2016 Fiscal Year Research-status Report
日本の動物学におけるアマチュアナチュラリストの役割
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26350373
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
川田 伸一郎 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (30415608)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 科学史 / 動物学 / 標本商 / 採集人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は前年度に引き続き,1916年の『動物学雑誌』誌上へアラン・オーストンの伝記を執筆した永澤六郎という人物を中心に文献等資料を調査した.永澤は東京帝国大学で動物学を専攻し,当時の『動物学雑誌』に多数の記事を執筆したことで知られるが,研究にさほど熱心でなく,1917年に大学を去ったのちのことは全く分かっていない.彼が執筆した記事をすべて閲覧し,また国立国会図書館所蔵の資料を調査することによって,意外な人物像が明らかとなった. 永澤は1917年以降,当時日本から移住する人物が多かったカナダのバンクーバーに居を移し,現地で日系人向けに作成されていた新聞『大陸日報』においては編集長を務め,ほぼ連日コラム記事を執筆していたことが判明した.記事の中には日本の動物学を紹介するものや,本研究課題の中心となるオーストンに関する記事,及び彼の子孫が関東大震災以降同じくバンクーバーへ移住しており,交流があったことなどが確認できた.記事の中にはオーストンが晩年東京帝国大学の飯島魁教授からカナダで事業を展開するための紹介状を書いてもらったことも記されており,これは前年度にセントアンドリュース大学で調査した資料から判明した,1914年に彼が外国へ移住しようとしていたという内容と符合する. これらに加えて,28年度はオーストンが活躍した明治時代の哺乳類研究に関しても文献情報を蓄積し,調査した内容を一部使用して,日本産哺乳類の一新属記載を行った論文を『Mammal Study』誌で公表した.詳しい成果は日本哺乳類学会の和文誌『哺乳類科学』に「哺乳類学がなかった時代の日本のMammalogy」とする総説を投稿中である.さらに本課題で得られた成果の一部公開を目的として,現在国立科学博物館で開催中の「大英自然史博物館展」とその関連書籍への原稿執筆を行い,明治期の動物学に貢献した人物を紹介することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定では1回の米国出張を予定していたが,本課題の成果発表の場として申請者の所属機関での特別展に積極的にかかわることになったため,予定を変更してオーストンと大英自然史博物館の関係について重点的に調査を行うこととなった.米国の標本については博物館が公開しているデータベースによって情報を補足することができたので,ほとんど支障がなかった. 成果は学術誌に総説を1篇執筆したほか,一般向けの雑誌,展示図録及び書籍において公表され,アラン・オーストンという人物を広く知っていただくことができたと考えている. 「研究実績の概要」に記した28年度の成果により,およそアマチュアナチュラリスト・オーストンの日本での晩年にいたるまでの活動がほぼ解明できた.未確認の資料が今後発見される可能性はあるが,現段階では満足のいく調査ができたと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は当初予定を延長して29年度まで継続することになった.今後の研究の推進方策としては,これまでに得られた情報を論文や一般書籍として執筆し,研究成果をさらに公開する方向へ進めていく予定である.またそのために必要な追加資料についても,図書館等を利用して継続する.29年度へ繰り越される残額は,主として論文別刷り代と必要書籍の購入に使用する予定である.
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Causes of Carryover |
所属機関では28年度に企画展「日本の自然を開いたシーボルト」及び特別展「大英自然史博物館展」が開催され,研究代表者が企画の中心として作業することとなった.そのため当初予定していたスケジュールで研究成果の論文公表など行う時間が十分取れなかったため,論文別刷り代等に使用する予定だった額が生じることになった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
補助期間を一年間延長し,論文等の執筆を行う予定としているが,次年度使用額はその必要書籍の購入と論文別刷り代に使用する予定である.
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[Presentation] 永澤六郎と哺乳類学2016
Author(s)
川田伸一郎・平田逸俊・下稲葉さやか
Organizer
日本哺乳類学会
Place of Presentation
筑波大学(茨城県,つくば市)
Year and Date
2016-09-23 – 2016-09-26
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