2015 Fiscal Year Research-status Report
ルネサンスの批判的学問論の研究――ペトラルカ,サルターティ,ベイコンを中心に
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26350364
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
東 慎一郎 東海大学, 総合教育センター, 准教授 (10366065)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学問論 / ルネサンス哲学 / ペトラルカ / 懐疑主義 / キケロ / 中世哲学 / 17世紀哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)成果としては,まずペトラルカ学問論の研究を進めた.(a) ペトラルカと古代懐疑主義との関係については,キケロ『アカデミカ』に見られる懐疑主義について理解を深め,それが根源的懐疑主義や緩和的懐疑主義の議論も紹介していることを見出した.その結果,こうした議論を紹介するペトラルカ自身,独自の文献学的考証や哲学的考察はあまり加えていないものの,中期アカデメイアの懐疑主義についてその本質をよく捉えていたことが理解できた. (b) また,古代懐疑主義とペトラルカの懐疑主義の方向性における相違も明らかになった.ペトラルカにおいては,古代懐疑主義に見られるような,現実的,実践的性格ではなく,認識論的関心が前面に出ている.学問の限界を示すというペトラルカの意図,およびその背後にある信仰主義は,古代の倫理的関心から離れ,アウグスティヌスや近代以降の懐疑主義に近い.以上の研究成果は,前年度に行われた国際コロック2つにおいて発表された. (2)成果の第2は,中世,ルネサンス,17世紀の学問論史および哲学史を主題とする国際コロックを開催できたことである.招聘した2名のフランス人研究者とともに成果発表,およびディスカッションを行い,中世後期から初期近代までの学問論の多様性と連続性に光を当てることができた.とりわけ学問論史に関するコロック(“Penser les sciences du Moyen Age a l'Age Classique”,12月5日,東京・東海大学代々木校舎)では,中世後期における心理学(霊魂論)の学問論,ペトラルカから16世紀の数学論までのルネサンスの学問論,そしてデカルトにおける学問論が取り上げられ,それぞれの時代におけるテーマの違いが浮き彫りにされた.会場とも活発に議論が交わされた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在は概ね順調に推移している.ペトラルカの学問論をめぐる研究については,懐疑主義との関係解明にこれまで多くの時間が割かれており,この点において当初の研究計画からやや離れている.しかし,それはこの問題について予想より多くの成果が得られたためで,全体の研究計画から見れば十分許容可能な変更であると判断できる.また,国際コロックの開催により,やはり大きな成果が得られている.この点でも,現時点で研究計画は順調に推移していると言ってよい. なお,平成27年度終了時点で,研究予算に若干の余剰が生じているが,これは国際コロック開催の際,海外の研究者招聘に使った交通費・宿泊費が,シーズンの違いによる旅費・宿泊費の低下,支出額が当初の見込みより少なく済んだためであり,研究過程の大きな変更のためではない.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,申請時の研究計画通り,ペトラルカ,次いでサルターティにおける学問論の研究を進める.そのために引き続き書籍の購入,国内外の研究のための出張の実施,必要とされる新たな備品の購入を行う.なお,昨年度に実施した国際コロックを通じ,学問論史発展の上で国際的な研究者の交流が意義深いことが理解できた.そのため,諸事情を考慮しつつ,再び国際コロックを計画し実施する可能性について考える.
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Causes of Carryover |
前年度は国際コロックを2つ行う予定で予算配分を決定したものの,実際はシーズンによる旅費や宿泊費の価格,および予約をかなり早い段階に入れることができたことから,航空運賃や宿泊費を大幅に節約できた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度の余剰分は,今年度,および最終年度である来年度に分割して使用する予定である.特に,最終年度は再び学問論史の国際コロックを実施し,4年間の研究計画の成果をまとめることを新たに構想しており,その費用に充当する予定である.仮に諸事情のため最終年度の国際コロックを取りやめる場合は,費用は研究に必要な物品や書籍を追加で取りそろえ,研究成果をいっそう充実させるために支出する予定である.
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