2015 Fiscal Year Annual Research Report
農耕地における窒素循環の駆動力―微小環境でリンクする硝化と脱窒
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26310315
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Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
早津 雅仁 国立研究開発法人 農業環境技術研究所, その他部局等, 研究員 (70283348)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多胡 香奈子 国立研究開発法人 農業環境技術研究所, その他部局等, 研究員 (20432198)
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Project Period (FY) |
2014-07-18 – 2017-03-31
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Keywords | 硝化 / 脱窒 / 土壌 / 亜酸化窒素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、有機物が供給される土壌表層や有機物の微小な環境に生じる好気・嫌気環境とその混在領域で多様な微生物の相互作用により好気的反応硝化と嫌気的反応脱窒が同時に進行する独自の反応システムを形成するメカニズムを明らかにすることを目的とする。 本年度は微小環境の中で特に硝化活性が高く硝化菌数が多い土壌部位を特定し、その部位の特性を明らかにした。土壌DNAを抽出しアンモニア酸化古細菌(AOA)とアンモニア酸化細菌(AOB)の菌数を調べた。また脱窒能の高い土壌表層については、脱窒菌の多様性をより詳細に解析するために、最近提案されたグループ別の脱窒菌検出用プライマーを用いて脱窒菌のグループ別菌数を解析した。 N2O発生能が高い茶園土壌において表層有機物さらにその下部の土壌を深さ別にコアサンプラーで採取し、硝化能とAOAとAOBの菌数をアンモニアモノオキシゲナーゼサブユニットAの存在量を指標に定量した。茶園土壌は、農研機構・果樹茶研(金谷)の茶園圃場から採取した。その結果、有機物画分に極めて多数のAOBが検出され、その部位の硝化も著しく高かった。しかしAOAは全体的にAOBの1/100以下であった。また筆者らが発見したgamma-AOBは有機物層と表層土壌に多く存在することがわかった。このことから本課題で対象とする脱窒と硝化がリンクする場所は、茶園においては有機物層であると推定された。また茶園土壌からメタゲノム情報に基づき主要なアンモニア酸化細菌4株を分離することに成功した。一方、転換畑の土壌表層の脱窒菌のタイプは、亜硝酸還元酵素(nirKとnirS)の多様性と菌数からnirKはグループ2、nirSはグループ1が主要な脱窒菌であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は微小環境を調製するために茶園土壌の深さ別サンプル調製を行った。この分析結果から、これまでの調査と比べて、極めて多数のAOBが有機物層に存在し、枝や葉などの残渣にもその存在を認めた。この知見は新規性が高く本課題の目的である脱窒と硝化のリンクを明らかにする上で重要であると同時に茶園の有機物層の微小環境研究のモデルとしての有効性を示している。特に有機物層は好気的であり、新鮮有機物が豊富で部分的に嫌気的になることからも、脱窒と硝化双方にとって好適であると判断し、茶園有機物層を中心に研究を進めることとした。また茶園土壌からメタゲノム情報に基づき主要なアンモニア酸化細菌4株を分離することに成功し、微生物からのアプローチも可能となった。 一方、転換畑表層土壌の脱窒に関しては、最近開発されたプライマーで詳細な脱窒菌の多様性の変化とN2O発生の関係に迫ることができた。特に亜硝酸還元酵素と亜酸化窒素還元酵素の遺伝群別菌数を示せたことは大きな進展と考えている。 以上、一部計画変更はあるが好適なサンプルを得たことで研究の進捗は早まると想定されることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
硝化と脱窒の活性の高い部位の調査を進める過程で、本課題の目的達成に有効な活性が高く菌数も多くさらに物理的化学的環境も有利な試料を見出した。またメタゲノム情報に基づき主要なアンモニア酸化細菌4株を分離することに成功した。これらにより目的に向けて研究を進めやすくなった。さらにこれらの成果によって、より微小なサンプルでの解析が可能になった。一方、純粋培養菌を得たことにより、これらのゲノム情報から硝化菌の生態にアプローチできる。このため早急にゲノム解析に着手する。今後はメタゲノム解析に加えて、実際に土壌で機能する硝化菌や脱窒菌のゲノム情報も視野に入れ、多角的に微小環境における硝化と脱窒の関係の研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
硝化菌の分離および培養実験などに時間を要しまた次世代シーケンサーによる解析が予想以上に順調で稼働回数や解析を効率的に進めることができた。また微生物の培養実験やゲノム解析にも着手したため、微小環境実験等が次年度にまたがることになった。以上により平成27年度分の予算執行が予定より少なく次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、分離菌のゲノム解析などを実施するため遺伝子解析に熟練した博士研究員を雇用する必要性が生じた。またこれに付随し遺伝子分析関係の実験が大幅増えるため、遺伝子解析に熟練したテクニシャンを雇用し、効率的に実験を進める必要がある。以上により賃金関係の予算を当初の予定以上に支出する必要がある。次年度は最終年にあたるため複数の学術論文を発表する予定であり、これらの投稿費用などの支出も必要となる。このため本年で生じた次年度使用額は適正に執行可能である。次年度予算と合わせて適正な予算執行を計る。
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Research Products
(1 results)