2014 Fiscal Year Research-status Report
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26350424
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西原 理 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20456940)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 金融工学 / ファイナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
以前は静学的モデルで分析されることが多かった様々な企業活動について,近年では動学的・確率的モデルによる分析が主流になりつつある.によって,時間軸や種々のリスクを考慮した上での企業の最適な意思決定について分析することができるため,動学的・確率的モデルの構築と分析は,意義がある.当該年度については,主に,①負債発行と拡張投資,②事業縮小,デフォルト,清算について,動学的・確率的モデルの構築と分析を行った. ① 負債発行と拡張投資オプション 近年,Sundaresan, Wang(American Economic Review, 2007)等,多くの論文で,企業の資金調達と事業拡大の関連が分析されてきた.私も,このテーマで多くの研究を行って,当該年度には5編の論文が国際的な査読付ジャーナルに掲載された.負債再交渉の可能性や負債発行制約の有無,あるいは,外部資金調達費用の度合い,景気循環,企業間の競争等,多種多様な側面が拡張投資に与える影響を明らかにした.これによって,産業や企業の性質によって,拡張投資活動に大きな違いがでることが判明し,複雑な実証研究の結果もよく説明できるようになった. ② 事業縮小,デフォルト,清算オプション 近年,Fan, Sundaresan(Review of Financial Studies,2000)等, 多くの論文で,負債の再交渉,清算の問題が分析されてきた.これは,①の拡張投資とはとは逆の側面,事業縮小や資産売却の問題と密接に関わるが,これらの相互関係を明らかにしたものは少ない.このテーマについて,当該年度については,まだ掲載された論文がないが,学会発表を行い,論文の改定を繰り返した.資産売却の度合い,初期負債額,ボラティリティ,資金調達コスト,株主と債権者の交渉力等,多くの要因によって,最適なデフォルトプロセスが変わることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度については,当初の計画通り,主に,①負債発行と拡張投資,②事業縮小,デフォルト,清算について,動学的・確率的モデルの構築と分析を行った.①については,以前から私が精力的に行ってきた研究の延長線上にあるため,計画よりもだいぶ多くの研究成果を出すことができた. 一方,②についても,関連するテーマでいくつかの研究を行った.当該年度の早い段階でほぼ完成したと考えていた論文があったが,在外研究先であるスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL), Swiss Finance Institute の Erwan Morellec 教授からのアドバイスを受けて,モデルを最初から作り変えることにした.このため,当初の計画に比べて,このテーマでは,研究成果を多く出すことができなかった.ただし,以前の論文に比べると,モデル単純化のための強い仮定がなくなったため,改定した論文は,受け入れられやすい形になったと考えられる.さらに,負債再交渉の論文との関連性という点でも,多くのインプリケーションを含む論文になったため,時間はロスしたけれど,良かったのではないかと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,平成27年度では,①負債発行と拡張投資,②事業縮小,デフォルト,清算に加えて,③ ベンチャー企業の新規上場とベンチャーキャピタル,④ M&Aと非対称情報の問題についても,動学的・確率的モデルによってモデル化し,分析を行っていく予定としていた.しかし,②の研究課題が,当初考えていたよりも,かなり複雑で重要なテーマであるということが分かってきたため,平成27年度については,②のテーマについて,もっと深く掘り下げていきたいと考えている.当初,②の問題は,①と逆の側面の問題なので,①の研究で培ってきたモデル化や分析のテクニック・手法をうまく当てはめれば,コインの表裏のような関係にあるような多くの結果を示すことができると考えていたが,実際には,かなり異なることが分かってきた.実際,負債の再交渉や清算のプロセスは,国ごとに異なる法律的な問題や株主と債権者の間の不確実な交渉等のため,多種多様で入り組んだプロセスとなり,①の研究で用いたような明解な理論モデルでの分析は,困難である. ③や④の研究テーマでは,動学的・確率的な契約理論のモデルの構築と分析が重要になってくる.当該年度の研究で,②の問題についても,動学的・確率的な契約理論のモデルが必要なのではないかと考えるようになってきた.いずれにせよ,今までとは少し違った,契約理論的なモデル化とその分析によって,新たな結果を示していきたい. さらに,平成27年度も,昨年度の夏から引き続き,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL), Swiss Finance Institute で在外研究を行う予定である.毎週1,2回ある EPFL のセミナーや,多くのヨーロッパの学会に参加し,ファイナンス関連の最新の研究成果に関する情報収集を行って,自身の研究に役立てていきたい.
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Causes of Carryover |
昨年度の夏から,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL), Swiss Finance Institute で在外研究を行っており,その関係で,いくつか予想外の状況が生じたため,次年度使用額が生じた.まず,在外研究の期間中,日本への持帰りの手間等のため,大きな物品の購入が難しくなった.また,当初予想していたよりも,ヨーロッパ内では,格安航空が発達しており,出張時の移動コストに関しては,日本国内の移動程度しかかからなかったため,出張旅費も少なかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度も,昨年度の夏から引き続き,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL), Swiss Finance Institute で在外研究を行う予定である.在外研究期間中,精力的に,多くのヨーロッパの学会に参加し,ファイナンス関連の最新の研究成果に関する情報収集を行うとともに,自身の論文の発表にも力を入れていきたいと考えている.特に,昨年度の経験から,ヨーロッパ内の移動コストが安いことがわかったので,昨年度以上に,多くの学会に参加する予定である.したがって,次年度使用額については,主に,出張旅費と学会参加費用に充てる予定である.
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Remarks |
研究業績の詳細は、ホームページを参照。
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Research Products
(10 results)