2015 Fiscal Year Research-status Report
生体吸収性セラミックスβ-TCPの新規ワクチン・アジュバントへの応用開発
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26350524
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Research Institution | Shizuoka Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
丸山 宏二 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (20311417)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | β-TCP / 樹状細胞 / マクロファージ / インフラマソーム / ワクチン・アジュバント |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度には、マウスのマクロファージ(Mφ)と樹状細胞(DC)を対象にβ-TCPのインフラマソームへの影響を調べるin vitroの実験と、インフラマソームの中心蛋白のNLRP3ノックアウト(KO)マウスへβ-TCPを投与し影響を調べるin vivoの実験を行った。 In vitroの実験においては、β-TCPは低濃度のリポポリサッカライド存在下でインフラマソーム活性化の指標の一つであるIL-1βの産生を亢進した。IL-1β産生亢進は、MφとDC両者において観察され、caspase活性阻害剤z-VAD-fmkによって阻止された。ウエスタンブロット解析の結果、z-VAD-fmkは細胞内の活性型caspase-1と培養上清に分泌される成熟型IL-1βを著しく減少させることが示された。また、インフラマソーム研究に標準的に用いられるヒト単球細胞株THP-1を用いて詳細に検討したところ、 (1) 細胞内カリウムの流出、(2) アクチン重合、(3) 活性酸素(ROS)の産生、を各々阻害するとβ-TCPによるIL-1βの産生亢進が阻止された。以上の成績より、β-TCPはインフラマソーム活性化に必要な要件を備えることが示された。 In vivoの実験では、NLRP3-KOマウス皮下に β-TCPの顆粒を投与し、1、7、14日後に投与周辺組織を採取、病理検索を行った。β-TCPは動物の皮下等に投与した場合、炎症様の免疫反応を誘起し、β-TCP周囲に多数の免疫細胞が集積することが分かっている(Tai et al, Int Immunopharmacol, 2014)。野生型動物に比べ、KOマウスでは集積する免疫細胞の数が少なく、誘起された免疫応答の弱いことが示唆された。以上のin vitroとin vivoの成績より、β-TCPはインフラマソーム複合体を活性化することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画のうち、「マウスMφとDCの初代培養系を用いる検討」では、(1) MφとDCの成熟に対する影響、(2) 抗原提示細胞によるサイトカイン及びケモカイン等の産生に対する影響、(3) インフラマソームに対する影響の三つの項目を立て、研究を進めてきた。(1) と (2) に関しては既に実験を終了し、論文を投稿し審査の結果待ちの状態である。 平成27年度は、(3) に関して実験を進め、上述のようにβ-TCPがインフラマソーム複合体を活性化することをほぼ証明することができた。 「マウス腫瘍モデルを用いる抗腫瘍試験」においては、平成26~27年度にかけて実験を行い、β-TCPとTLRリガンドのPoly(I:C)を併用すると、がんワクチンの抗腫瘍効果が著明に増強されることが示され、TLRを介する免疫応答とインフラマソームを介する免疫応答を融合することでさらに強力な腫瘍免疫応答が誘導できることが示唆された。 また、平成27年度にはNLRP3-KOマウスを用いて同様な抗腫瘍試験を行い、β-TCPが増強する抗腫瘍効果においてインフラマソーム活性化がどの程度寄与しているか、検討を開始した。しかし、これまで用いてきたC57BL/6(B6)マウス由来の腫瘍細胞は、野生型B6マウスに移植した時と比べてNLRP3-KOマウスにおいては増殖が劣ることが判明した。これは、NLRP3-KOマウスとB6マウスの遺伝的背景が微妙に異なることに起因する。このため、平成27年度中頃より戻し交配を開始し、NLRP3-KOマウスの遺伝的背景をB6マウスに近付ける操作を行ってきた。平成28年度には、このマウスを用いて実験を行う予定である。 以上のように、NLRP3-KOマウスを用いる抗腫瘍試験において若干の予定逸脱はあったものの、それ以外は当初に予定されていた研究計画はほぼ予定通りに進捗したものと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
(今後の推進方策) 平成28年度には、本研究のひとつの大きな柱であるインフラマソーム複合体の主要蛋白であるNLRP3を欠失するNLRP3-KOマウスを用いた実験を行う。In vitroの試験として、NLRP3-KOマウスの骨髄細胞から分化誘導したMφとDCの初代培養系を用いて、β-TCPがインフラマソーム活性化を誘起できるかどうか検討してきているが、現時点でDCを用いた実験は終了しており、今後Mφを用いる実験を行う。In vivoの試験においては、上述のように腫瘍細胞と使用動物(NLRP3-KOマウス)間の遺伝的背景に微妙な差異があり、移植腫瘍の増殖が野生型動物におけるものと比べて抑制される傾向が見られた。今年度の抗腫瘍試験では、戻し交配を行って作出した系統の動物を用いることとし、さらにNLRP3の片側遺伝子のみ欠失するヘテロの動物同士をかけ合わせて生まれた野生型、ヘテロ欠失、ホモ欠失それぞれの動物を試験に供与する。この措置により、遺伝的背景の完全に一致する動物同士を比較に供することになり、試験の信頼性を向上させることができる。
(次年度使用額が生じた理由と使用計画) 平成27年度には、上述のように遺伝的背景の問題によりNLRP3-KOマウスを用いた抗腫瘍試験を殆ど行っていない。抗腫瘍試験においては、エンドトキシンフリーの抗原やTLRリガンドのPoly(I:C)等の投与用試薬、あるいは試験に用いた動物の免疫細胞評価に使用する蛍光色素標識モノクローナル抗体等、高価な試薬が必要である。このため、平成27年度には研究費の温存に努め、平成28年度に複数回の試験が行えるよう配慮した。この結果次年度使用額が生じることとなった。ご理解頂けますようお願い申し上げます。
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Causes of Carryover |
当研究所で生産しているノックアウト・マウスの遺伝的背景の問題により、平成27年度に予定していた抗腫瘍試験の一部を実施することができず、抗腫瘍試験に使用予定だった試薬類を購入しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度途上より上記問題を解決すべく、野生型マウスとの交配により実験に使用できるマウスの系統を作出した。平成27年度に実施できなかった抗腫瘍試験を平成28年度に行い、必要な試薬を購入することで次年度使用額を使い切る予定である。
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Research Products
(1 results)