2015 Fiscal Year Research-status Report
地方自治体におけるスポーツ政策に関する日独比較研究
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26350771
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
黒須 充 順天堂大学, スポーツ健康科学研究科, 教授 (50170121)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地域スポーツ政策 / 地域スポーツクラブ / 日独比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ドイツにおける地域スポーツ政策の現状を把握するため、ドイツ中西部に位置するライン・ノイス郡を訪問し、副郡長のユルゲン・シュタインメッツ氏やスポーツ相談課のアクセル・ベッカー氏からヒアリング調査を行った。その結果、ライン・ノイス郡では、①スポーツ局、②スポーツ相談課、③スポーツ財団、④スポーツ連盟の4つの組織が相互に連携・協力しながら、スポーツ政策を担っていることが明らかとなった。 また、自治体がスポーツ振興においてどれだけの役割を果たすかについては、主として、①市民がどれだけ熱心にスポーツや運動をする権利を主張するか、②地方自治体のスポーツ行政(スポーツ局)が、スポーツの分野自体でも、またスポーツの枠を越えた他の行政分野(健康増進局、青少年局、社会福祉局など)との関わりでも、どの程度調整機能を発揮できるか、そして③郡議会ないしは市町村議会のスポーツ専門委員会、更には④住民参加型の「スポーツ推進審議会」がどのような位置を占めているかにかかっていることが明らかとなった。 さらに、最近では、市民間の合意形成を行う場として、「スポーツ・ダイアローグ」(Sport Dialog)という手法が注目されており、ライン・ノイス郡では、①郡議会、②スポーツ専門委員会、③郡長、④郡スポーツ局長、⑤郡スポーツ振興事業団、⑥郡スポーツ連盟、⑦企画実行委員会、⑧郡スポーツクラブの代表、⑨スポーツカンファレンス、⑩各市町村の住民代表、⑪ノルトライン・ヴェストファーレン州スポーツ局等が「スポーツ・ダイアローグ」の登場人物として重要な役割を果たしていることも明らかとなった。 以上、本年度は、ドイツにおける地域スポーツ政策の現状について、ライン・ノイス郡の関係者へのインタビュー調査をもとに明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、ドイツ中西部に位置するライン・ノイス郡におけるスポーツ振興計画の策定プロセスに関する調査を行ったところ、市民間の合意形成を行う場である「スポーツ・ダイアローグ」の実施が、計画策定のプロセスに大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。「スポーツ・ダイアローグ」の主な目的は「対話」により市民の要望を自治体のスポーツ振興計画の中に取り入れ、変革が皆の支持で実現するように進めていくことである。なぜなら市民が対話という形で直接関与することは、市民自身が当事者としてスポーツ振興計画策定について真剣に検討および議論し、計画内容も透明化を促進できると共に、こうしたプロセスを経ることで信頼関係も育まれ、結果として計画が市民に受け入れやすくなることが期待できるからである。 加えて、スポーツ政策と青少年政策(子供たちの人格の発展、公共性・自己経験と能力の開発、麻薬問題、フェアプレーや寛容性などの価値観の伝達等)、文化および余暇政策(自由時間の優先的な過ごし方、活動的な生活スタイル、勤労生活の変化と工業社会の増大する匿名性から生ずる諸問題等)、社会政策(社会福祉、移民の社会的統合、シニア世代の社会参加)、健康政策(健康についての知及び情報の伝達、生活習慣病への対応、子ども・青少年の肥満、不健康、暴力、医療費の軽減)など、隣接する他の分野との連携・協力(ポリシーミックス)が、様々な社会問題の解決に寄与する可能性を有していることが明らかとなった。 最終年度は、日独の地域スポーツ政策に関する比較考察の結果を踏まえ、スポーツ振興と都市の発展に関する日独共通の連関モデルの作成を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度、27年度の調査研究で得られた具体的なデータに基づき、報告書を作成する。その際、日独のスポーツ振興計画策定のプロセスとして、大きく1)変革の方向性を探り、行動を始める段階、2)自治体の基本データ(人口、学校数、社会教育施設数、平均寿命、医療費、労働者数、長期失業者数、歩行・自転車専用レーンの整備状況等)を収集する段階、3)スポーツ活動の現状調査(市民を対象としたスポーツ行動に関するアンケート調査、スポーツ施設数や使用状況調査、専門家に対するヒアリング調査及びデルファイ調査等)を行う段階、4)データの解釈と行動知を導き出す段階、5)目標設定・達成モニタリング(定期的、継続的にモニタリング可能な目標の設定)を設定する段階、6)スポーツ振興計画を作成する段階、7)スポーツ振興計画を実行に移す段階の7つのステージに分けて、考察を行いたい。 また、日独の地域スポーツ政策に関する比較考察の結果を踏まえ、自治体のスポーツ振興は、学校政策、青少年政策、健康政策、社会福祉政策など、他の政策分野と密接な関連を有すること、スポーツが地方自治体の全体的発展に重要な役割を果たし得ることについて、目に見える形(科学的根拠に基づいた知見)で成果を示したい。
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Research Products
(3 results)