2014 Fiscal Year Research-status Report
博物館植物標本の生存組織を用いた絶滅集団の復元:組織培養法の確立と普及
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26350387
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
志賀 隆 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60435881)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 匡弘 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 学芸員 (80610542)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物標本 / 組織培養 / 生物保全 / 絶滅危惧種 |
Outline of Annual Research Achievements |
博物館の標本庫には、都市化などにより現在では失われてしまった植物集団の標本が残されている。このような種の標本から種子を収集し、生存組織を組織培養することにより、失われた集団を復元したり、種の遺伝的多様性を回復したりできる可能性がある。本研究では、博物館標本種子の生存組織を用いた組織培養法を確立すると共に、植物体を得て系統保存と野生復帰を行う。また、標本作製の意義と標本の価値について教育普及を進める。平成26年度は標本種子から組織培養を行う対象種の野生集団、もしくは近縁種の野生集団から種子を収集し、健全種子の胚などを用いた組織培養を行うことを目標とした。研究実績は以下の通りである。 1, 組織培養対象種の選定と野生集団の種子の収集:標本種子を用いて組織培養を行う前段階として、健全種子を用いた組織培養方法を確立するために、既に標本種子の生存が確認されている絶滅危惧種の中から様々な胚タイプ、果実タイプ、生態を網羅するように5種選定し(イソスミレ、ヒメヒゴタイ、ミスミイ、イヌハギ、スズサイコ)、その野生集団から当年種子を採集した。 2, 野生集団の種子を用いた組織培養:博物館標本の種子には限りがあるため、前項で野外から収集した種子の胚を用いて組織培養試験を行った。培地には一般的なMS 培地の他に数種類用いて、最適な培地条件、温度条件、組織部位を検討した。 3, 博物館標本の種子の収集:組織培養試験を行う、ミスミイ、ヒメヒゴタイ、イヌハギ、スズサイコの博物館標本種子を収集した。 4, 結果のまとめ:本研究に関する研究成果を、日本植物学会(平成26年9月)、日本植物分類学会(平成27年3月)において発表した。本研究内容の一部を大阪市立自然史博物館にて開催されたミニ展示「植物標本のタネは地域の自然を救う!?」(2014年3月15日~5月31日)において紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた「組織培養対象種の選定と野生集団の種子の収集」、「博物館標本の種子の収集」はそれぞれ予定通り成果を得ることができた。また、「野生集団の種子を用いた組織培養」については、培養試験を2種(ミスミイ、ヒメヒゴタイ)で開始することができた。おおむね順調に進展しているといえるが、対象種の培養条件の確立には至っておらず、次年度への課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究を推進する内容は以下の通り。 1, 野生集団の種子を用いた組織培養(平成26年から継続):平成26年度の課題として、健全種子を用いた組織培養方法の確立が挙げられる。平成27年度は様々な培地条件、前処理条件において培養試験を行い、組織培養法をの確立を目指す。また当初予定していた30種からヒメヒゴタイ、ミスミイに絞ってまずは培養実験を進める。 2, 博物館標本種子を用いた組織培養:平成26年度に収集した博物館標本種子を用いて組織培養試験を行う。組織培養は前年度の野生集団の種子を用いて検討した最適な条件で行う。当年種子を用いて、テトラゾリウムなど染色試薬を用いても標的組織からの培養が可能だった場合は、染色された生存組織を用いて培養を試みる。 3, 順化作業:新潟大学教育学部および大阪市立自然史博物館の実験圃場において、博物館標本種子の組織培養から得られた植物体の順化作業を行う。また組織培養により得られた植物が、野外の種子から得られた植物と同様に、正常な成長がみられるかを確認する。しかし、健全種子からの組織培養が成功しない場合にはこの作業を行うことは不可能であるため、平成28年度に実施する可能性もある。 4, 生品展示と教育普及:大阪市立自然史博物館のビオトープにおいて、培養から順化作業まで成功させることができた植物を試験栽培する。また、本研究成果を長岡市立科学博物館、大阪市立自然史博物館の企画展、特別展の中で展示する。
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Causes of Carryover |
組織培養が成功した種に対して博物館標本種子を収集する予定だったが、現在のところ収集対象となる種子は少なく、26年度中での作業が発生しなかった。次年度以降、収集の必要が生じた際に順次作業を行っていく予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
さく葉標本からの種子収集、及び実験で使用した種子を標本に戻すための作業を行う人件費として使用するほか、、実験圃場における馴化作業に必要な寒冷紗等を購入する費用とする。
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Remarks |
本研究内容の一部を大阪市立自然史博物館にて開催されたミニ展示「植物標本のタネは地域の自然を救う!?」(2014年3月15日~5月31日)において紹介した。
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Research Products
(5 results)