2015 Fiscal Year Research-status Report
持続的・安定的な成長のためのグローバル社会の相互依存関係性の解明
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26350422
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 裕一 京都大学, 総合生存学館, 教授 (90610858)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 景気循環 / 同期現象 / 複雑ネットワーク解析 / 貿易ネットワーク / ショック / 結合振動子 / コミュニティ解析 / 集団運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,集団運動としてのコミュニティダイナミクス,同期,制御可能性などの経済物理学の視点から,貿易自由化がもたらすグローバル社会の相互依存関係性の変化について研究を進めた。物理学では,従来からさまざまな集団運動が知られている。例えば,やがては核分裂に至る重い原子核の高励起状態での大きい変形現象などが代表的であろう。これは,強い核力によって引き起こされる数100個の核子からなるミクロな系における量子力学的な集団運動である。一方,グローバル化が進む経済において,近年,貿易額は年々増加の一途をたどっており,あらゆる国の産業の間にリンクが張られ世界経済全体が大きいネットワークとなっている。近い将来の環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership, TPP)の締結によって,新しい経済共同体が形成され,国際貿易は更に盛んになるであろう。この様な経済のグローバル化にともない,あらゆる国の産業の間に働く相互作用は貿易増加により強くなる。その結果,さまざまな興味深い集団現象が発現することが期待される。 今年度に実施した1995年から2011年までの産業別の国際貿易と付加価値の年次時系列データ(41ヶ国,35産業)と,1998年から2015年までのG7各国の産業別生産指数の月次時系列データの解析から,以下のような貿易自由化が引き起こす3つの集団運動:(1)貿易額の増大に伴う国際景気循環の同期, (2) 世界同時不況のコミュニティ(経済ブロック)構造変化, (3) 経済危機の制御可能性,の存在を示して,その特徴を明らかにした。更に,これらの研究実績の物理的および社会的な解釈をもとにして,政策立案への示唆について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に基づいて研究を実施し,上記の貿易自由化が引き起こす3つの集団運動:(1)貿易額の増大に伴う国際景気循環の同期, (2) 世界同時不況のコミュニティ構造変化, (3) 経済危機の制御可能性,の存在を示して,その特徴を明らかにした。更に,これに加えて,現存する各国の産業間の貿易データ(商品の情報なし),各商品についての国間の貿易データ(産業の情報なし)をもとに,各商品についての各国の産業間の貿易データを再構成して貿易多重ネットワークとして取り扱う方法論を開発できた。これらの研究成果を,国内学会の講演6件,国際会議の講演5件(内1件は招待講演),査読付き国際会議プロシ―ディングス論文1件,査読付き論文1件,書籍2件(内1件はH28年度の出版が確定)としてまとめることができた。現在,査読付き論文2件を投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,以下の3つの現象解明のための研究に取り組む。(1)各商品についての各国の産業間の貿易データを再構成して貿易多重ネットワークについてコミュニティ(経済ブロック)構造を明らかにすると共に,GDPや貿易コストの変化によるコミュニティ構造の変化のシミュレーションを行う。これによって,TPP締結後の貿易コミュニティの変化を予測する。(2)海外直接投資の国レベルのマクロデータ,および企業レベルのミクロデータを解析して,海外直接投資の全体像を描き出して,海外直接投資と貿易の関係を明らかにする。(3)経済危機時,および危機前後の3つの期間について,ベクトル自己回帰分析により生産指数ネットワークを構築して,少数の産業への刺激策による生産の制御可能性の詳細解析を行う。これらの研究から得られた成果を基にして,最終年度の結果の総合化として自由貿易協定(FTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)についての政策提言を実施する。
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Causes of Carryover |
投稿中の2件の論文が査読中であり,予定していた掲載料の支払いがH27年度内に発生しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度の早い時期い必要になると見込まれる論文の掲載料の支払いの一部分に充てる。
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