2015 Fiscal Year Research-status Report
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26350121
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
加藤 範久 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (20144892)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊豆 英恵 独立行政法人酒類総合研究所, 研究部門, 主任研究員 (00335746)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エタノール / 老化 / アルコール脱水素酵素 / 臭覚受容体 / 骨格筋 / 筋力 / グルココルチコイド |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 前年度までにSAMP8老化促進モデルマウスを使った実験で脳機能(特に探索行動)が1%エタノール摂取で高まり、老化スコアは抑制され、J-カーブ効果が確認された。そこで、今年度は脳の遺伝子発現を網羅的に調べたところ、脳疾患の進展に先立ち機能低下が報告されている臭覚受容体の遺伝子群の発現が1%エタノール群で大幅に増加し、2%エタノール群では対照群と差がなくなり、少量エタノールの老化に対する効果との関連性が認められた。 (2) 前年度のSAMP8老化促進モデルマウスを使った実験で筋力の増大を見出し、その効果を追試し確認した。さらに、骨格筋の遺伝子発現を網羅的に調べたところアセチルコリンシグナリングに関連する因子の遺伝子発現が少量のエタノール摂取により増大していた。この結果は、少量のエタノールによる運動神経の改善を示唆している。さらに驚くべきことに、血中のコルチコステロンが少量のエタノール摂取により濃度依存的に減少していることが見出された。従来、エタノールの多量摂取による悪影響(筋力低下、心臓病、肝障害、脳疾患など)に血中コルチコステロンの増加の関与が考えられてきたが、少量エタノールの摂取ではむしろ減少するということが判明した。このことは、少量エタノールの効能へ血中グルココルチコイドの減少が関与している可能性が出てきた。 (3) SAMP8老化促進モデルマウスを使った実験で脳のAdh1発現が1%エタノール摂取の条件で劇的に増加することを見出したので、その他の組織等でも調べた。その結果、KKAy肥満・糖尿病モデルマウスを使った実験で肝臓のAdh1発現が1%エタノール摂取の条件で増加することを見出した。しかしながら筋肉や大腸等の他の組織では見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SAMP8マウスを用いた実験で少量エタノールの効能は脳機能関係でも見られることが確定したことが最も重要な進展と思われる。脳に関しては、Adh1や臭覚受容体の発現増大を介した機構が推定され、アルコールのJ-カーブ効果とも一致した。これらの成果は、アルコールのJ-カーブ効果が動物実験により実証され、ヒトの場合の疫学的研究とも一致した点で重要である。さらにその機構の一端までも示唆され、順調に研究が進展していると思われる。 一方、SAMP8マウスでは想定外の結果として少量エタノールによる筋力増強作用が見出された。ただし、この場合はアルコールのJ-カーブ効果は示されなかった。これらの結果から少量エタノールの効能に関する問題は、アルコールのJ-カーブ効果を示す場合と示さない場合と二通りの効果があることが示され、今後の研究の二つの方向性を示した。さらに驚くべき効果として、少量エタノール摂取による用量依存的な血中コルチコステロン減少効果が見出された。従来、エタノールの多量摂取により血中グルココルチコイドの増加が報告され、そのことがアルコールの有害作用に関与することが示唆されてきた。そのため、少量アルコールの摂取の場合は真逆の効果となることが示唆されたことになり、今後の研究の方向性に大きく影響することが示唆された。 以上より、全体的には概ね順調な進展が見られ、さらにこれまで想定しなかった新たな方向性も示された。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)少量エタノール摂取の効能と血中グルココルチコイドとの関係 SAMP8マウスを用いた実験で少量エタノールによる血中グルココルチコイドの減少を追試、確認するとともに、他のストレス関連因子(ACTH、エピネフリン等)も調べる。合わせて、グルココルチコイドと関連する因子(グルココルチコイド受容体やその下流の遺伝子発現等も含む)の解析を行なう。特に、db/db肥満モデルマウスなどでも血中グルココルチコイドが顕著に増加しており、それらの脂質代謝異常に寄与していることが報告されている。さらに近年、グルココルチコイドの作用に関わる肝臓や脂肪組織の11beta-hydroxysteroid dehydrogenase type 1(11β-HSD1)が、メタボリックシンドローム増強作用など脂質代謝異常につながるターゲットとされている。そのため、このdb/db肥満マウスの血中グルココルチコイドに対する少量エタノールの効果とともに、組織の11β-HSD1活性や発現についても調べる予定である。 (2) 大腸がん発現に対する少量エタノール摂取の影響 DMH誘発大腸がんモデルラットを使い、少量エタノールの効果を調べる。合わせて大腸の腫瘍関連因子の遺伝子発現や腸内細菌叢など腸内環境についても調べる。既に予備試験で、1%エタノール摂取により大腸腫瘍の発現が抑制され、J-カーブ効果も見出しており、その追試を兼ねて再度動物試験を行う。あわせて、大腸粘膜のがん関連の遺伝子発現解析も行い、少量エタノールの大腸腫瘍の発現に対する効果の機構解析も行なう予定である。
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Research Products
(9 results)