2014 Fiscal Year Research-status Report
日本の動物学におけるアマチュアナチュラリストの役割
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26350373
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
川田 伸一郎 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (30415608)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 科学史 / 動物学 / 標本商 / 採集人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は横浜を拠点として明治期に活動した貿易商,アラン・オーストンに関して,当時の文献記録と新聞記事などの文献資料について調査を行った.明治期に創刊された学術誌である『動物学雑誌』『大日本水産会報』『地学雑誌』といった資料から,オーストンに関する記述,もしくは彼自身が執筆した文章をピックアップした.これまでに知られるところではオーストン自身が記した論文・報文といったものは知られていなかったが,7件の特に水産関係の文献が存在することが明らかになった.またオーストンが博物標本だけでなく機械関係の貿易も行っていた知見や,横浜ヨットクラブの創設者のひとりであるという知見をもとに,明治期横浜に関して書かれた文献を調査したところ,オーストンの交友関係や彼の会社の内部に関する情報が多数得られた.オーストンの会社で雇用されていた人物は,横浜開港資料館所蔵の「Japan Directory」及び国立国会図書館所蔵の「日本紳士録」から整理することができた.これらの既公開資料を取りまとめて,「オーストン基礎資料」と題した総説を執筆し,3月学術誌に投稿した.現在査読中である. さらに未公開の資料として,英国自然史博物館アーカイブ所蔵のオーストンから同博物館及びロスチャイルド動物博物館へ1890年から1911年にかけて送られた手紙に関して,文字おこし及び翻訳の作業を進めた.これらの結果,オーストンが雇用した日本人採集人の一人である勝間田善作について,伝記に書かれた内容とは年代的な不一致があることが判明した.勝間田は19世紀の末期にオーストンに依頼されて琉球で採集を行い,またその後中国海南島に移住して標本を収集し,その標本は英国に送られたとされている.これらの採集が行われた年が約5年前倒しされて記述されていることが判明した.この成果をまとめて,哺乳類学会京都大会において口頭発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度は本課題で主たる調査対象としたアラン・オーストンについての基礎資料をまとめることが目標であった.文献資料などの調査はほぼ完了し,論文として投稿することができたので,進捗状況は順調であると考える.着手を予定していたオーストン直筆の手紙について,すでに解読作業を進めており,良い成果が得られている.
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は26年度から着手した英国自然史博物館所蔵手紙の解読作業を完了し,またアメリカ合衆国の博物館での海外調査により手紙などの資料の充実を図る予定である.スミソニアン国立自然史博物館,ハーバード大学比較動物学博物館などのキュレーターおよびアーカイビストに連絡を取り,資料の閲覧を求めていく.同時にオーストン経由で海外へ流失した標本についてもリストとしてまとめていく予定である.
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Causes of Carryover |
26年度に次年度使用額が生じた理由としては,研究代表者の所属機関での展示関係作業が多かったため,予定していた出張がスケジュールの都合上行えなかったことが大半である.資料収集のための出張予定であったが,目的としていた資料は英国自然史博物館から電子媒体で入手するなどの手段で大部分補ったため,研究にはそれほど支障を生じなかった.また調査補助者が雇用を予定していた日数に満たなかったことも,次年度使用額が生じた理由としてあげられる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額に関しては27年度に予定しているアメリカ合衆国への出張期間を延長し,予定していたより多くの博物館からの資料収集を行う経費として使用する予定である.
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