2014 Fiscal Year Research-status Report
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26350377
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
安部 みき子 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80212554)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長岡 朋人 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (20360216)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 古人骨 / 江戸時代 / 近畿地方 / 古病理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
江戸時代人の生活復元をするためには、武士や庶民階級の資料数が少ない畿内の人骨の分析が不可欠である。本研究は江戸時代の典型的な山間部の集落である大阪府茨木市の千提寺遺跡から出土した人骨と、兵庫県の明石藩の家臣の菩提寺である雲晴寺から出土した家老親族や武家の人骨を分析し、畿内のそれぞれの社会階級における人骨の特徴を明らかにする。さらに、江戸時代における人口構成や疾病などの生活環境の検討を行う。 千提寺遺跡の周辺地域は1999年に(財)大阪府文化財センターにより生活環境等の調査がおこなわれ詳細な報告がされている。この調査により本遺跡の6か所の調査区は調査区ごとにそれぞれが同一家系の墓域として独立していることがわかり、各墓域の家系が判明しているいる。本遺跡からは生活環境や歴史背景が明確な人骨が150体以上まとまって出土している。一方、雲晴寺からは28体の人骨が出土し、これらの人骨は藩の記録など社会的背景が明確である。このように、人骨の背景が明瞭で社会階級が異なる集団は、当時の生活を復元するためにも非常に貴重な資料である。 今年度は、千提寺遺跡と雲晴寺出土の人骨の整理と基礎データーを作成した。まず、保存状態の良いものから順次出土人骨のクリーニングと遺存部位の記載を行った。遺存部位の記載の際に性の判定と年齢の推定を同時に行った。さらに、身長を推定する骨計測部位が遺存している長骨は骨計測を行い、推定身長を算出した。古病理学的な検討をするために、齲歯などの歯の状態と骨の疾患を観察した。主に椎骨などの関節症には病変の程度の判定基準を設け、疾患の程度を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
千提寺遺跡出土の人骨は約70%(111体)の整理が終了した。性の判定結果は、男性30体、女性27体である。年齢構成は10才以下の幼児が14体、15~20才が男性3体、女性1体、20~40才が男女ともに8体、40~60才は男性9体、女性4体、60才以上では男性3体、女性5体であり、各年齢段階での出現頻度に性差は見られない。また、この墓域には乳幼児も埋葬されており「子墓」の風習は無かったと考えられる。推定身長は男性15体の平均値が155.8㎝、女性8体は147.5㎝である。江戸時代の関東人と比較すると、男性は関東人より低身長であるが女性は高身長である。齲歯は乳幼児を除く全ての人骨に見られ、男性は若い時期から歯を喪失するが、女性は男性より脱落時期が遅い傾向にある。しかし、男女ともに60才前後にはほとんどの歯が脱落してる。脊柱の病変を観察した結果、男性では約50%に頚椎と腰椎に重度の変形性脊椎症が見られ、黄色靭帯骨化症や変形性肘関節症が合併している個体が多い。女性は脊柱の病変が約30%に見られたが男性と異なり黄色靭帯骨化症が多く、変形性脊椎症は比較的軽度である。変形性脊椎症や黄色靭帯骨化症の原因として加齢が挙げられるが、出現パターンに男女で大きな差があり、男性は生業に因るところも大きいと考えられる。 雲晴寺は全ての人骨の整理が終了し、性の判定結果は男性14体、女性8体である。年齢構成は未成人が6体、20~40才が男性5体、女性2体、40~60才は男性4体、女性1体、60才以上では男性2体、女性3体であり、不明は5体である。身長は男性10体の平均値が154.8㎝、女性7体は145.0㎝であり、男性は千提寺遺跡と同様に関東人より低身長であり、女性は良く似た値を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
千提寺遺跡の未整理の人骨をクリーニングや遺存部位の記載をすると共に、性別や年齢、推定身長などの基礎データーを作成する。また、病理学的観察を千提寺遺跡の未整理分と雲晴寺の人骨について行う。 両遺跡の保存状態の良い人骨については詳細な骨計測を行い、頭骨を中心に骨形質上の特徴を明らかにしていく。また、本研究室が保管管理している同時代の大阪市内の豪商の人骨と比較し、その形態学的特徴から社会階級や生活環境との関係を明確にする。また、本研究で明らかになった畿内の人骨の特徴を関東人や九州人と比較して、地域における差異の検討を行う。さらに、千提寺遺跡には隠れキリシタンの墓域も含まれて入り、九州地方に多い隠れキリシタンの人骨との比較を試みる。 人骨の同位体分析より古人骨の食生活などを研究している研究者と共同研究することにより、畿内の社会階級による食生活の相違を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究に用いる遺跡から出土した資料の整理のための人材の確保が十分でなかったため、人件費として請求した金額との差が生じた。 また、今年度の研究資料としている調査地が近距離であったため、旅費として使用した金額が少額で済んだことが請求額との差がでた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料整理のための人材を確保し次年度の早い時期に基礎データーを採集する。 今年度は近距離の資料を扱ったが、次年度は比較資料を調査を始めるため、九州地方などへ赴く計画であるため、本年の繰り越しの旅費も消費する計画である。
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