2014 Fiscal Year Research-status Report
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26350375
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
江藤 望 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60345642)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大村 雅章 金沢大学, 学校教育系, 教授 (00324062)
宮下 孝晴 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (40174180)
安藤 明珠 金沢大学, 歴史言語文化学系, 研究員 (40726600)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フレスコ画 / フラ・アンジェリコ / チェンニーノ・チェンニーニ / 絵画術の書 / アーニョロ・ガッディ / 漆喰盛り上げ / 円光 / 金貼り錫箔 |
Outline of Annual Research Achievements |
前採択課題において、アーニョロ・ガッディのフレスコ画『聖十字架物語』における工芸的装飾技法(円光の技法、蜜蝋の技法、金属箔の技法)を、彼の弟子チェンニーニの技法書『絵画術の書』に則って解明した。本研究では、アーニョロと同時代の作品を調査しアーニョロの上記3技法との同異を分析することで、当時の技法を包括的に検証する。さらに、フレスコ画とテンペラ画やモザイク画の技法的関係性についても明らかにする。 26年度の現地調査において、アーニョロの他の作品はもちろん同時代の作品にも技法の相違がほとんど発見されなかった。しかしフィレンツェのサン・マルコ修道院にあるフラ・アンジェリコの傑作『受胎告知』と『キリスト磔刑』に施された円光には、チェンニーニの記述とは違う技法が使用されていた。 円光には最終的に金箔が貼られるため、乱反射を防ぐために漆喰の表面を極力平滑にする必要がある。その施策として『受胎告知』の円光には、テンペラ画に使用される二水石膏が塗られた可能性が高い。一方『キリスト磔刑』のものには、同様の施策として金箔を錫板に貼り合わせた金貼り錫箔と推定できる箔材が使用されていた。金貼り錫箔はアーニョロの円光にも確認できたが、両者は円光内部の光線を表す放射線の施工法がまったく異なっていた。アーニョロの円光には、チェンニーニが述べるフレスコ画では一般的な技法で、つまり漆喰が軟らかい時に約5ミリ巾で光線の溝が線刻されその上に金貼り錫箔が貼られていた。しかしフラ・アンジェリコの円光には、金属箔が剥落した下地の漆喰部分には線刻が一切確認できず、しかも金貼り錫箔と思われる箔材の上からテンペラ画に見る極細の線刻が定規を使用して整然と刻まれていた。つまり、線刻は金貼り錫箔上に刻まれていることになる。 以上のように、初期ルネサンスの巨匠フラ・アンジェリコの円光の技法が解明できる大きな糸口を掴むことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研は、前申請課題における最終年度前年度応募により採択されたものである。そのため、前科研の総括と並行して本科研の調査を実施した。以下に、現在までの達成度を前科研と本科研に分けて記す。 前科研の総括として、アーニョロ・ガッディ作フレスコ画『聖十字架物語』の工芸的装飾技法の研究成果報告書を上梓した。内容は、「フレスコ壁画における工芸的装飾技法の美術史的位置づけ」、「『聖十字架物語』における漆喰盛り上げによる円光の技法」、「同壁画における蜜蝋盛り上げの技法」、「同壁画における金属箔の技法」、「3次元スキャニングによる壁画凹凸の分析」以上、研究代表者および分担者による5本の論文で構成されている。 本科研の調査は、研究実績の概要で述べたとおり、アーニョロと同時代の作品を調査することで、当時の工芸的装飾技法を包括的に研究することを目的にしている。今回の調査では、アーニョロの他の作品および同時代のフィレンツェ派の作品を中心に調査を実施した。その中で、チェンニーニの記述と違う技法によるものがいくつか発見できた。中でも、「研究実績の概要」で述べた初期ルネサンスの巨匠フラ・アンジェリコの円光の技法解明につながる大きな手がかりを掴んだことは、特筆すべきである。 これまで、ウフィッツィ美術館をはじめイタリアの美術館や教会の多くは写真撮影を禁じていたが、制度が変わったのか今回の調査ではフラッシュをたかなければ撮影がほぼフリーであった。そのため、今後の研究の進展が期待できる貴重な画像資料を入手することができた。 以上の理由により、現在までの研究の達成度は「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べたフラ・アンジェリコにおける「受胎告知」と「キリスト磔刑」に施された円光の2技法について、現在のところ板絵テンペラ画に用いられる技法をフレスコ画にも応用していると仮説を立てている。具体的な材料として、「受胎告知」の円光の下地部分には二水石膏が、一方の「キリスト磔刑」の円光には『聖十字架物語』の技法研究から錫板に金箔を貼った金貼り錫箔が使用されている可能性が高い。これらの仮説を実証実験を通して立証する。さらに実験によるテストピースを現地へ持参しオリジナルと比較することで、フラ・アンジェリコの技法に肉薄する。なお、本研究結果は論文で発表する予定である。 上記の実証実験と並行して、フラ・アンジェリコの他の作品と彼の系列の作品も現地調査を行う。また、同技法が他の作家にも確認できるか検証したい。現在のところフィレンツェ、アカデミア美術館が所蔵するジョッティーノのフレスコ画に同技法が採用されていることが確認できている。 加えて、他の工芸的装飾技法である蜜蝋盛り上げと金属箔の技法に関しても調査を継続する。26年度はトスカーナ中心にアーニョロと同時代の作品の調査をおこなったが、27年度はそれに加え、アーニョロが色濃く影響を受けた国際ゴシック様式の発端となったシエナ派の作品の調査、さらにはフレスコ画の技法を完成させたジョットの作品を調査すべく、アッシジのサン・フランチェスコ教会とパドヴァのスクロヴェーニ教会を調査しなければならない。シエナ派に関しては、特に金属箔の技法についてこれまでのアーニョロの技法研究に基づいた技法の解明が大いに期待できる。
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Causes of Carryover |
本研究は現地調査が研究の大きな要である。26年度の調査で貴重な調査資料を入手できたことによって、さらに調査地および調査作品の数が増えた。したがって、26年度に物品費として計上していた予算を27年度以降の調査旅費に変更するためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初、27年度の現地調査の計画は、シエナ、パドヴァ、アッシジを予定していたが、26年度の調査でフラ・アンジェリコのフレスコ画において、板絵テンペラ画の技法が応用された可能性が高いことがわかった。これに伴い27年度の調査は、シエナに加え再度フィレンツェを中心にフラ・アンジェリコおよび彼の周辺の画家を対象に現地調査を行う計画である。なお、ジョットのフレスコ画を中心としたパドヴァとアッシジの調査は、28年度に行う。
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