2014 Fiscal Year Research-status Report
「道」という形態の世界遺産における斜面災害避災システムの構築
Project/Area Number |
26350380
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
石田 優子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (50710612)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤本 将光 立命館大学, 理工学部, 助教 (60511508)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 斜面崩壊 / ハザード評価 / 防災情報 / 避災システム / 文化遺産 / 観光地 / 降雨特性 / リスクマネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
文化遺産の保全および観光に訪れる人命の保護は重要な課題である。世界に2例しかない「道」という形態の世界遺産は、自然災害から文化財や観光客を保護するための体系的な防災システムが確立されていない。本研究は、世界遺産「熊野参詣道」を対象として土砂災害ハザード評価、一時避難所の設定方法、ユニバーサルな防災情報コンテンツの作成について研究し、利用しやすい情報提供システムを構築することを目的としている。 2014年度は、A:アーカイブ作成、C:土砂災害発生危険評価(3年継続)の他、次年度予定のB:観光客の情報ニーズについて、避難ルートの選定やサインの認識に関するアンケート調査も行った。 A:アーカイブは、GIS上で紙媒体(アナログ情報)を追加し、参詣道の位置情報(デジタル)を作成し、防災情報を重ねて構築する。3県に渡る参詣道の管理状況及び被災履歴、紙媒体地図等、必要データの調査収集は完了したが、デジタル化の過程で、ベースとなる基本地図情報と紙媒体との乖離が大きく、作成するデータの精度に問題が生じたため、作業を一旦止め、地理情報系の専門家の助言を受ける手筈を整え、次年度以降に精度の高いデータを構築できるよう、予定を変更した。 C:土砂災害発生危険評価については、多点雨量観測、風向風速計測を行い、対象とする「横垣峠」では①山間部の降雨特性に局地性は見られない、②斜面方位による有意な差が認められるが、100mmを超す降雨イベントでは風の影響が大きく、通常と異なる降雨特性となる等を明らかにした。これらは秋~冬の観測結果であるため、次年度以降も引き続きデータを収集し、梅雨期や台風期の降雨についても分析を進める。また、数値解析による斜面安定評価をもって一次避難所設定を行うこととし、横垣峠の全線踏査、風化侵食状況の確認、土質調査および原位置調査を実施し、モデル断面作成検討のための崩壊再現解析を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「A:参詣道の地理空間情報および管理、防災情報、被災歴のアーカイブ作成」については、元データとなる紙媒体地図と基本地図情報(デジタルデータ)が整合しないという課題に直面し、また扱うデータ量が大きいためPCのスペック不足等の課題もあり、作業は予定より遅れている。参詣道が概ね山間部を通っているため、オルソ画像や航空写真等での確認も困難であるが、地理情報系の専門家の助言を受けながら可能な限り早期に正確なデータの構築を進めたい。 「B:デジタル・アナログ情報提供システムの検討および観光客の情報ニーズ」については、海外出張の機会に観光地で一部アンケート調査を先行実施し、予定より研究を推進することができた。 「C:土砂災害発生危険評価」については、当該年度に予定していた計測機器設置は完了し、データの回収および分析により、短期間ではあるが、ある程度の傾向を掴むことができた。台風期に1度、落葉による雨滴侵入部の閉塞によってデータ欠損および機器の故障が生じたため、ごみ受けの改良(追加設置)、機器の交換等を行い、メンテナンスを高頻度化した。 研究の進捗にともない、一通りの課題が抽出され、順次改善を計ってきており、遅れたものもあるが、先行して進められた分もあるため、全体としてはおおむね順調に進展しているものと評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、今年度は防災情報提供システムに関する研究に注力する。情報形態について、①現状把握→②課題抽出→③改善案の作成→④改善効果の検証の4STEPで研究を推進する。また観光客の情報ニーズについて、アンケート調査から課題を抽出し、案内表示のプロトタイプの作成と有用性の検証を行う。現状把握では情報が多い方がよいため、STEP終了後も継続して情報を収集し、データとして蓄積する。またクリエイティブな部分はいつ着想できるか分からないため、課題抽出の終了を待たずに良いアイデアを常に発想することを心がけるほか、改善案やプロトタイプについては学内の研究者に意見を求め、ブラッシュアップを図る。 また、多点雨量観測を引き続き行い、風の影響を分析するための風向風速データも蓄積する。計測雨量の妥当性検証と他地域山間部での雨量把握のために、2014年8月から運用が開始された気象庁の高解像度解析雨量データの提供を気象関連会社に依頼したので研究終了年度までに分析を行う。加えて、崩壊現象には地盤内の水分状態の把握が必要となるため、現地の代表的な地質である熊野酸性岩類神木流紋岩分布域と、熊野層群泥岩分布域にある既存のボーリング調査孔を使用した地下水位観測を計画した。ボーリング孔の管理者である三重県に、7月調査時に許可申請に行く予定をしている。斜面安定評価手法である解析については、理論とモデル構築のスキルアップのために講習会への参加を予定している。 昨年度に計画変更を余儀なくされたアーカイブの作成については、フィッティングのテクニックで対応することや、その他の方法について複数の地理情報系の専門家に相談を行い、必要に応じて指導を依頼し、より良い方法を早めに決定して、確実にデータ作成を推進する。
|
Causes of Carryover |
雨量計測の観測位置を具体的に再検討したところ、①斜面方位による影響、②木による閉塞の影響、③風の影響の可能性が考えられたため、より正確かつ多くの考察ができるよう、当初の観測地点5箇所を9箇所に増やすこととした。計画変更に伴う計測機器購入のための経費の不足分は、雨量計の機種を安価なものに変更することで捻出し、風向風速計を購入した差額によって、次年度使用額の一部が生じた。 また、当該年度に申し込んだ学会発表や講習会の費用を、当該年度中に振込むために当該年度予算だと思って計上していたが、実際には開催日程が次年度であるため、次年度予算で処理されるとのことで、これによっても次年度使用額の一部が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
実際に雨量観測を行ってみて、当初の想定よりもメンテナンスの回数を増やす必要があることが明らかになったため、現地へのメンテナンスとデータ回収のための旅費交通費、および学会発表の旅費交通費に充当する。また、解析の精度を高めるために、観測孔の使用許可が得られれば地下水位計測の機器購入に充当する。
|