区別することはできないが、DNA分析からはCOIについてもCytbについても、明らかに異なる系統として区別でき、2014年度の調査と分析から一応の成果を得たものと評価できる。 農林生態系については、水田以外にサトウキビ圃場やチャ栽培圃場などを訪問したが、十分な調査を行うに至っていない。限られた時間で有効な成果を生み出す調査方法の検討が必要である。 なお、バングラデシュの政情は2014年後半より不安定となり、とくに2015年1月以降はゼネストや暴動等が頻発し、危険な状態にあるため、同時期の調査は断念した。 このように、外部要因により渡航の時期や期間が当初計画と異なり大きく制限されたため、サンプリングが十分行えたとはいえないが、得られたデータからは興味深い事実が明らかになり、全体としては順調に推移していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ツムギアリの系統生物地理:サンプリングについては、ダッカの東方を流れるメグナ川はインド型と東南アジア型の分布を区分する境界としての可能性がある。そのため、本流域についての系統的な調査を行う。また南方部のマングローブ地域とその周辺およびチッタゴンはレフュージアとしての可能性もあることから、これらの地域でのサンプリングも計画する。DNA分析については上記サンプルについてミトコンドリアのCOIとCytbについて引き続きシークエンシングと系統解析を行い、個体群の地理的動態をハプロタイプネットワークにより分析する。 (2)農林生態系のアリ群集調査およびベンガル・デルタのアリ類インベントリー:拠点調査地であるBSMRAUを含め、バングラデシュ各地に点在する試験圃場(イショルディのサトウキビ研究所やスリモンゴルの茶業試験場など)を中心にピットフォール法や単位時間調査法などにより、定量定性的なデータ収集を行う。また、得られた結果およびこれまでの記録よりバングラデシュのアリ類のチェックリストを総括し、インベントリーとしてとりまとめる。 (3)政情不安等により現地調査が不可能となった場合の方策:カウンター・パート等に現地でのサンプリングを依頼する。また、近隣国のミャンマーでのサンプリングに切り替え、これまでに得られた成果と比較し、生物地理的バリアーと考えられるアラカン山脈の意義を考察する。
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Causes of Carryover |
現地調査を2回計画していたが、政情不安のため1回の調査しか実施できず、しかも滞在期間が当初予定よりも短く、計画していた講演による意見交換ができなかったため講演依頼等での謝金が発生しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1.現地研究者との合同でのセミナーをバングラデシュにて開催する。 2.DNA分析結果の評価について、専門的知識を有する研究者に講演を依頼する。
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