2014 Fiscal Year Research-status Report
広域観測網における硫黄同位体比を用いた越境大気汚染物質沈着量の時空間変動の評価
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26340055
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Research Institution | Asia Center for Air Pollution Research |
Principal Investigator |
猪股 弥生 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, その他部局等, 主任研究員 (90469792)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大泉 毅 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, その他部局等, 客員研究員 (10450800)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 越境大気汚染 / 降水 / 硫黄同位体比 / 東アジア / EANET |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の観測網を使用し、日本各地のモニタリングサイトにおいて採取された降水中の硫酸イオンについて、発生源同定に有効な硫黄同位体比を測定し、日本における人為発生源由来の硫酸イオン沈着量の時空間変動を明らかにする。また、新潟巻において、季節ごとに粒径別エアロゾル粒子(PM2.5カット)を採取し、硫黄同位体比をもとに人為発生源由来の硫酸イオンの乾性沈着量を推定することを目的とする。 【1】モニタリング体制の整備;これまでに降水試料を採取している日本海側のモニタリング地点(利尻、隠岐 (1月毎)、佐渡、新潟巻 (2週間毎)及び東京(2週間毎))に加えて、新たに小笠原(海洋生物起源の影響が卓越)に専用のサンプラーを設置し、降水試料のモニタリング(1月毎)を開始した。また、八方(大陸からの越境輸送が活発な自由対流圏)及び辺戸岬(中国南部からの越境汚染の寄与)でも、1月毎にモニタリングを開始した。このことによって、日本全国を網羅する遠隔モニタリングサイトにおいて、短時間分解能(月単位)での降水中の硫黄同位体比観測が可能になった。【2】 エアロゾル粒子中硫酸イオン硫黄同位体比の測定法の確立;ハイボリュームエアーサンプラー(HVI2.5)を用いて、粒径別エアロゾル粒子の採取を行い、硫酸イオン抽出法を確立した。米国 EPA 連邦標準測定法であるFRMを用いたサンプリング結果との比較により、HVI2.5サンプリング法に問題がないことを確認した。 【3】化石燃料中の硫黄同位体比分布図の作成;中国・モンゴルで生産・使用されている石炭中(約20試料)の硫黄同位体比の分析を行った。測定結果は、論文等による既報値と併せて、東アジアにおける硫黄同位体比の分布図を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのモニタリングサイト(利尻、竜飛、佐渡関、新潟巻、加治川、隠岐、東京)に加え、新たに小笠原(離島)に降水サンプラーを設置し、モニタリングを開始した。また、八方及び辺戸岬においても、月ごとの降水試料モニタリングを開始した。PM2.5については、新潟巻モニタリングサイトにおいてサンプリングを行い、粒子中の硫黄同位体比測定法について確立した。採取された降水試料及びエアロゾル粒子試料については、硫黄同位体比の分析を順次行い、データを蓄積している。この結果、日本海側のモニタリング地点における硫黄同位体比は、冬季に高く夏季に低い季節変化を示すこと、東京などの太平洋側のモニタリング地点における硫黄同位体比は、日本海側と比較して低い値であること、などの季節変動・地域特性が得られた。エアロゾル粒子中硫酸イオン硫黄同位体比については、ハイボリュームエアーサンプラー(HVI2.5)を用いて、粒径別エアロゾル粒子の採取を行い、硫酸イオン抽出法を確立した。米国 EPA 連邦標準測定法であるFRMを用いたサンプリング結果との比較により、HVI2.5サンプリング法及び分析法に問題がないことを確認した。現在、PM2.5及び粗大粒子の硫黄同位体比の分析を順次行っている。 東アジア地域における硫黄同位体比分布を明らかにするために、中国及びモンゴルにおいて採取・使用されている石炭を分析し、硫黄同位体比を測定した。これまでに、論文等で報告されている硫黄同位体比も使用し、最適内挿法を用いて、緯度3度経度2度毎の硫黄同位体比の分布図を作成した。この結果、揚子江を挟んで中国の北部では中国南部と比較して硫黄同位体比が高いこと、特に北京など中国工業地域では、硫黄同位体比が高いこと 等の地域特性が明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、前年度に引き続き、降水・エアロゾル粒子のモニタリングを実施する。降水試料の採取期間は前年度と同じであり、二週間(新潟巻、東京)、一月(利尻、佐渡、隠岐、八方、辺戸、小笠原)、季節毎(竜飛、落石、えびの)としている。エアロゾル粒子については、年四回(季節毎)集中観測期間を設けて、新潟巻サイトにおいて採取する。降水・エアロゾル粒子中の硫黄同位体比の測定を行い、データを蓄積しつつ、人為発生源由来の硫酸イオンの湿性沈着量及び乾性沈着量の季節変動、経年変動、地域特性などを調べる。 降水・エアロゾル粒子中における硫黄同位体比の発生源寄与率を評価するために、越境汚染寄与分については石炭、国内人為・海洋生物・火山については、それぞれ、主要な発生源であると仮定して、東京、小笠原、えびので観測された硫黄同位体比を基に、マスバランスモデルを使用して、降水及びエアロゾル粒子中の硫酸イオンに対する越境人為発生源の寄与率を見積もる。これらの結果をもとに、人為起源硫酸イオン湿性沈着量の地域特性や季節変動を明らかにする。乾性沈着量については、エアロゾル粒子の乾性沈着速度は粒径に依存することを考慮して、粗大粒子と微小粒子に分けて評価する。さらに、大気化学輸送モデル(Regional Air Quality Model)を用いて発生源寄与解析をおこない、各発生源・発生地域からの日本各地における越境大気汚染由来硫酸イオンの湿性・乾性沈着量の地域特性や季節変動を調べる。この際、作成した東アジアにおける硫黄同位体比分布もインベントリとして使用する。観測された硫黄同位体比とモデル解析結果を組み合わせることにより、粒子及び降水中の人為起源硫酸イオンの発生源の特定と発生量・輸送量・沈着量の収支を定量的に評価する。研究成果は、国内外の学会で発表する。最終的に論文にまとめて学会誌上で発表する。
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Causes of Carryover |
当初新規で3地点に降水採取サンプラーを購入する予定であったが、別途使用可能な降水サンプラーが入手できたため。また、サンプラーを設置する際の旅費として2人分計上していたが、日程等の都合により、サンプラー設置用の旅費は1人分であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、いくつかのサイトにおいて、酸性雨モニタリングネットワークで採取された降水試料の廃棄分を使って分析している。これらのサイトにも、新たにサンプラーを設置するか 検討中である。
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