2014 Fiscal Year Research-status Report
咀嚼力の衰えた高齢者の栄養改善に向けた食べやすいソフトスチーム加工食肉の調整
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26350107
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Research Institution | Niigata University of Rehabilitation |
Principal Investigator |
山村 千絵 新潟リハビリテーション大学, リハビリテーション研究科, 教授 (30184708)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ソフトスチーム加工 / 鶏ムネ肉 / 高齢者 / 咀嚼 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、試料の作成:塊状で200グラム程度の豚ヒレ肉と鶏ムネ肉を、カットせずに丸のまま用い、ソフトスチーム加工の原料とした。豚ヒレ肉と鶏ムネ肉を試作段階(種々の加工温度、加工時間で試作した)で食べてみたところ、豚ヒレ肉は加工温度や時間を工夫しても、硬さや食味の点などで通常調理のものとあまり違いが見られなかったので、今回の研究対象は、鶏ムネ肉に絞ることにした。原料の鶏ムネ肉を、次項で示すような条件でソフトスチーム加工し物性検査の対象とした。 2、ソフトスチーム加工条件の設定:鶏ムネ肉の加工条件(処理温度、時間)は以下の通りである。温度:60℃、65℃、70℃、時間:5分、10分、15分、1時間、2時間、5時間、10時間とし、温度と時間の組み合わせにより処理を行った。 3、物性検査の結果:保存・流通を考え、加工後に冷蔵保存したものと冷凍保存したものの両方を作成し物性検査を行った。冷凍保存したものは解凍し、測定時の試料の温度は冷蔵肉・冷凍肉とも20℃とした。各条件5回ずつ測定を行い、最大値と最小値を除いた平均値を測定値とした。冷蔵肉では70℃10時間処理で日本介護食品協議会のUDF表示区分1~3に該当したが、冷凍肉はいずれにも該当しなかった。同じ加工条件で作成しても冷凍保存すると、解凍しても肉質が硬くなった。また、冷蔵保存の場合も、使用する生肉についての個体差等についても今後調査し、常に一定の品質を保てるようにする必要がある。 4、二次調理による物性の変化:加工した鶏ムネ肉を炒めるなどの二次調理を行うと、肉質が硬くなり、基準値からはずれてしまった。加工後は、加熱などせずにそのまま利用する必要がある。 以上の結果を鑑み、「70℃10時間処理鶏ムネ肉、加工後は冷蔵保存」を次年度以降に用いる試料の条件として決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度は、下記の理由でおおむね計画通りに進んでいると考えられる。 平成26年度は研究実施計画に基づいて「試料の作成と物性検査」を実施した。すなわち、まず検査対象食肉(食材として調整する予定の食肉)を選定し、各種温度、時間でソフトスチーム加工(委託作成)し、物性検査用試料を準備した。次に、準備した試料に、高齢者向けの食べやすい食品として必要な物性が備わっているかを調べるために、硬さ、付着性、凝集性等についてクリープメーターを用いて検査し、専用のソフトで解析を行った。物性検査の結果は、日本介護食品協議会や厚生労働省が定めた介護食の基準と照らし合わせながら、試料作成方法にフィードバックして試作改良を続けた。このようにして、平成26年度の目的であった「高齢者のための食べやすい食肉としての最適な調整条件(処理温度、時間)の決定」を、計画通りに行うことができた。また、予定としていなかった保存条件(冷蔵・冷凍)の違いによる差異や二次調理による物性の変化についても調査した。なお、平成26年度に実施予定だった鮮度検査については、必要備品(鮮度チェッカー)を購入し検査を開始したが、十分なデータは得られていないので、引き続き27年度も実施していく予定である。 以上のように、十分なデータが得られていない項目はあるものの、研究の流れによって予定していなかった項目まで調査を拡大したこともあり、当該年度の研究目的はおおむね達成されたと考えられる。さらに、次年度の研究に向けての準備も順調に行われていると点検評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、まず平成27年度当初において、平成26年度にデータ採取が不十分であった項目を重点的に実施したのち、計画通りに進めていく予定である。 すなわち、平成27年度は、まず加工後の物性の安定性を向上させるため、塊状の鶏ムネ肉のみならず、ひと口大にカットしたものでも同様の処理を行い、物性検査の結果の安定度を比較するとともに、鮮度検査や栄養学的調査を完成させる。その後、決定された条件で調整した食材(ソフトスチーム加工処理を70℃10時間行った鶏ムネ肉で冷蔵保存したもの、塊肉とカット肉のいずれか)を用いて、官能検査、生理的検査を実施する。なお、検査は安全性を考慮し健常若年成人と健常高齢者を対象として行う。官能検査は、通常に軟らかく茹でた試料とソフトスチーム加工を行った試料とで飲み込みやすさや味等を比較する目的で実施する。生理学的検査は、咬合力・咬合接触状態検査(被験者の咀嚼機能の概況を調べる)及び舌圧検査、咀嚼回数・時間の測定等を実施する。 平成28年度は、介護現場での試食・アンケート調査を、施設入所者の同意を得て実施する。対象者は、軽度の咀嚼・嚥下障害者とし、少量の試食ならびに咀嚼・嚥下のしやすさ等についてのアンケート調査を実施する。そして、施設の医療専門職・職員等からも、食事の準備や介助の立場としての評価を得る。さらに、実用化へ向けての課題を抽出し解決する。 今後の課題として、調整する食材の種類を増やす必要があること、及び、加工前の原料の背景(産地等)が異なったとしても測定値の変動幅が、できるだけ小さくなるように処理を行っていくことが望まれる。
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