2015 Fiscal Year Research-status Report
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26350377
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
安部 みき子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (80212554)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長岡 朋人 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (20360216)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 江戸時代 / 古人骨 / 乳幼児骨 / 古病理学 / 近畿地方 / 死亡年齢 |
Outline of Annual Research Achievements |
江戸時代人の生活を復元するためには、社会的階級や生活環境などの背景が明確な人骨を分析することが重要である。また、成人のみを対象とするのではなく、乳幼児など、幅広い年齢層の資料が不可欠である。乳幼児の研究は、大阪府堺市の環濠都市内に位置する喜運寺の「子墓」から出土した乳幼児骨の死亡年齢構成および齲歯などの罹患率を分析した。その結果、死亡年齢は周産期が最も多く、4~5才になると死亡数は急激に減少する。また、齲歯の罹患率を他の地域の乳幼児と比較した結果、九州地方の乳幼児よりも低いことがわかった。さらに、本遺跡は胎児を含む乳幼児の四肢骨が多数出土していることより、長骨からの年齢推定法を確立することができた。 一方、成人骨については、兵庫県明石市の明石城の武士階級の人骨と、大阪府茨木市の山間部に居住していた庶民の人骨を調査した。明石市の人骨は武士階級の菩提寺の墓地から出土しており、武士もしくはその一族であり、この寺の墓碑からは70才以上の男女が少なくとも4名確認されており、その中には91歳の男性も見られる。骨格からの推定年齢も60才以上の男性が2体、女性が3体含まれており、高齢者の割合が多いことを示している。推定身長の結果は、男性は江戸時代の平均よりやや低いが女性は平均値に近かった。また、現在も調査中ではあるが、大阪府茨木市千提寺遺跡の江戸時代の人骨の年齢の推定結果も、明石市の人骨と同様に高齢者が多い傾向がみられる。 江戸時代人の生活環境の復元のために、畿内における乳幼児と成人の死亡年齢構成の差や社会階層における特徴などの分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近畿地方の成人骨の資料として、平成26・27年度は、江戸時代に山間部集落である大阪府茨木市の千提寺遺跡群から出土した人骨のクリーニングと整理を行い、性の判定、年齢の推定、骨計測より身長の推定、齲歯の出現率および骨病変の観察を行った。この結果、男女の出土比に差異は見られなかった。年齢が推定できた人骨の死亡年齢構成は15~40才が20体、40才以上は21体で最も多く、14才以下の少年期の個体は14体である。40才以上の中には60才以上と推定される個体が男性3体、女性5体みられ、高齢者が多い集団であることが推測される。推定身長を江戸時代の平均と比較した結果、男性は平均値より低いが女性は高い結果となった。齲歯の罹患率は非常に高く成人のほとんどに見られ、特に高齢の個体はほぼ全ての歯を生前に喪失していた。さらに、40才以上の個体は男女ともに椎骨の椎体のリップが顕著になる傾向が強く、黄色靭帯硬化症や脊椎症などの罹患率も高くなった。また、男性の高齢者に肘関節症が数名見られた。 乳幼児骨の資料は、愛知県東海市に位置する曹洞宗長光寺の「子墓」から出土した約200体の乳幼児骨である。長光寺は海岸に近い村の寺院であり、庶民の子供が埋葬されていたと推測される。これらの乳幼児骨は平成9年よりクリーニングを始めたが、本年度でクリーニングと整理作業を終えた。年齢推定は歯と四肢骨で行った。四肢骨の年齢推定は、堺環濠都市遺跡で確立した方法を用いた。さらに、齲歯や骨病変の観察を行い、齲歯の罹患率を求めた。また、現在、ポリオに罹患したと思われる人骨が2体、鉛中毒と推測される人骨が2体観察されている。このような骨病変の出現は、江戸時代の衛生環境などを知る上で重要な手掛かりとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
(財)大阪府文化財センターが1999年に茨木市の千提寺地区の生活環境等の調査を行ない、遺跡周辺の山地は古来より良質の石材の産地であることより、石工関係の職業が盛んであったとしている。千提寺遺跡で見られた脊柱や肘関節の関節症などの疾病と職業との関係を民俗学的見地も考慮し、山村における生活様式を検討する。さらに、千提寺遺跡から数十キロメートル離れた兵庫県猪名川町の観音寺遺跡からも江戸時代人骨が十数体出土している。観音寺遺跡も千提寺遺跡と同様に山間部に位置するため、この二か所の遺跡の資料を比較することで、畿内の山村の人々の生活の復元に向けた大きな手掛かりとすることができる。 東海市の長光寺の乳幼児骨は推定した死亡年齢構成は、堺環濠都市遺跡の商人の子供たちや他地域の遺跡から出土している乳幼児の死亡年齢構成と比較し、江戸時代の社会環境が乳幼児の死亡とどのように関係しているかを探る。さらに、齲歯、鉛中毒やポリオなどの古病理学的見地から、江戸時代の生活環境を検討する。 最後に、今回の研究で得られた結果と江戸時代の日本の各地から出土した人骨の結果とを比較し、江戸時代の生活の復元を試みる。
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Causes of Carryover |
今年度より始めた東海市長光寺の「子墓」から出土した人骨の整理作業と基礎データーの収集の続きを行う。さらに、鉛中毒と推測されている個体を化学分析にかけ、死亡原因を追及する。また、兵庫県猪名川町の観音寺遺跡の人骨のクリーニングと整理作業を行う。さらに、本研究室が保管している江戸時代の畿内の遺跡は出土数が数個体と少ないが豪商や庶民など様々な階級を含んでいるため、これらの遺跡の人骨を整理し基礎データーの収集を行なう。これらの作業に従事する人財の確保のため、人件費を必要としている。 また、本プロジェクトの最終年度に当たるため、得られた成果をまとめるための印刷費用を必要とする。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
東海市長光寺の乳児骨の整理を7月までには終了し、先行研究で確立した乳幼児の年齢推定法より死亡年齢を推定する。また、鉛中毒やポリオなどの科学分析を行い、乳幼児を取り巻く社会的環境を復元する。さらに文献上のデーターとも比較し、日本における乳幼児の死亡年齢曲線の地域的、また、社会階層的相違を検討する。 猪名川町観音寺遺跡の資料整理と基礎データーの収集を8月に終え、その後、茨木市千提寺遺跡の結果とともに山間部の生活環境を検討する。さらに、本研究室保管の資料のデーターを加え、社会的階層や居住環境により生じるバリエーションなど、江戸時代の人々の生活を復元する。これらの成果を印刷物とする計画である。
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