2016 Fiscal Year Research-status Report
空間情報データベースによる文化財の災害被害予測の高度化及び防災計画策定への応用
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26350384
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
二神 葉子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 室長 (10321556)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化財防災 / GIS / イタリア中部地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、2016年10月19日~21日にイタリア・ローマでの聞き取り調査を行った。 1.ローマ第3大学本部で、2016年8月24日に発生したイタリア中部地震の際の、市民防災隊(Protezione Civile)の活動について聞いた。基礎自治体の市民防災隊は、損傷程度の診断で立ち入り可能とされた建物でのみ文化財の救出を行うなど、他組織と連携した救援活動を実施したことがわかった。 2. 同大学建築学部では、イタリア中部地震の際の建造物の被害状況調査について聞いた。同学部のCamillo Nuti教授によれば、2009年ラクイラ地震などの際に言われた、修復部位の損壊程度がオリジナルの部分に比べ大きい状況は確認されず、補強された建物の損傷は小さく、補強されなかった建物の損壊は大きかった。またラクイラ地震の後、公共施設を中心に耐震補強が実施され、イタリア中部地震による被害は限定的となったた。一方、文化財保存修復高等研究所(IsCR)による文化財危険地図は存在も知らなかったとのことであった。イタリアでの修復や補強の地震防災上の効果、文化財GISによるハザードマップの防災及び救援に対する活用状況の再確認が必要である。 3 国立地球物理火山学研究所(INGV)で、歴史的建造物の地震波への応答や地震発生状況のモニタリング、地震発生時の観測データの市民への提供方法について聞いた。INGVには見学可能なモニタリングルームが設置され、交代制で研究者が常駐、地震発生時には研究者の検討を経て市民に通知する仕組みとなっているとのことであった。 4. 文化財保存修復研究センター(ICCROM)で、文化庁から出向中の職員と面会した。同職員は、ICCROMでの日本の地震防災に関する経験や技術に対する関心は高く、日本の貢献の余地が大きいと示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年に日本で発生した地震、特に4月の熊本地震の前震、本震により、個別の文化財の地震危険度評価について、より詳細な見直しが必要となった。またその際、地盤増幅率を加味した地震の超過確率といった、あらかじめGISへの取り込みが可能な状態で提供されている情報のみならず、その文化財が所在する場所の地形の情報など、個別にデータを加工しなければならない情報を追加する必要があり、それらの選択と加工の作業に時間を要している。 イタリアでの調査については、当初、文化財のリスクマップに関する内容を中心に考えていた。しかし、現地調査の際に、変動地形学や建築学の分やから文化財防災を扱う専門家への聞き取り調査を行ったところ、彼らがほとんどリスクマップを利用していなかった。また、文化財分野の関係者から聞かれたような、修理によってかえって建造物の脆弱性が増したとの言説を否定するような状況を知った。そのため、当初の方針とは異なる内容の調査が必要となっている。 これらの理由により「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも述べたように、平成28年熊本地震の発生によって、地震危険度評価についてのより詳細な見直しが必要となった。現在、国宝・重要文化財に指定された12の天守を対象に、評価及び評価内容について、地震の専門家ではない関係者にとってもわかりやすい情報や、その発信の方法について検討を行っている。この結果を学会で報告し、フィードバックを得たうえでさらに改善するとともに、対象となる文化財を広げていく。 また、イタリアでの調査を引き続き実施し、地震発生時及び地震防災のためにどのような活動が行われているのか、また、実際にそれらの活動に役立てられている情報はどのようなものであるのかについて、さらに詳細に検討する。
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Causes of Carryover |
平成28年度に日本で発生した地震、特に4月の熊本地震の前震及び本震により、個別の文化財の地震危険度評価について、一層の検討が必要となった。また、イタリアに関連した調査については、2016年10月に実施した現地での聞き取りから、当初の方針を変更しなければならないことがわかった。また、所属先での業務について当初想定していなかった業務の割り当てや、職員の退職といった要因が重なり、十分な調査研究の時間が取れなかった。そこで、研究期間を延長することとして、現地調査以降の支出を控え、次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国指定文化財である12の天守の地震危険度評価について、日本文化財科学会での成果報告を行う。また、地形等のGIS上で利用する関連のデータの購入や、多数のデータの処理や表示に必要な機器の購入も検討している。 さらに、イタリアでの現地調査及び現地専門家の招へいを計画している。
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