2015 Fiscal Year Research-status Report
登山におけるリスク管理手法を共創する映像型コミュニケーションシステムの開発
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26330407
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
嶌田 聡 日本大学, 工学部, 教授 (90713123)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 技能伝承 / 集合知 / 映像コミュニケーション / ソーシャルネットワークサービス / オープンラーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
映像シーンに関連した登山のバリエーションを表すワードを提案方法で選択して映像再生に同期させて提示することの効果を詳細に検証した。提案方法は、登山で扱う概念をオントロジーで表現した登山モデルを構築し、映像制作時に各シーンへのメタデータを登山モデルのワードから手動で付与しておくことで、各映像シーンに関連ワードを自動選定する。 登山活動を記録した映像と、自動選択された関連ワードを視聴して想起されたヒヤリハットや登山技術について登山者同士が意見交換する実験を行い、関連ワードを提示することで映像視聴による疑似体験と関連ワードによる発想の誘導が効果的に機能し、初心者や経験者に有効な意見を集約できること、映像に描写されている内容だけでなく話題が拡大されることを明らかにした。 映像シーン連動掲示板で集約した個人の意見を客観知に変換する方法については、一般登山者が行う学習を通じて教材コンテンツを生成する方法を提案した。まず、映像シーン連動掲示板に登録されたコメントを、コメントが記事の本文で、コメント付与されたときの映像シーンを補足情報として切り出し、ブログ記事で管理する。映像に紐づけられた掲示板のスレッド(個人の知識)が主で映像は従とする主従関係の変換により、ブログ記事で管理された個人の意見を編纂できるようにした。次に、このように変換されたブログ記事を素材記事とし、素材記事を起点に登山技術について振り返る自己学習、他人との意見交換を行う協働学習、専門家による指導(反転学習)の3段階学習で素材の実践知を洗練化させた教材コンテンツを生成する。各ステップにおける学習を効率よく行えるように教材作成ツールを提供して実験を行い、提案手法の妥当性を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「主観知の集約」については、登山者10名による映像シーン連動掲示板での意見交換により、関連ワードを提示しない場合は58件のコメントを、関連ワードを提示した場合は101件のコメントを収集し、以下のことを検証した。 いずれの場合も95%以上のコメントが初心者や経験者に有効な情報を含む価値のあるコメントであった。また、映像に描写されている内容を扱ったコメントは、関連ワードを提示しない場合は全体の90%を占めていたのに対し、関連ワードを提示することで55%に減少した。一方、映像に描写されていない内容のコメントが占める割合は関連ワードを提示することで10%から33%に増加した。さらに、登録コメントで用いられている専門用語の数は関連ワードを提示することで1.5倍に増え、話題が拡大されたことを確認した。 「客観知への変換」については、映像シーン連動掲示板で収集したコメントをブログ記事(素材記事)に変換しておき、ブログの素材記事から教材コンテンツを生成する実験を行った。H27年度に登山者30名で新規に実施した実験とH26年度で収集したものと合わせて166件の素材記事から36件の教材コンテンツが作成された。 素材記事と教材コンテンツを初めて閲覧する熟練登山者9名に評価してもらった結果、映像シーン連動掲示板から変換した素材記事を単独で閲覧しても内容把握が行えることを確認した。また、教材コンテンツ(11件)と教材で引用された素材記事(20件)を比較した結果、主張内容の妥当性、内容把握の容易性、自分の登山への利用価値、登山者育成向けの教材の評価項目において素材記事よりも教材コンテンツの方が統計的に有意に高く評定された。さらに、教材を作成した登山者への調査により、教材作成を通じて、登山の知識が深まること、新しい発見があること、今後の登山活動に生かせることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討により、(1)映像再生時に関連ワードも合わせて提示することで登山者が保有する知識(主観的な個人の意見)を効率よく収集できること、(2)映像が主である映像シーン連動掲示板で収集したコメントを、コメントが主で映像が従のブログ記事に変換できること、(3)一般登山者が学習することを目的にブログ記事を編纂して登山者育成向けのの教材コンテンツの生成が有効であること、が分かった。 本研究では、危険回避の実践知やヒヤリハットなどの経験知を集約して分析することによりリスクマネジメント手法を確立すること、および登山者の育成をねらいとしている。そのためには集約する知識を大規模化する必要があり、登山者が自発的に登山の記録映像やノウハウを発信できるようにモチベーションの維持・向上させることが重要な課題である。登山技術の獲得には資格取得や高等教育での学位取得などの明確な目標がないこと、登山は個人が自然と対峙する行為であるので求められる技術や目標が個人によって大きく異なり、共通の育成システムを構築することが困難であることから、そのモチベーションの維持・向上は容易ではない。 そこで、今後は、これまで検討してきたシステムを登山活動の一環として導入・活用できる方法を検討し、登山者の自発的行動を誘導して持続的な知識集約の実現を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の約18万円は、学会誌に投稿する論文原稿作成に予定していたものである。論文作成の準備が遅れたため次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した論文作成費用は次年度の前半に予定通り使用する。
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