2014 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の聴覚機能の低下に向けた聴覚支援システムに関する研究
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26350661
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
中藤 良久 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10599955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 謙二 大阪工業大学, 工学部, 教授 (30613682)
加藤 弓子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 研究員 (10600463)
水町 光徳 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90380740)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高齢者 / 聴覚機能 / 保護 / 改善 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の実施計画では、以下、具体的な実績が得られた。 ③聴覚機能の保護技術の構築に関する実績 ヘッドホン難聴に関する文献調査を行った結果、EUやWHOでは危険な音圧レベルと聴取時間の関係をまとめた指標が発表されている一方、日本では不十分であることが分かった。そこで、携帯音楽プレーヤーの使用者が実際にどの程度の音量で音楽を聴取しているのかを把握するために20歳台の成人7名の最適聴取レベルの測定を行った。その結果、多くの被験者が平均最適聴取レベル80dBを超えており、中には90dBを超えている被験者もいることが分かった。また、聴取者に気付かれないような速度で音量を安全なレベルまで下げることが可能かどうか見極めるため、音量を徐々に減衰させた時にどの程度音量を下げると被験者が知覚できるかについて評価を行った。その結果、減衰速度によらず、12dB±4dBの範囲で被験者が知覚することが分かった。 ④聴覚機能の改善技術の構築に関する実績 聴力維持・改善に関する文献調査を行ったところ、既存の聴覚訓練システムとしては、九州大学や東京情報大学の訓練方法、補聴器メーカが開発したシステムなどがあった。この結果を踏まえて、聴覚機能の改善システムの訓練メニューの選定を行った。高齢者向けの聴能訓練の内容として5種類の弁別訓練(音の高さ、音の大きさ、音の長さ、音の方向感、音の方向感)を選定した。この訓練方法の効果を訓練前後の語音明瞭度検査で行った。その結果、訓練の正答率が平均8.6%向上した。一方、聴き取りづらい劣化音声の明瞭度改善方法の検討として、明瞭度の低い高齢者音声から抽出したフォルマント周波数を明瞭度の高い高齢者音声のフォルマント周波数に近づける(補正)方法の検討を行った。補正前後の10単語を成人男性17名で比較評価したところ、10単語中8単語について補正による明瞭性の改善効果が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、世界的に益々増加する高齢者への支援を目的として、聴覚機能の保護・改善を実現する聴覚支援システムの構築を目指している。そのため平成26年度の計画では、「①聴覚機能の保護技術の構築」に関してはヘッドホン難聴の文献調査およびイヤホン受聴の予備評価を、また「②聴覚機能の改善技術の構築」については、訓練方法の文献調査および聴力の改善の予備評価を予定していた。この計画に対し、平成26年度は以下の成果が得られたことにより、計画がおおむね順調に進んでいると判断している。 ①聴覚機能の保護技術の構築 ヘッドホン難聴に関する文献調査を終了し、成人における最適聴取レベルの測定を完了した。また、音量を徐々に減衰させた時にどの程度音量を下げると被験者が知覚できるかについて評価も実施し、減衰速度によらず12dB±4dBの範囲で被験者が知覚することが明らかとなった。 ②聴覚機能の改善技術の構築 聴力維持・改善に関する文献調査を終了し、我々の提案する聴覚機能改善システムの訓練メニューの選定を完了した。また、この訓練方法の効果を訓練前後の語音明瞭度検査で行ったところ、訓練の正答率が平均8.6%向上することが明らかとなった。さらに、聴き取りづらい劣化音声の明瞭度改善方法の検討として、フォルマント周波数を補正する方法を提案し、補正前後での改善効果が得られることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2つの研究課題に対する平成27年度以降の取り組みについて以下具体的に述べる。 (1) 高齢者の聴覚機能の保護技術の構築 本課題に対しては、平成26年度の検討を踏まえ、平成27年度は難聴リスクを低減するためのイヤホン受聴方式について、高齢者を被験者とする本格的な検討を行う。イヤホン受聴方式として音量の時間制御だけでなく、さらに各人の聴力タイプに応じた受聴音量の制御を行う。具体的には、聴力の低下している周波数帯では明らかに基底膜上の有毛細胞がダメージを受けているわけであり、残された細胞や消失しつつある細胞を積極的に保護するために、該当する周波数帯の音量を調整する方法である。さらに受聴音量と受聴時間の積分値により使用者の難聴リスクを積算する方法なども検討する予定である。 (2) 高齢者の聴覚機能の改善技術の構築 本課題に対しては、平成26年度の検討を踏まえ、平成27年度は聴覚機能をトレーニングにより回復するための方法について、高齢者を被験者とする本格的に検討する。具体的には、まず複数の被験者についてオージオメータなどを用いて各々の聴力を測定し、トレーニングすべき周波数帯や音圧レベルの見通しを立てる。その上で、選定した各々の評価項目に関して、聞き分けトレーニングを実施し、効果の有無を確認する。効果の評価方法としては、難聴者の聞こえの評価と同様に語音識別能力がトレーニングの前後でどの程度改善されるかを主観評価により検証する方法を用いる。さらに、聴き取りづらい劣化音声の明瞭度改善方法の検討として、統計的にスペクトルを補正する方法についても検討する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度に予定していたオージオメータの購入費用は、平成27年度以降に実施する予定である。これは平成26年度は、成人を対象とした予備評価を行ったため、オージオメータを用いた聴力の詳細な評価をする必要がなかったからである。平成27年度以降は、本格的に高齢者や難聴者の聴力評価を行う予定のため、購入を検討する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度以降は、本格的に高齢者や難聴者の聴力評価を行う予定のため、購入を検討する予定である。さらに、音声変換方式の検討・評価実験やプロトタイプを構築するための高性能PCを導入する予定である。また、高齢者を被験者として学外から招聘するため、謝金が発生する予定である。
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Research Products
(8 results)