2014 Fiscal Year Research-status Report
進化計算アルゴリズムに基づく個人の感性を反映した楽曲の自動生成
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26330318
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
大谷 紀子 東京都市大学, メディア情報学部, 教授 (70328566)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自動作曲 / 感性モデル獲得 / 帰納論理プログラミング / 訓練例作成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,楽曲への感性の反映度合の評価基準として使用する感性モデルの作成方法に重点を置いて研究を進めた.感性モデルは個人に特定の感性を想起させるルールであり,評価用楽曲に対する印象に基づいて作成された訓練例を使用して帰納論理プログラミングにより獲得される.しかし,評価用楽曲に対する印象調査では,付与すべき評価値に迷う場面が頻繁に見受けられる.迷った末に付与された評価値は即座に付与された評価値よりも直感的な印象を表していない可能性が高い.また,評価用楽曲が既知である場合,楽曲の構造的特徴に対して抱いた印象以外に,過去の経験に基づく感情や思い入れが評価値に反映されると考えられる.以上の問題点を受け,楽曲生成に有用性な感性モデルの獲得を目的として,楽曲評価にかかった時間を考慮した感性モデル獲得手法を提案するとともに,評価用楽曲における既知性の影響を明らかにするための実験を実施した.合わせて,起承転結のストーリー性が感じられるような楽曲を生成するための進化計算手法を導入した. 評価実験の結果,未知楽曲よりも既知楽曲によって正方向の感性が想起される傾向がみられ,単純接触効果が評価値を大きく左右する可能性が示唆された.また,最終的に生成された楽曲への感性の反映度合は,評価用楽曲の評価の偏りに影響される可能性が高いこともわかった.獲得された感性モデルの各ルールの数,および被覆する正例数をみると,未知楽曲では既知楽曲より少ない事例を被覆するルールが多く得られている.すなわち,評価用楽曲を未知楽曲にすることで,より特殊なルールを獲得できるといえる.また,評価に迷った楽曲を訓練例から除去することでも,同様の効果を狙える可能性があるという結果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の主目標としては,感性モデル獲得の際に使用する訓練例の生成手法の検討を掲げていた.評価を決定するまでにかかる時間や,楽曲ごとの評価のばらつきに関する個人差などを考慮して訓練例を生成する手法を提案し,獲得される感性モデルの特徴を示した.また,これまでは評価用楽曲として誰もが知っているような楽曲を使用してきたが,作曲家が本研究のために新たに作成した楽曲をも使用することで,評価用楽曲の既知性が,獲得される感性モデルや生成される楽曲に与える影響を明確にすることができた.被験者実験では,独自に製作した評価ツールを使用した.本ツールでは,各聴者が同様の環境で楽曲を評価し,判断にかかった時間の測定や評価のばらつきの分析などができるため,効率よく正確なデータを収集することができた.さらに,起承転結の構造を持った楽曲を生成するための進化計算手法の効果も確認できた. 以上の成果は,帰納論理プログラミングにより獲得される感性モデルをベースとする本研究にとって大きな知見を与えるものである.同時に,聴者の主観に基づいて楽曲を生成することの限界を示唆するものであるともいえる.今後は,客観的指標に基づく自動作曲手法をも検討する必要がある. 当初は,まず楽曲の表現方法の定義を見直すことを計画していたが,既存手法と提案手法で得られる感性モデルの相違について分析した結果を楽曲の表現に反映すべきと考え,次年度への課題とした.計画の変更はあったものの,主目標が達成できたこと,および研究の新たな方向性が示せたことから,現在までの達成度はおおむね順調と判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,平成26年度に得られた成果を基盤として,楽曲の表現方法の定義の見直しから開始する.先行研究では,1つの和音を主音,構成音の音程関係による分類,および付加音・変化和音の組合せで表現しているが,より的確な表現とするために,転回形や配置の導入を検討する. 次に,客観的指標に基づく自動作曲手法を検討する.客観的指標としては,EKGセンサ,指尖脈波センサ,皮膚導通センサ,呼吸センサ,皮膚温度センサなどで取得された生体情報を用いる.気分を高めたいときに聴く曲,落ち着きたいときに聴く曲などを聴者に提供させ,各曲を聴いたときの生体情報を取得する.鑑賞の意図ごとに,鑑賞時に得られる生体情報と楽曲の特徴に関するルールを感性モデルとして獲得し,楽曲を生成する.楽曲の生成アルゴリズムについては,楽曲の「統一感」と「展開性」というトレードオフの関係と考えられる評価項目について着目し,楽曲全体で統一感を保ちながらも,単調ではなく展開が感じられるような楽曲の生成を目指す.このとき,これまでに使用してこなかった進化計算アルゴリズムの適用も同時に検討し,各アルゴリズムの特徴を生かした手法を提案する. これまでは研究者側で用意した楽曲を評価用楽曲としていたが,上記の流れでは評価用楽曲を聴者が提供することになるため,感性モデルを生成する際に使用する背景知識を聴者ごとに作成する必要がある.背景知識作成の自動化の仕組みについても並行して検討する.
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Causes of Carryover |
音楽の専門家からの知識提供等に使用する予定だったが,オリジナル楽曲の購入を通して必要な知識を得ることができたため,謝金が必要なくなった.また,1回の海外出張によりカンファレンスとワークショップの両者で発表することができたため,旅費が少額で済んだ.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
客観的指標に基づく自動作曲手法を検討するにあたり,多くの被験者のデータが必要となるため,実験に要する機材および被験者への謝金として使用する.また,楽曲の表現方法の定義を見直す際に必要な専門知識を得るため,音楽家の方への謝金が必要となる.さらに,人工知能学会第29回全国大会,International Workshop on Informatics 2015,および進化計算学会2015年進化計算シンポジウムでの成果発表を予定しているため,発表に係る参加費および旅費に使用する.
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Research Products
(5 results)