2014 Fiscal Year Research-status Report
森林性木本植物の樹幹内における放射性セシウムの循環と蓄積実態の解明
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26340083
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
飯塚 和也 宇都宮大学, 農学部, 教授 (20344898)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / カリウム / 循環と蓄積 / スギ / ナラ類 / 樹幹内木部 / 経根吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年3月の福島原発事故による放射性降下物は,一般的に森林生態系の中を循環しているといわれておる。そこで本研究では,林業上重要な樹種であるスギについて,樹幹内の放射性セシウムの挙動を明らかにすることを目的とする。原発事故2年を過ぎた現在では,放射性セシウムを経根吸収していると推察され,根→樹幹→樹冠,そして落葉し土壌に戻り,また樹幹へと循環すると考えられる。樹幹内の放射性セシウムは,軸方向の移動は,辺材の形成層に近い部位の仮道管を通り,上昇すると考えられる。一方,半径方向では,放射柔組織を通じ辺材から心材に移動し,心材の放射性セシウムは,そこに留まり蓄積されるため,循環に関与しなと推測される。このため樹幹内木部について,循環するものと蓄積して循環に関与しないものの関係を解明する。 本年度の研究は,建築材用のスギ,ヒノキ,およびキノコ栽培の原木用のナラの成木を対象に,放射性セシウムの樹体における蓄積実態の把握を進めた。主な材料は栃木県塩谷町と那須塩原市,そして福島県川俣町から採取した。測定は,樹皮と樹幹木部の心材と辺材の放射性セシウムと放射性カリウムを,Ge半導体検出器を用いて行った。本研究の成果の公表は,国際学会を1回を含む計3回の学会で行った。その主な概要は以下のとおりである。 (1) 樹幹内木部に転流したCs137は,時間が経つとともに辺材から心材へ拡散している。スギは,ヒノキとナラ類に比べ,その速度が速いことが観察された。 (2) 経根吸収されたCs137は,樹木の伸長部が最も高い濃度を示した。 (3) 樹体内において,Cs137とKの挙動の関連性が示唆されたが,Cs137はKに比べ,局所的に存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の主な達成内容は,下記に示したとおりである。 (1) 樹幹内木部の放射性セシウム(Cs137)について,(ⅰ)スギは林齢の高い大径木は,林齢の低い中・小径木に比べ,濃度が低く,また辺材から心材への移行がゆっくりであるという傾向が示された。(ⅱ)Cs137濃度の樹幹内変異をみると,樹冠材が高く,つぎに地際周辺が高い傾向があった。(ⅲ)2011年3月に発生した事故後3年間で,スギのCs137濃度は,辺材に比べて心材が高い傾向が示された。ナラ類では依然と辺材が高く,ヒノキではそれらの中間に位置している傾向が示された。(ⅳ)スギ心材におけるCs137とK40の関係については,有意な正の相関が認められた。またCs137濃度は,含水率との間に有意な正の相関,材色の明度(L*)との間に有意な負の相関が確認された。このことから,スギでは心材色により,慣習的に赤心材系と黒心材系に区別されることがあるが,赤心材系のものは,含水率が低く,とカリウム量が少ないが,一方,Cs137濃度が高い可能性が推察された。予備調査段階では,木材中のCs137の移動には,バクテリアの関与があると予想したが,調査を進めむとともに,結論的にCs137の移動・拡散は,同じアルカリ金属sであるKとの関連性が高いこと可能性が示唆された。 (2) 経根吸収により樹体内に吸収されたCs137の挙動を調査するため,2011年3月以降に植栽されたスギ幼齢木を対象にした。(ⅰ)137Csは,伸長成長しているシュートおよびそこから展開している枝葉の濃度が最も高いことが示された。(ⅱ)2012年に伸長した幹から派生している枝について,2014年に展開した葉は2012年に展開した葉の濃度よりも高い濃度を示した。 以上のことから,当初予定した計画は,おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は従来の研究結果を踏まえ,樹幹内の放射性セシウムの蓄積を把握するために,主に下記の示す3点を重点的に推進することとしている。(1)樹幹に沈着・吸収された放射性セシウムの木部への移行・蓄積について,カリウムの存在量との関連性が示唆された。特に,スギ心材における放射性セシウム濃度と,カリウム濃度,含水率,明度(L*)との関係の解明さらに進める。また,スギでは遺伝的な由来な明らかな材料を用い,放射性セシウムと木部への蓄積とスギの遺伝的特性との関係性の解明を進める。(2)ファールアウト後に植栽されたスギ幼齢木の経根吸収について,実際に栃木県塩谷町に植栽された調査地を用い,2015年,2014年,2013年,2012年に伸長した主幹,およびそこから展開した枝葉の放射性セシスム濃度を明らかにすることで,放射性セシスムの樹体内の挙動を明らかにする。(3)シイタケ原木として重要なナラ類の立木については,樹皮と木部の放射能汚染の実態の経年変化を明らかにするとともに,原木の放射能の規制値50 Bq/kg以下になる時期を推定する。 樹幹木部に蓄積する放射性セシウムの挙動は,カリウム量との関連性が示唆されている。今後,放射能セシウムによる汚染の予測し,環境リスクを軽減できるかどうかの指標できるかどうかの可能性を探るため,アルカリ金族であるセシウムとカリウムが木本植物の樹体内で,同期的な現象が存在するかどうかを,検証するため,葉,木部などの放射性核種に関するデータの蓄積を図る。また,樹幹内で,放射性セシウムの循環・移動性について,研究を進めていく。さらに,成木および幼齢木の根の分布を把握し,土壌の深度や物理化学的性質と経根吸収の関係を調査することとする。
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Causes of Carryover |
当該研究の計画当初では,国外で行われる国際学会に参加予定をしていたが,国内において当該研究課題に関連する国際学会が開催される情報を得たため,旅費や参加費の負担の少ない,国内における国際学会にて発表することこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究材料を幅広く収集するための旅費等調査費として,計上することとしている。
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