2014 Fiscal Year Research-status Report
コラーゲン分子の非接触ナノ力学特性解析による骨質劣化の定量評価
Project/Area Number |
26350493
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐々木 直樹 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 名誉教授 (40142202)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 骨質 / 骨コラーゲン分解 / 糖化最終産物 / 非酵素的架橋 / Debye-Waller因子 / 応力緩和 / 動的粘弾性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2001年のNIHコンセンサス会議では、骨密度測定に偏りがちだった骨粗鬆症診断基準を、骨強度=骨密度+骨質 と捉え直し、骨密度が70%、骨質が30%の割合で重視すべきであると提案している。しかしながら2011年に改訂された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」においても、骨密度偏重の傾向は変わっていない。これは、「骨質」として何を定量すべきかはっきりしていないためと思われる。 我々は、「骨質」という概念の生体力学的定量化を最終ゴールとする。このため、骨質の力学特性を支配する、ミネラル相以外の要因である骨コラーゲンの状態の実験的定量化を行い、その結果と骨全体の力学特性との関連を調べるための実験を行った。骨試料としては18ヶ月齢のウシ大腿骨を用いた。ミネラルはそのままでコラーゲンの状態だけを系統的に変化させるため、(1)KOH処理(コラーゲンの分解)、および(2)糖化処理(コラーゲンの糖化架橋)を、(1)は3時間から24時間、(2)は3日間から28日間まで、反応時間を変化させ行った。骨コラーゲンの状態(分解・糖化)の定量化のために、処理反応時間と、試料の膨潤度およびコラーゲン分子のバネ定数変化の関係を調べる。後者は骨コラーゲンのヘリックスピッチのDebye-Waller因子(X線)測定に依る。一方で、これらの結果と比較するため、処理試料の応力緩和測定および動的粘弾性測定を試みた。実際の実験は、各装置の組み立てから始まった。X線回折計への温度可変装置の組み込みおよび動的粘弾性装置の組み立てである。前者の温度制御はペルチェ素子を用いる。後者の駆動にはボイス・コイルを用い、計測はロード・セルによる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
26年度の進捗状況が、計画より遅れ気味だったのは、系統的に変化させたコラーゲンの状態をモニターに失敗したことに依る。 KOH処理によるコラーゲンの分解進捗のモニターには当初、常法とされるヒドロキシプロリンアッセイを用いたが、反応時間が短く分解がそれほど進んでいない場合(恐らくコラーゲン分子がその場で切断されるなど)の定量は難しかった。先に我々は反応時間とともに試料が顕著に膨潤することを見出した1)。ヒドロキシプロリンアッセイの結果をも考慮し、膨潤比をもってコラーゲンの分解の程度を表すパラメータとして用いることが可能であることを示した。今回も、反応時間に従って、膨潤比が増加した。一方、糖化最終産物による架橋度の変化については、処理反応時間が変化に対し、膨潤比の減少が予想された。結果は、十分なn数について28日間の糖化処理によっても、膨潤比の有意な変化は観測できなかった。予想された試料サイズの変化は5%以下であり、膨潤比では2%以下となる。糖化処理の進捗をうまくモニターできなかったのは、糖化が進んで架橋が増加すると、膨潤比がある一定値(0.98程度の値)に漸近するためかもしれない。従って、膨潤比による糖化架橋反応のモニターは必ずしもうまい方法ではないと思われる。膨潤比は、試料のマクロな変化を観測するものだが、糖化による架橋の増加は、骨コラーゲン線維中のコラーゲン分子レベルで観測すべきものかもしれない。もう一つの方法として提案しているDebye-Waller 因子測定は、コラーゲン分子レベルでの硬さを測定する手法である。今後は、糖化による架橋の増加をモニターする手法としてコラーゲン・ヘリックスのDebye-Waller 因子測定を行う予定である。各処理骨についての応力緩和測定も行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.系統的に変化させたコラーゲンの状態のモニター コラーゲンの分解の度合いは膨潤比でモニターできたが、糖化架橋の増加はこの方法では調べることができなかった。後者については、11に既述したように、コラーゲン・ヘリックスのDebye-Waller 因子測定を行う。合わせて、コラーゲン分解もこの方法でモニターを試みる。未処理の骨コラーゲン試料のDW弾性率(Debye-Waller 因子測定によって決定した力の定数)と処理試料のDW弾性率の比をコラーゲン状態のパラメータとする。 2.力学特性変化 (1)応力緩和特性:各試料の応力緩和測定を行う。応力緩和曲線を実験式に基づいて解析する。実験式へのフィッティングから得られる緩和パラメータ (初期弾性率、緩和時間、緩和時間分布)の、コラーゲン状態パラメータに対する依存性を調べる。この結果より、コーゲンの状態変化により、骨としての力学特性の特徴を把握する。コラーゲン分解の場合は、ほんのわずかコラーゲンを分解するだけで、オステオンなどの高次組織がドラスティックに変化したが、糖化架橋導入では緩和パラメータがどのように変化するかに着目する。 (2)動的粘弾性特性:各試料の動的粘弾性特性を測定する。原理的には(1)と同種の力学定数が得られることになるが、今回は特に、繰り返し測定の結果を調べる。繰り返し測定により、疲労破壊に関する情報が得られるが、特に、それらのコラーゲン状態パラメータに対する変化を観測する。コラーゲンの状態が疲労破壊にどのように影響するかに着目し、結果を解析する。
|
Causes of Carryover |
年度をまたいで実験を継続しており、消耗品等の発注が間に合わなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度消耗品費として使用する。
|
Research Products
(11 results)