2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26350080
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
下村 久美子 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (80162816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷井 淑子 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (10095929)
猪又 美栄子 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (50184784)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ベトナム / 伝統的衣服 / アオ・ザイ / クアン / アオ・ババ / ホイアン / 衣生活 / 素材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、急速な近代化とともに失われつつあるベトナムの伝統的な衣服についての実態を捉えるとともに、その変遷を明らかにすることを目的としている。研究の基盤は、2005年度から実施している昭和女子大学国際文化研究所を中心とした「ベトナム伝統農村集落の比較研究と保存」プロジェクトとして実施した衣服調査である。これまで北部ドゥオンラム村、中部フォクティック、南部フーホイ、カイベーの各農村地区での、現地調査を実施してきた。 本研究ではベトナムの中部に位置し、南北の文化的交流地点に位置するホイアン市を調査対象として、伝統的な衣服の実態調査を行なうとともに、これまでの調査結果をもとに、伝統衣服や素材、染色、着装方法や髪型など総合的に考察していくことを目的とする。 H26年度はホイアン市遺跡管理事務所の協力のもと、商業地区のホイアン市街での調査を実施し、以下の調査結果を得た。1)ホイアンでのベトナムの伝統的衣服は、ベトナムの代表的な衣服であるアオ・ザイ、腰までの丈の上衣であるアオ・ババ、裾がゆったりとしたズボンのクアンである。現在は市街では一部の高齢者のみが着用しているが、農村では日常着として着用している高齢者も多い。なお、北部で確認したアオ・ザイの祖型と考えられる身頃がゆったりとした長衣のアオ・ナム・タンやアオ・トゥ・タン、寒冷時に着用する綿入りの上着のアオ・ボンは着用されていない。2)かつて伝統衣服を製作していた職人への聞き取りから、伝統的なアオ・ババとクアンの縫製過程を取材することができた。使用していた布の種類や布幅、裁断手順、縫製手順について、詳細に記録することができた。特に、クアンのハギ目はこれまで1本線と2本線を確認しているが、これらの製作手順を明確にすることができた。なお、本研究の調査にあったっては、事前に昭和女子大学倫理委員会の審査を受け承認を得てから実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、2014年9月10日~15日に現地調査を実施することができた。調査先は、ホイアン市街の商業地区である。聞き取り調査の対象は、ホイアン遺跡管理センターから紹介を得た伝統的な衣服に詳しい高齢者と縫製職人で、8件、12名である。このうち、4名は職業として縫製をしているか、過去に縫製を職業としていた。 聞き取り内容は、調査協力者の基本事項(住所、氏名、年齢など)と、衣服に関する項目として、①衣服の種類、名称、形態 ②衣服の使用目的 ③衣服の調達方法 ④繊維素材 ⑤染織技法 ⑥縫製技法 ⑦装飾技法 ⑧着装法(装身具を含む) ⑨着装の意味や象徴 ⑩取扱い方法 ⑪伝統衣服の現状と過去の着用経験についてである。聞き取りと同時に、衣服の着装状況や着用手順の記録は写真撮影を行なった。さらに衣服の裁断や縫製手順ついては、写真およびビデオ撮影を行なった。衣服の実測、素材調査はメジャーを用いて衣服を実測し、衣服素材について外観観察や手触りの確認を行ない、デジタルマイクロスコープにより織り組織を記録した。 H26年度の調査では、特に縫製職人への取材によって、これまで明確ではなかった伝統的な衣服の裁断や縫製、衣服の形態の変化について調査することができ、以下のことがわかった。1)ベトナムの伝統的な衣服であるアオ・ザイ、アオ・ババ、クアンの布の種類や布幅の変遷や縫製作業の手順について調査することができた。1950年~70年代にかけて、布幅は広くなり、布の種類も豊富になった。2)伝統的な衣服の形態も変化し、伝統的な袖の形であった裁ち出し袖は、徐々にラグラン袖に移行していった。この変化はダーツの出現にもつながり、身幅も狭く変化した。3)クアンのはぎ目は、これまでの調査で1本線のものと2本線のものが認められているが、入手できる布幅が狭い時代は2本線であったことが明確になった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後2年間も継続してホイアンでの現地調査を中心に研究を進める。H27年度は、伝統衣服に詳しい高齢者からの情報を収集するとともに、住民間のコミュニケーションによる確実な情報を得ることを目的として、伝統的な衣服に関するワークショップを実施する予定である。また、引き続き縫製職人への聞き取りを実施し、ベトナムの伝統的な衣服の形、ゆとりや機能を明らかにしたい。なお、ホイアン市街の商業地区のみではなく、農村地区での現地調査を行なう予定である。農村部では現在でも伝統的な衣服であるアオ・ババやクアンを着用している高齢者も多いという情報を得ている。さらに、現在もクアンの生地に使用されている布(植物染料で染色された黒いテカリのある布)の染色工場のあるTan Chauを調査する予定である。使用される植物の種類や素材、染色方法を調査する。 最終年度であるH28年は、H26、H27年度の調査で得られた結果を確認するとともに、3年間の調査結果をまとめた報告書を作成する予定である。ホイアンの伝統的な衣服の着用実態と、高齢者の聞き取りから得られた、着用経験に基づく伝統的な衣服の変遷をまとめるとともに、縫製職人への聞き取りかられられた、伝統的な衣服の生地、裁断方法、縫製、襟ぐりや袖の形、衣服の形態変化などをまとめたい。ベトナムの歴史的・文化的背景とした伝統的な日常着の衣服形態の変化と結婚式や祭祀の衣装、お葬式の衣服などについても聞き取りを実施し、これらをまとめる予定である。 なお、ホイアンにおける伝統衣服調査の計画については、H26年度の現地調査にて、ホイアン遺跡管理センターとも伝統的な衣服の調査についてのうちあわせを実施している。
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Causes of Carryover |
当初、現地調査を予定していた研究協力者が、病気で参加できず海外渡航費、滞在費を使用しなかったため、次年度分の費用にした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度のベトナムでの現地調査のための旅費に当てる。また、H27年度はホーチミンのアオザイ博物館での調査と、Tan Chauでの植物染料についての調査をするため、2グループに分かれて調査を行う。そのため、通訳担当者を1名追加する必要があるので、その費用に充てる予定である。
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