2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26340063
|
Research Institution | Kanagawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
斎藤 貴 神奈川工科大学, 工学部, 教授 (10186942)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 汚染物質除去技術 / セシウム / チキソトロピーゲル / プルシアンブルー / 廃水処理技術 / 環境刺激応答 / 回収剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、外部環境の変化に応じて固相-液相の相変化を生じる吸着剤含有機能性高分子ゲルを用いてセシウム放射性物質廃水を浄化、回収する新規手法を開発することにある。今年度は実験モデルとして非放射性セシウム(Cs)について、新規媒体として吸着剤を含む固相-液相の相変化を生じる機能性ゲル(チキソトロピーゲル)を作製すること、そして吸着能を評価することにある。機能性ゲルにはN-ラウルロイル-Lグルタミン酸-α,γ-ジブチルアミド(LGBA)、吸着剤にはヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III)(プルシアンブルー、Fe4[Fe(CN)6]3)を用いた。 始めに、振とうにより固相-液相の相変換を生じる抽出媒体の確立を目的に、LGBAとo-ジクロロベンゼンによりチキソトロピー現象を生じるゲル組成の最適な条件を見出した。その後、ゲル単体、吸着剤単体でのセシウムの各回収能を明らかにするための検討を行った。 その結果、吸着剤単体のセシウム吸着能の評価として、セシウム濃度25mg/L、プルシアンブルー5~25mg/L水溶液(10mL)において、25℃、500rpm往復振とうで、振とう時間に依存せず50~70%の回収率が得られた。一方、吸着剤を含まないチキソトロピーゲル(o-ジクロロベンゼン溶液、10mL)単体でセシウムの抽出を試みたところ、セシウム濃度10~80mg/Lに対して、数分間程度の振とうで65~84%が回収できることがわかった。当初、チキソトロピーゲル単体でのセシウムの取り込みは期待していなかったが、結果は予想に反してゲル自身が高い吸着能を持つことが今回初めて明らかになった。そのため、近年、吸着剤として評価の高まりつつある微粒子状プルシアンブルーの添加に依存せずに、よりシンプルで新規な回収剤の構築も可能であることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、当初に計画していた振動により液状化、静置により固相化を生じるチキソトロピー現象を伴う新規な振動応答性機能性高分子ゲルを開発することから実験を開始し、相変化を生じるN-ラウルロイル-Lグルタミン酸-α,γ-ジブチルアミド(LGBA)の高疎水性有機溶媒媒体種の選定とその最適な混合組成を決定することができた。この溶媒には水より比重の重いo-ジクロロベンゼンを用いることで、セシウムを除去した廃水をゲル上層に浮遊させて流出除去する手法に利用でき、バッチ式やフロー式の両浄化法に適用可能となる。 続いて、この振動応答性ゲル素材を水溶性セシウムの抽出回収媒体とした際のセシウム(Cs)の回収能を明らかにすること、また既存のプルシアンブルー粒子吸着剤のセシウム吸着能を明らかにすることができ、当初の目的を達成することができた。一方で、その得られた結果より、既存のプルシアンブルー吸着剤では、セシウムの回収率は不十分であるという満足できない課題が残っていることも分かった。これに反して、高疎水性媒体であるLGBA-o-ジクロロベンゼンに基づくゲル単体でもセシウムの回収能がプルシアンブルーに引けを取らない、むしろより高い回収率を示したことは新しい知見に値する。そのため、付加的な吸着剤に頼らないセシウム廃水処理剤の構築も可能になることが十分考えられ、当初の予想以上の展開が期待できることは特筆すべき点であると判断される。 次年度は、抽出の際のゲルとセシウム廃水量の組成バランスや振とう手法の改善も含めてセシウム回収能の向上を検討していくとともに、平行して多種の吸着剤(固体粒子や有機溶媒可溶性物質)との併用下での回収法の両面で検討を進めていく方針である。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画を基に進めるが、特に下記の点を強化して検討を進める方針である。 (1)チキソトロピーゲルによるセシウム(Cs)の回収能の評価と吸着剤の添加効果の評価:前述のようにゲル媒体単体でもセシウムの回収に期待できることから、回収能の向上(振とう法と抽出条件の見直しによる改善)と再現性の評価を行う。またこれと平行して、回収率向上のためゲルに添加するプルシアンブルーによる吸着能の評価(高い向上は期待できないが)に加えて、ポリエーテル環状分子によるセシウムの選択的な包摂取り込みによる回収法の検討も行っていきたい。特に後者は、セシウムに対して選択的な反応を期待するものであり、さらに疎水性溶媒に可溶化することで、水中のセシウムの取り込み能の向上と粒子状吸着剤のような回収後の後処理の複雑化を避ける効果も期待している。なお検討予定のポリエーテル環状分子-セシウム錯体は蛍光色を有するため、セシウムがゲルに抽出されると蛍光を発する効果により、セシウムの存在が色覚的に判断できる機能を持たせたいと考えている。 (2)抽出条件のスケールアップと回収能の評価:現在の抽出条件を基に、セシウム水溶液量とチキソトロピーゲル量を再検討し、モデルとして小~中規模的なスケールアップ(数~数十Lレベル)を行う。そして、水溶液中からのセシウムの回収能の評価を行っていく。セシウム回収能の到達目標は、数mg/Lのセシウムに対してバッチ式で抽出操作1回あたり80%以上は確保したい。現状では使用するゲルを少量にしたいためゲル単体のみでは達成は難しくなるため、付加的に上記の吸着剤と併用する方向で達成していきたいと考えている。 (3)研究成果報告:本研究に関する成果発表は、平成27年10月第5回CSJ化学フェスタ(日本化学会)、平成27年12月環太平洋国際化学会議2015で成果発表を行う。
|
Causes of Carryover |
今年度の支払請求額2,400,000円に対して、残予算が32,435円となった。今年度の研究における種々の試薬やガラス器具などの消耗品と機器備品類は、おおむね当初の計画通り納入され利用されている。次年度は当初の計画に加えて、新規な吸着剤試薬(キレート剤など)の検討も新たに加えたいため、費用対効果にも配慮して消耗品の購入をしてきた結果、わずかではあるが残予算を次年度経費に加えて成果重視で研究を進めることとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成27年度)は当初より決定され助成いただく経費(直接経費70万円、間接経費21万)に加えて、今年度の残予算32,435円を加えた予算内で研究を継続していきたい。直接経費における予算の使用目的は消耗品の購入であり、実験用試薬(主に、キレート剤と一般有機溶剤)30%、測容器を含むガラス器具やプラスチック器具類47%、ICP発光分光分析機用アルゴンガスと原子吸光分析機用アセチレンガス12%、他11%、でいずれも研究を遂行する上で必要不可欠となっている。
|