2015 Fiscal Year Research-status Report
X線CT撮影はじめ科学的分析を応用した東アジア古漆器の製作技法と保存修復の研究
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26350379
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
小池 富雄 鶴見大学, 文学部, 教授 (40195631)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化財保存修復 / 漆工芸 / 彫漆 / 螺鈿 / CT撮影 / 蒔絵 / 無紋漆器 |
Outline of Annual Research Achievements |
文学部の科学的分析機器および歯学部附属病院の臨床用医療機器を利用して,東洋古漆器の分析(構造・内部破損などを含む)による産地同定、製作年代、製作地比定などの漆工史的研究をおこなった。加えて、保存修復を実際に施工して、漆工芸文化財を実戦的に研究した。いわば文理の融合による東洋古漆器文化財の「健康診断と治療」である。26年度以来の継続作業により、100点を超す公私の漆工品(12世紀~20世紀)を分析、調査した。 従来の東洋漆工史研究では、表面からの目視による美術史的な様式論の研究が主体であったが、本研究では内部構造、顕微鏡レベルでの観察、成分の分析など非破壊分析を基本として様々なデータを蓄積して、編年、産地分析などの判断基準とした。保存修復作業においては、科学的な分析データを併行して実施する保存修復作業に直ちに反映して生かすことができた。このような知見と経験は研究成果として、専門学会に発表をした。以下が主たる学会発表である。1.文化財保存修復学会 第37回大会 於京都工芸繊維大学。2.2015東アジア文化遺産保存国際シンポジウム、於奈良。 また招待による発表、シンポジウム参加が2件あった。3.招待講演;中国浙江省杭州市、浙江省博物館、10月21日 中国漆器文化研究的回顧与展望国際学術検討会において「宋時代彫漆的産地ー杭州(臨安)-日本伝世在銘作紹介」を口頭発表した。4.招待参加;九州国立博物館10周年記念シンポジウム「X線CTを用いた文化財の研究と活用」九州国立博物館 2015年12月19日において、ポスターと発表意見交換をした。予定稿集 同館博物館科学課編集発行 pp82-83。 本研究と同様の最新機材を用いた切り口は、今年度になって、東京国立博物館、韓国ソウル国立中央博物館、中国・上海博物館でも始まり、今後の研究成果の競争・交流により、さらなる進展が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由) 学内外の協力者、研究者、参加した院生の深い理解と支援により、多数の分析サンプルを大学内に一時的に預り、分析・調査ができた。また明治大学、九州国立博物館、東京国立博物館などの同じ領域研究機関との情報交流も緊密にできた。 東京国立博物館では、7億円の高額なX線CT撮影装置3基が導入されて、本年度本格的な運用が始まった。鶴見大学の同様な設備は、附属病院における臨床医療用の機器であり、患者の健康を第一に配慮するために、X線出力や精密度に制約があるものの、ほかの後発の同様研究をする機関と情報交流することにより、さらに今後の進展が期待できる。すでに本研究を開始して26年度、27年度で、100点を超すサンプル分析ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目の平成28年度の研究体制、組織方法は、従来を踏襲する。過去の26年、27年度での調査作品が100点を超したので、学内のほかからの資金により、1冊の中間報告書をまとめる予定である。28年度中に、この成果を他の研究機関(東京国立博物館、九州国立博物館あるいは海外の博物館を含む)などと情報共有することにより、さらに研究が深まり相互の進展が見込める。 CT撮影の3Dデータを閲覧するためには、過去の2年間では附属病院の臨床用閲覧ソフトの提供を受けてきた。この閲覧ソフトはウインドウズPC向けで、人体への健康被害を最少にするためには、高精細を犠牲にしている。しかし今後は、文化財、工業製品向けに高出力で撮影した、より多様で高精細な画像データ閲覧に対応するためには、世界中で普及している無料ソフト「Osirix]が使えるアップル社製マックOSのPCを購入する必要が生じた。有料のウインドウズ向け画像閲覧ソフトは高額すぎるからである。 専門学会での発表は、文化財保存修復学会台38回大会(東海大学 湘南キャンパス 6月25.26日)には、ポスター発表が採択されている。また8月20日にベトナムのハノイ国立美術博物館にて開催の「アジア漆工芸プログラム」にポスターを発表する。これも採択された。
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Causes of Carryover |
当年度の後半において、海外(中国)の学会からの招聘があり、滞在費は中国側負担であったが、延べ日数及び、関連の学術行事、経路など直前まで交通費はじめ出張にかかわる経費が不明確であったので、物品費、人件費など他の部分で、幾分執行を遅らせて様子を見たため。 また8月に国内で開催された国際学会には、研究・保存修復を共同して行っている院生3名が、今年度経費で参加した。従って、上記2件の国際学会への旅費が予定よりも増加した。2つの国際学会への交通費、延べ4人の清算が終えたのは、期末が迫っていたため、物品費の執行を幾分柔軟にして、保留したからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当年度未執行の物品費は、次年度28年度において期初にすべて執行する予定である。既に見積書なども依頼済みである。
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Research Products
(4 results)