2015 Fiscal Year Research-status Report
日本の動物学におけるアマチュアナチュラリストの役割
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26350373
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
川田 伸一郎 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (30415608)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 科学史 / 動物学 / 標本商 / 採集人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は英国出張によってさらに未発掘であった資料の充実を図った.20世紀初頭に活躍した博物学者ダーシー・トムソンが1897年に来日した際に,横浜や東京で収集した博物標本資料に関するアーカイブを調査することを目的として,英国スコットランドのセントアンドリュース大学に保管されている書簡などを閲覧した.またダンディー市に所在するダンディー大学のダーシー・トムソン動物学博物館を訪問し,上記滞在時に収集した標本を観察し,同大学の研究者との意見交換を行った.その結果これらの資料は横浜の標本商オーストン商会や東京の標本商米山米吉から入手したものであることが確認できた.米山米吉に関しては,人物像や標本商としての実績に関して未知な部分が多く,今後調査予定である. また,国内での調査としては,オーストンについて初めての伝記を執筆した永澤六郎という,博物学史上謎とされる人物に関して,人文科学的な調査を行った.その結果,この人物が東京帝国大学に在学していたことや,その後北米へ移住したという既存の情報に加えて,カナダのバンクーバーで新聞社に勤務しており,戦前まで滞在していたことが明らかとなった.現在,国立国会図書館に所蔵されている新聞資料を調査することによって,この人物に関する調査を進めているところである. 昨年度末に投稿した総説「アラン・オーストン基礎資料」に対して受けた査読者の意見を基に情報を補完する作業を行い,3月に山階鳥類学雑誌へ掲載された.これにより,標本商オーストンと多くの彼の採集人との関係がほぼ明確に位置づけられるにいたった.オーストンの採集人で最も著名な折居彪次郎については,英国自然史博物館所蔵の彼が採集した標本を時系列で整理することによって,雇用主との関係を調査継続中である.そのほかオーストンに関する雑誌記事2点を執筆・掲載した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年度は米国出張を行い,オーストンが販売した標本に関する調査を行う予定であったが,執筆した論文の情報を補完する調査などに時間を割く必要があったため,実行できなかった.また国立科学博物館では英国へ流出した自然史標本に関する展示を計画することとなり,本研究課題の成果を一部発信できる場ととらえて,英国での調査に力点を置く必要性が生じたことも,米国出張を28年度に見送った理由である. そのほかの調査に関してはおおむね順調に進められていると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
27年度に予定していた米国出張のための経費は28年度に繰り越すこととして,調査を予定している.スミソニアン国立自然史博物館・ハーバード大学比較動物学博物館での標本調査及びアーカイブ調査を行い,資料の充実を図る.最終的な取りまとめとしてオーストンを介して海外に流出した標本のリスト化を行う.国立科学博物館では28年度末に日本から英国へ流出した標本などに関する展示が計画されており,本研究の成果の一部を発信するとともに,学術誌への論文投稿を進める予定である.
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Causes of Carryover |
27年度に次年度使用額が生じた理由としては,調査内容が若干変更して米国出張を次年度に見送ることになったことがあげられる.また本研究課題のためのスコットランドに所蔵されている資料・標本調査を行う必要性が生じたため,この英国出張旅費の一部を支出することになった.27年度の計画としては26年度の未使用額と合わせて,長期の米国出張を予定していたが,この26年度未使用額を27年に使用した計算となる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記に挙げた理由のため,時間的に米国出張が実現できなかったため,次年度に繰り越して出張経費として使用する.27年度提出の「研究実施状況報告書」に記したアメリカ出張期間の延長計画は取りやめとし,当初計画通りの予定(1週間程度)で実施する.調査する標本・資料は出張前に十分吟味することで,調査には支障がないと考えている.
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