2014 Fiscal Year Research-status Report
反省的実践にみる身体教育の可能性―体育の再定義と教師教育への応用的展開―
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26350732
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
釜崎 太 明治大学, 法学部, 准教授 (00366808)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヒューバート・ドレイファス / 身体知 / 暗黙知 / 科学知 / 認知科学 / 人工知能 / トマス・クーン / 反省的実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は反省的実践に関する先行研究を収集した。この課題に関しては8割程度の収集率にとどまり,継続課題となった。しかし,その過程において,認知科学における「知」の概念転換が「教育」概念の再定義と密接に繋がっていることがわかり,こちらの情報収集と分析を進め,ヒューバート・ドレイファスの人工知能批判を中心的に分析することとなった。 その成果は次のように要約される。人間の知のメカニズムを探究する認知科学は,人間の知を再現しようとする人工知能への興味のもとに50年代に組織されてきた。しかし,人工知能研究は「フレーム問題」(コンピュータは予想外の出来事にうまく対処できない)に直面して長期の停滞を余儀なくされる。その停滞を予言するかたちとなったのがドレイファスの「人工知能批判」であった。ドレイファスによれば,コンピュータとは異なる人間の知の特徴は「状況把握」「全体的把握」「予期と期待」に求められ,そのような知を可能にするのは,メルロ=ポンティの「身構え」,すなわち身体であるという。例えば「あ」「い」「う」といった離散的な文字を読めるようになった子どもでも,文章を読む訓練を受けていなければ,平易な文章すら読めない。「眼」の訓練を通じた「予測と予期」の能力に欠けるからである。この新しい知の概念は,教師の専門性を科学知から身体知に求める見方へとその変容を迫ることになる。70年代のエキスパートシステムが科学知に頼って失敗したように,科学的なプログラムを教師に教えることでその専門性が確立されるわけではない。子どもたちや環境の変化に即興的に対応しうるような「状況把握」「全体的把握」「予測と予期」の能力を育む身体教育が教師教育には求められるのである。 以上の研究成果は,平成27年5月の日本体育学会体育哲学専門領域の定例研究会で発表予定である。学術誌への投稿,書籍化の計画も進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒューバート・ドレイファスの「人工知能批判」を分析したことによって,「知」の概念革命と「身体」との深いつながりを明らかにすることができ,今後の研究課題の進展に大きな展望がひらけた(研究計画では平成28年度に検討する予定の内容であった)。その一方で,ドレイファスの哲学理論という新たな研究対象の発見と探究のために時間が割かれ,当初予定していた反省的実践に関する文献収集が不十分なものにとどまった。しかしながら,前者の研究成果は,後者の遅れを補ってあまりある成果をあげていると思われる。 その成果は5月の学会発表,その後の論文作成,その一部の書籍化という計画もすでに進捗中である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に,現在遂行中の「反省的実践」に関する文献を収集しカテゴライズする。 第二に,それらの先行研究の到達点を身体教育論の視点から明確にする。 第三に,ドレイファス,フーコー,シュスターマーンの身体論を分析し,反省的実践に含まれる「感性教育としての身体教育」の可能性を示す。 第四に,今年度に明らかにした「知的教育としての身体教育」の可能性と「感性教育としての身体教育」の可能性を踏まえたうえで,現代における「体育」の新しい方向性とその意義を示す。(平成28年度までの課題) 第五に,1970年代の宮城教育大学の教員養成改革を反省的実践の視点から分析し,「教師教育としての身体教育(新しい体育)」の可能性を示す。(平成29年度の課題)
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Causes of Carryover |
資料の未収集があったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に当該資料を収集する予定である。
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