2015 Fiscal Year Annual Research Report
緯度の異なるN2O放出ホットスポットでの窒素循環要因の探査と環境修復生物資源調査
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26304042
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
橋床 泰之 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40281795)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 敏澄 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (00343012)
小林 真 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター(天塩演習林), 助教 (60719798)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | N2O放出ホットスポット / N2O還元酵素非欠落型N2O放出細菌 / 酸性泥炭土壌 / 陸生型ミズゴケ / Sphagnum capillifolium / N2Oクエンチャー / Chitinophaga / アブラナ科植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
N2O 放出ホットスポットとして知られるフィンランドの崩壊泥炭地ミズゴケからハイパー・N2O放出細菌の検索を行いPseudomonas属細菌とBurkholderia属細菌を分離した。北海道の黒ボク土コーン畑土壌から先に分離していたPseudomonas属細菌群および熱帯泥炭土壌から分離していたBurkholderia属細菌群と,これら分離細菌の性状を比較した。これらの細菌は,至適pHや炭素源に対する応答,無機窒素に対するN2O生成基質としての受容性,さらにはアセチレン・ブロッキング試験とPCR検出によるnosZ遺伝子の有無の比較検討から,nosZが欠落しているものが多いことが共通点であることが明らかになった。しかしながら亜北極泥炭地から分離したPseudomonas属細菌株はnosZをもち,アセチレン・ブロッキング試験では例外的に極めて強い完全脱窒活性を示した。また,炭素源としてスクロースを与えると,完全脱窒の活性化に引きずられるようにN2O生成量も増加した。 一方,N2O消去に生物種の探索を行った。N2O消去に関わる細菌は,圧倒的に窒素含有量が低くN2O生成が活発な下部層をもつ嫌気的土壌に限られていると思われた。マレーシアの熱帯泥炭土壌で深さ2 mのピートサンプルコアから分離し,既に全ゲノムシーケンスを行ったChitinophaga属細菌No.15株の強力なN2O消去機構を明らかにすることを目的として,22.5 mLを完全にN2Oに置き換えた条件で当該細菌による亜酸化窒素消去活性について,Winogradsky’s sucrose添加ジェランガムソフトゲル培地とpotato-dextrose ゲランガムソフトゲル培地で検証を試みたところ,およそ3週間で99%のN2Oが消去されることを確認した。この消去能は,これまで見出された他のどの菌株よりも明らかに強かった。他のN2O抑制生物資材としてキガラシを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北海道の黒ボク土コーン畑土壌および熱帯泥炭土壌からそれぞれ高N2O放出細菌として分離していたPseudomonas属細菌群とBurkholderia属細菌群細菌を,高緯度N2O 放出ホットスポットとして知られるフィンランドの崩壊中泥炭土壌のアップランド適応性の高い二種の着色性ミズゴケからも分離同定した。得られた細菌分離株の性状を,先に分離していたものと比較したところ,脱窒型ハイパー・N2O放出細菌のかなりの部分がPseudomonas属細菌とBurkholderia属細菌で占められることが明らかになった。しかしながら亜北極泥炭地から分離したPseudomonas属細菌株はnosZを保有し,アセチレン・ブロッキング試験では例外的に極めて強い完全脱窒活性を示した。また,完全脱窒に引きずられるようにN2O生成量も増加し,これまでの不完全脱窒とは異なるN2O放出要因の存在が示唆された。そのため,この菌株を用いた新たなN2O生成機構を見出すことができる。 一方,N2O消去に生物種の探索を行ってきたが,マレーシアの熱帯泥炭土壌で深さ2 mのピートサンプルコアから分離し,既に全ゲノムシーケンスを行ったChitinophaga属細菌No.15株の強力なN2O消去機構を明らかにすることを目的として,22.5 mLを完全にN2Oに置き換えた条件で亜酸化窒素消去活性を調べたところ,ジェランガムで固めたpotato-dextrose培地あるいはWinogradsky’s sucrose添加培地ともに,およそ3週間で99%のN2Oが消去されることを確認した。この消去能は,これまで見出された他の菌株よりも明らかに強かったため,その消去機構に関わる研究の進展が見込まれる。また,N2O消去に関わる細菌は,圧倒的に窒素含有量が低くN2O生成が活発な下部層をもつ嫌気的土壌に限られるため,第2,第3のN2Oクエンチャーを探索する。また,他のN2O抑制生物資材としてアブラナ科のキガラシを見出したため,アブラナ科植物を生物資材としたN2O抑制の可能を探る。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られている研究結果からは,N2O reductaseの機能不全あるいはnosZ欠落が脱窒型ハイパー・N2O放出細菌出現の主要因と考えられるため,酸性あるいは低温によって脱窒反応の最終電子受容体であるN2OがN2に還元されるステップを触媒するN2O reductaseの酵素活性が著しく低下し,還元反応触媒として機能しなくなると,これを欠落しやすくなっているとの仮説を検証する。この際,新たに北方泥炭ボッグの陸生ミズゴケから分離したこのN2O 放出脱窒細菌が完全脱窒から不完全脱窒への移行を示す遷移状態株の可能性もあるため,機能しないnosZが落ちやすくなる条件をこのnosZ保有Pseudomonas属およびBurkholderia属分離株で再現する。特に完全脱窒菌のN2O放出細菌への変貌にかかわるnosZ欠落が泥炭土壌環境や低温環境で再現されるか否かについて検証を試みる。また,N2Oのみを窒素源として与えたジェランガムソフトゲルでの嫌気性微生物の集積培養を試み,各ホットスポットのN2O放出細菌の効率的なスクリーニングシステムを開発する。特に,この方法で亜北極泥炭からN2O吸収微生物を探索する。広くスクリーニングしたN2O吸収微生物を用い,N2O消去に関する分子機序情報を収集する。これと並行して,極めて有望なN2O消去細菌であるChitinophaga sp. Sar15株から,N2O消去に関わる鍵酵素遺伝子の探索とその遺伝子の大腸菌などでの発現実験を行い,N2O放出ホットスポットや堆肥集積場,あるいは汚水処理場の浄化槽からのN2O生成を効率良く抑えることができる生物資材の開発に繋げる。
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Research Products
(15 results)