2014 Fiscal Year Research-status Report
MEGの定常応答を用いた和声や多声部音楽の知覚の神経生理学的基盤の研究
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26330316
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
根本 幾 東京電機大学, 情報環境学部, 教授 (40105672)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 音楽 / 多義的旋律 / 和声 / 調性 / 定常状態反応 / MEG / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 多義的旋律の研究 多義的旋律として完全5度離れた2音(ここではA4とE5)を持続して提示している間にこれら2音の中間のピッチ,たとえばC#5音を断続して提示するものを提案した.このとき多くの聴者は,C#5音とA4またはE5の繰り返しのメロディとして聴く.ここに多義性が生ずる.この多義的旋律の提示直前に2つのメロディを持続音なしに提示すると,多義的旋律提示の間少なくとも数秒は誘導された旋律の知覚が続く.どちらの旋律として知覚するかにより,脳反応の差が見られるかどうか,MEGの誘発反応を調べた.その結果は,ミスマッチ反応と類似した反応により,誘導旋律により多義性が除去されたことが示された.さらに定常応答反応(ASSR)について調べるため,まずEEGを用いて予備実験を行っている.刺激は2つの持続音を別々の周波数(38, 40 Hz)で振幅変調し,ASSRの38, 40 Hz成分を計測している.現段階では,ASSRにはかなり個人差があり,両方の周波数ともにASSR反応がよく見られる人から,どちらの周波数についても有意な振幅が得られない人がいること,誘導旋律に体する依存の仕方も被験者に依存することなどが分かった. 2. 振幅変調した和声に対するASSRならびにfMRI反応を長三和音,短三和音,減三和音,増三和音について実験した.これらは3音からなる和音であるが,3音を同じ周波数(20 Hz)で振幅変調すると,和音に対する有意な効果が得られた.ASSRの振幅の順は,増三,減三,短三,長三和音の順となった.これは協和度の低い順と考えられる.ところが,行動学的実験を同時に行ったところ,増三和音と長三和音に対して協和度がほぼ等しく良いとの結果となり驚いている.fMRIを用いた実験結果は,多少ともこの行動学的結果を支持するようなもので,さらなる実験や考察が必要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.提案した多義的旋律が実際に多義性を持つこと,多義性を先行刺激によって除去できることなどが,行動学的実験や脳磁図のミスマッチ様反応によって示すことができた.行動学的実験結果については,確率的なモデルによって,遷移のしやすさなどを推定する方法を提案している.これについては,今年の夏,国際学会(IEEE)で発表する予定である.ASSR(定常応答反応)については,EEGによる準備段階である.これは,MEG装置の故障で,少なくともしばらくは本学の装置が使用できない状態にあるからである.今年度は,これを補充するため,学外の装置を借りて実験する予定である.EEGによるASSR測定においては,2つの持続音に対するASSRを別々の変調周波数で測定した.すべての被験者ではないが,多くの被験者について上下の持続音に対する反応が別々に計測された.先行刺激によって多義性を除去することにより被験者の感覚中に形成されるメロディが異なるはずで,それによって上下の持続音に対するASSRの振幅が変化することを期待して実験をしたが,現在のところ,まだ十分な実験数を得ていないこと,行動学的実験結果との対応を付けていないことなどから,結論は得られていない.今年度予定しているMEG実験で結果を得たいと考えている. 2. 和声に対する実験では,MEGによるASSR実験で和音に対する明確な差が出たことは期待した結果であった.ところが行動学的実験の結果が,予想と全くことなった結果であったので,この原因を調べる必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
1. 夏休み中などにMEG装置を借りて,多義的旋律に対するASSR応答に対する結果を得たい.方法は現在EEGで行っている実験方法と基本的に同じであるが,MEGではEEGより空間分解能がよいため,複数の箇所で起こっている位相のずれた活動が重なって打ち消し合うことが少ないため,ASSRは計測し易い.もし多義性や多義性の除去がASSR反応には現れないことが判明した場合には,今までやってきたミスマッチ様反応の計測に切り替えて,まだ試みていないパラメータ変更による実験を行う.それは断続させる中間音の周波数の変更で,それが持続音のどちらに近いかによって結果が変わることを示したい.それにより,MEGにより多義性の神経生理学的表現が得られるということがより確かになるからである. 2. MEGの定常応答を調べた各和音についてfMRIで反応を調べる実験は,開始して間もなく被験者数が十分でないので,これを補充する実験を行う.結果を行動学的実験結果と照合する. 3. 非常に低い音(C2付近)を用いてmissing fundamentalの実験を行うと,2個の倍音(C1に対するC2, G2)のみで,ほとんどの聴者が基音を聴くことができる.しかも,基音を聴くモードと実音を聴くモードを容易に切り替えられことが分かった.このトップダウン制御の状況が脳の神経活動にどのように反映されているのか,新たなテーマとして研究する. 4. 本研究中に,ヘッドホンを用いたときに限り,ある周波数帯域において提示音の周波数と異なる周波数の音を強力に聴く人がかなり存在することを発見した.これが物理的なものなのか聴覚心理的なものなのかまだ不明である.これを新たな研究テーマとして追加することも考えている.
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