2017 Fiscal Year Research-status Report
ルネサンスの批判的学問論の研究――ペトラルカ,サルターティ,ベイコンを中心に
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26350364
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
東 慎一郎 東海大学, 現代教養センター, 准教授 (10366065)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ルネサンス学問論 / ペトラルカ / 懐疑主義 / ソールズベリーのジョン / キケロ / ラクタンティウス / 中世の懐疑論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,研究計画通り,ペトラルカと懐疑主義の関係について調査を進めた.他方で,サルターティの学問論に関しては,計画通りに研究を進めることはできなかった. ペトラルカにおける懐疑主義は,16年度以来研究に取り組んできた.16年度の段階では,キケロ『アカデミカ』の記述とペトラルカを比較し,ペトラルカがどのようにキケロを利用したかにいくらか光を投じた.報告年度(17年度)では,調査の範囲を広げ,ペトラルカと関連が指摘されてきた懐疑主義や懐疑論の著作家を幾人か取りあげ,ペトラルカと比較した.例えば,ペトラルカが親近感をもって読んでいたであろう思想に,キリスト教的護教論の立場からの人間知性批判がある.17年度の研究では,こうした比較の視点からペトラルカの独自性を浮き彫りにすべく調査研究を進めた. まず取りあげたのがソールズベリーのジョン(1115前後-1176)であるが,その自由学芸称揚の書である『メタロギコン』,および宮廷人の心得を説いた『ポリクラティクス』には,ペトラルカとは異なり,かなり穏健な知識批判の立場が見られる.また,ペトラルカの懐疑論は古代の護教論者,フィルミアヌス・ラクタンティウス(250前後-325前後)にも負っていると指摘されている.キケロの修辞学を重視した点でも両者の思想は重なる部分がある.しかしラクタンティウスは,ペトラルカとは違い学問の根拠は問題にしていない.最後に,ペトラルカの同時代,オッカムやビュリダン等の14世紀の哲学者たちもまた懐疑主義と取り組んでいたことが知られているが,神の全能や外界への懐疑など,実践や倫理の問題と切り離された彼らの議論を読んだ形跡は,ペトラルカのテキストには判別できない.このように,ペトラルカの懐疑主義は独自の目的のもとで議論を選んでいた可能性が濃厚であると結論できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では,ペトラルカの研究に一段落を付け,サルターティの学問論に進んだ上で,4年間の研究計画を論文の形で発表し,研究成果をまとめる予定であったが,現段階では研究成果のまとめまで到達できておらず,その点では計画を未達成である.ペトラルカ学問論の研究は,ルネサンス学問論の歴史解明にとって重要な課題であり,上述のように,その点では一定の成果に達することができた.ただ,17年度は子育ておよび関係する一連の家事に予想より時間を取られ,その分,総体として見れば研究成果がやや少なめである点は否めない.研究計画の1年の延長申請を行ったのも,そうした事情からである. 新たに最終年度になった18年度は,昨年未達成だった事柄のうち,ルネサンス学問論史の研究成果をまとめて論文で発表するという目標の達成をめざす.そのために,現在取り組んでいる,ペトラルカの懐疑主義とその思想史的文脈や意義の明確化という課題に一定の目途をつける予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように,18年度では研究計画最終年度として,ペトラルカ学問論に関する研究成果を論文の形でまとめて発表することを最終目的にする.目的達成の上で必要になるのが,現在取り組んでいる,ペトラルカの懐疑論というテーマで一定の結論に達することである. ペトラルカの懐疑論の問題は,更に17年度で扱った思想家たちとの比較を具体的に遂行することで達成される.すなわち,ラクタンティウス,ソールズベリーのジョン,そして14世紀哲学の懐疑主義について,テキストに即したより具体的な分析,そしてペトラルカとのより具体的な比較作業が必要になる.特に,オッカムやビュリダンの懐疑主義的議論については調査が不十分であり,この問題に時間をかける予定である.
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Causes of Carryover |
現在研究代表者は,配偶者とともに2人の子育ておよびそれに関連する一連の家事を分担しているが,17年度は当初予想していたよりもそれに時間を取られ,その分,研究成果として本来よりも達成が少なかった.そのため,研究計画を1年延長し,現在はその申請が受理された段階にある. 次年度使用額は,ルネサンス学問論研究の仕上げと,成果発表にかかる費用に充当する予定である.
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