2015 Fiscal Year Research-status Report
グリセリンを発色剤に用いた環境低負荷型着色技術の開発
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26350085
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Research Institution | Osaka Municipal Technical Research Institute |
Principal Investigator |
大江 猛 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究主任 (10416315)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 由利香 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究室長 (00416314)
中井 猛夫 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 有機材料研究部, 研究員 (60443545)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 羊毛 / グリセリン / 着色 / メイラード反応 / フェントン反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、グリセリン酸化物で着色した羊毛の機械強度などの繊維物性について評価した。はじめに、着色反応後の繊維強度の影響について検討した。グリセリン酸化物の生成に必要なフェントン反応では強い酸性条件を必要とするため、着色反応の進行とともに羊毛の機械強度の低下が認められた。しかしながら、同条件での酸性水溶液中で加熱した繊維と比較した場合、強度の低下は小さかった。これは、以前に報告した還元糖を用いた系と同様に、着色反応の進行とともに、羊毛のアミノ基の一部が架橋反応を起こし、繊維の強度低下を抑制したと考えられる。興味深いことに、フェントン反応直後の反応溶液を中和したところ、中性条件では反対に機械強度の増加が認められた。次に、着色反応後の繊維の撥水性および吸湿性への影響についても調べたところ、反応によるこれらの物性への影響は小さいことが分かった。結果として、本研究で得られた着色技術は、撥水性と吸湿性の両立が必要となるスーツやコートなどの多くの衣料品や繊維製品に利用することができる。最後に、グリセリン酸化物で着色した羊毛の染色堅ろう度についても検討を行った。以前に報告した還元糖で着色した羊毛と同様に、酸性条件のグリセリン酸化物で着色した羊毛は、耐光堅ろう度を除いて、4-5級あるいは5級の極めて高い染色堅ろう度を示した。この結果は、グリセリン酸化物が羊毛タンパクのアミノ基との化学反応によって、色素の発色団が繊維に対して共有結合で導入されたことを意味している。さらに、中性条件で着色した羊毛についても調べた結果、上記の染色堅ろう度に加えて4級以上の良好な耐光堅ろう度の結果も得られた。詳細なメカニズムは不明であるが、メラノイジン色素の生成時にフェントン反応に用いた鉄イオンが溶液中で存在しており、中性条件下において羊毛と色素の間に鉄イオンが配位し、光に対する染色堅ろう度が改善されたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、前年度では検討できなかった着色後の繊維物性への影響について検討した。特に、グリセリン酸化物の生成に必要なフェントン反応は強い酸性条件を必要とするため機械強度の大きな低下を予測していた。条件検討の結果、フェントン反応後に反応溶液を中和することによって、機械強度の低下の抑制だけでなく、着色濃度の増加や耐光堅ろう度の改善など新たな利点を見出すことができた。当初の研究計画で予定していたフェントン反応後のグリセリン酸化物の化学構造の解明は明らかにされていないものの、本年度の目的を概ね達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度および本年度の研究において、科研費研究としての研究計画は大部分が完了しており、最終年度である次年度では、以下の2点を中心に羊毛の着色に関する応用研究を行う。特に、今後の用途展開として期待が持てる生体材料(皮革、人体の毛髪や皮膚)への応用を視野に入れて研究を進める。①メイラード反応による着色の問題点(色相の制御、濃色化(羊毛の場合は黒色の再現)、酸性条件での耐光堅ろう度の改善など)の改善に取り組む。具体的には、媒染処理、グリセリン誘導体の利用を検討する。さらに、②実用化に向けた簡便な着色方法の開発するために、具体的には、酸化反応(フェントン反応)と着色反応(メイラード反応)を同時に進行できる条件検討を行う。また、今年度で明らかに出来なかったグリセリン酸化物の化学構造の解明についても引き続き研究を進める。
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Causes of Carryover |
年度末に論文の投稿費用を支払いする予定であったが、出版社の都合で次年度の支払いになった。また、論文が掲載予定の雑誌は海外誌であるため、円建ての金額が確定しておらず、本来、年度末に購入予定であった物品の購入も次年度の購入になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由から、次年度では、本来、本年度を予定していた論文の投稿費用および物品の購入費に充てる。
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Research Products
(7 results)