2014 Fiscal Year Research-status Report
異文化「体験」を活かす学習環境デザインの開発―原初的コミュニケーションの観点から
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26350348
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
久保田 真弓 関西大学, 総合情報学部, 教授 (20268329)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 海外体験 / 発展途上国 / 経験 / PAC分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、発展途上国を訪問した際に体験する対象を特定し、今後のスタディツアーや体験学習の学習デザインを形成する上での示唆を得ることである。明確な目的をもった海外体験では、どのような異文化の現象をつかみ取ってくるのか、特に発展途上国での体験の諸相を考えることにした。 そこで、セネガルとフィリピンにそれぞれ目的をもって短期視察に行った調査協力者3人に対し、PAC(個人別態度構造)分析を行った(内藤,1997)。PAC分析には、「当該テーマに関する自由連想」など感性のレベルと新たな関係性を発見する分析的なレベルがある。それらを活かしてどのような視点で海外体験をしてくるのかを明らかにしたいと考えた。 調査協力者Aは、セネガル、調査協力者Bは、フィリピン・レイテ島、調査協力者Cは、フィリピンを10日間ほど訪問し、帰国後2週間以内にPAC分析を実施した。訪問先は、3人とも初めて行く場所である。PAC分析の結果、まず、開発支援の在り方を「見たい・知りたい」という目的を持って渡航すると、その視点で対象を切りとることができ、それを豊富な比較軸で様々な角度から検討していることが分かった。次に、「相手のために何かをする」という行為までをも念頭に対象を見ると、切り取り方は、相手の立場からのものが多くなり、共感的な見方になっていた。最後に、現地の状況を把握するために「とにかく先輩についていく」というレベルでは、自分がかかわった人々や活動を通して、自分の感情が揺れた状況を中心に主観的に切り取っていた。 これらから、今後実施するスタディツアーの要件を考える際の指針をさらに深めることとする。また、PAC分析の有用性として、感性的「体験」と認知的「経験」の中間的存在として、個人の態度が把握でき、態度を可視化することで本人も気がつかなかった視点を浮き彫りにできることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、異文化接触時における大学生の「体験」を認知だけでなく情動と行動に着目して把握することを目指し、異文化理解促進のための学習環境デザインを開発することを最終目的としている。そこで、平成26年度は、以下のことを実施した。 1)3年生の春学期のゼミの時間を利用してエピソード記述(鯨岡, 2005)の仕方を学習した。また、大学院生にもエピソード記述を学ばせ、修士論文の研究方法として取り入れた。 2)9月と2月に発展途上国へのスタディツアー(10日間位)を実施した。スタディツアーの期間中は、毎日教員と共に振り返りの会合を持ち、気がついたことを共有し、記録した。スタディツアー実施後は、教員が参加者を対象に半構造化インタビューやPAC分析を実施した。一方、参加者は、スタディツアーの体験をもとに報告会を開催、さらに報告書を作成した。 発展途上国にスタディツアーで参加・活動した大学生の異文化体験の諸相については、半構造化インタビューとPAC分析で、おおむね捉える事が出来た。しかし、大学生が、エピソード記述の視点で自らの体験を捉え記述できるようにするには、時間がかるようであった。26年度では、大学院生にもエピソード記述を学ばせ、修士論文の研究方法として取り入れたので、その知見を活かして、異文化体験をする大学生にもエピソード記述を学ばせ、うまく活かせるように教育方法を考えていこうと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、異文化体験を意味ある経験として自己の中に蓄積する前の段階の「嗚呼!」というような「体験」に気付き、それを記録するためにエピソード記述(鯨岡, 2005)という手法の利用を考えている。エピソード記述とは、関与する対象を単に客観的に記述するのではなく、自分の関与の度合いに応じて見えてくる事象として取り上げ記述する方法であり、「観察の仕方」と「関わり方」を同時に意識し、記述する必要がある。 フィリピン・スタディツアーでのさまざまな活動から、参加者(大学生)は、相手(フィリピンの大学生や孤児など)とのかかわりから、様々な体験をしていることはインタビュー結果等からうかがえた。そこで、27年度は、さらに各個人がエピソード記述として異文化体験を記録して、体験集を作成することを目指す予定である。
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Causes of Carryover |
必要図書を購入したが、残額では清算できなかったため、次年度に繰り越し清算するためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
*すでに購入した図書費を清算する。 *9月にゼミ生12人を対象としたフィリピンへのスタディツアーを実施し、スタディツアーでの体験を報告書としてまとめる。 *9月に電気通信大学で開催される教育工学会で発表する。
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