2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26310303
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高谷 直樹 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50282322)
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Project Period (FY) |
2014-07-18 – 2017-03-31
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Keywords | フミン酸 / 糸状菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌、河川、湖水などに含まれる腐植物質は動植物遺体のリグニン、タンニン等が土壌中で微生物的および化学的な作用により複雑に分解と重合を繰り返して生成した物質の総称であり、難分解性の高分子有機物である。フミン酸は腐植を形成する主要な物質のひとつで環境中に豊富に存在する物質であり、自然界においてフミン酸と糸状菌が作用しあっていることは明らかである。しかしながらフミン酸と糸状菌の関わりに関して明らかになっていることはほとんどない。これまでに、フミン酸による糸状菌Aspergillus nidulansの生育の促進作用やA. nidulansによるフミン酸の吸着と構造変化等が見出された。本年度は、まず、フミン酸の代謝能を有する糸状菌の分布を調査した。その結果、42種の糸状菌が培養に伴いフミン酸の分子量分布を変化させることが示された。また、それらの全てがフミン酸を高分子化しており、低分子化については確認されなかった。また、これら42種の糸状菌を、フミン酸を単一のC源とする最少培地に植菌したところ、どの株でも生育はみられなかった。さらにそれらの株について、フミン酸の低分子分解物のモデル化合物として設定したGuaiacylglycerol-beta-guaiacyl etherの分解能を検証した結果、子嚢菌7種、担子菌1種、接合菌1種がこの分解能を有していることが明らかとなった。これは、多くの糸状菌が環境中のフミン酸の恒常性の維持に寄与することを示すものであり、微生物の生態と環境動態を考察する上で大きな意義を与える新知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フミン酸の分解・代謝を行う微生物(特に、ここで着目した糸状菌)について全体的な議論が可能となった点は、計画通りであり順調である。一方、フミン酸の代謝についての生化学的な解析については、当初、フミン酸およびその代謝産物の化学分析が極めて困難であることから、ゲルろ過などの特定の分析手法を用いたものを除いて、研究がなかなかすすまなかった。このブレイクスルーとしてGGEをモデル化合物として使用する可能性を着想した。また、偶然ではあるが、A. nidulansが最も高いGGE分解活性を示すという予備的なデータも得られているので、今後の解析対象となるだろう。GGEを用いた研究からは、フミン酸そのものを用いた場合と比較して、限定的なデータが得られると予想されるがやむをえないと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの取り組みを継続し、フミン酸を代謝する能力およびGGEを分解する能力をもつ糸状菌の探索を続け、環境微生物によるフミン酸分解についての知見を得る計画である。また、強いGGE分解能を有することが示されたA. nidlansを対象として、分解酵素の活性の再構成と同定、オミクス解析を用いたフミン酸あるいはGGEに応答した代謝変化を行い、本菌によるGGEの代謝機構を明らかとする。得られた知見を総括して、糸状菌によるフミン酸の代謝の生態と分子機構についての新たな説を提唱することを目指す。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、フミン酸の分析手法の確立のために多くの時間を費やしたために、それ以降の研究が一部進まなかった。このため高額な生化学・分子生物学用の消耗品の購入額が予定よりも少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
モデル化合物を設定することができたので、これを用いることで生化学・分子生物学の解析が可能となった。この実験のための消耗品として使用する計画である。
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