2017 Fiscal Year Research-status Report
知的障害児童生徒の動きの学習習熟度からみた体育学習内容の検討
Project/Area Number |
26350772
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
松坂 晃 茨城大学, 全学教育機構, 教授 (70190436)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 知的障害 / 運動スキル / 体育授業 / 学習内容 |
Outline of Annual Research Achievements |
知的障害のある児童生徒は,障害特性や社会環境要因により運動学習の機会が限られ,運動技能の発達がさらに遅れる可能性がある。こうした運動技能の遅れは将来のスポーツ参加を難しくし,一層の運動不足と運動不足に起因する健康問題へつながっていく。発育期にある児童生徒にとって運動学習の機会は重要であり,体育授業に対する期待はきわめて大きい。運動技能の習得は神経系機能が発達する若年齢期が望ましいとされている。体育授業で取り上げられている様々な運動技能について,これまで観察的評価法により縦断的に検討してきたところ,小学部段階での運動技能発達が中学部や高等部段階よりも大きい傾向がみられた。そこで本年度はこうした運動技能の向上が学習による成果なのかどうかを検討するため,介入研究を行った。なお,研究の実施に際しては本学の研究倫理委員会の承認を得るとともに,研究対象校および対象児保護者の了解を得た。 まず,投げる動作について小学部児童,中学部生徒,高等部生徒を対象に約一ヶ月間の練習を行った。振り子投げ,パイプ投げ,ジャグリングボール投げなどの練習を特別支援学校教員の指導の下に1回10~30分,週2~3回実施した。その結果,練習前後のソフトボール投げ記録には有意な向上がみられなかったが,投動作スキルについては小学部児童で改善傾向,中学部生徒で有意な改善,高等部生徒では変化がみられなかった。 つぎに,走動作について中学部生徒および高等部生徒を対象に約一ヶ月間の練習を同様に行った。練習内容は発泡スチロールブロックを使ったミニハードル,ダンボール製ハードルを使ったもも上げ,1~2m間隔でマークをおいたマーク走,ポリタンク押しである。その結果,中学部生徒において50m走タイムおよび中間疾走タイムが有意に向上し,ストライドが伸びる傾向を示したが,高等部生徒では改善がみられなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,知的障害のある児童生徒の運動技能に関する調査研究をとおして,特別支援学校の体育学習内容を検討しようとするものである。これまで,①縦断的にみた運動技能の発達に関するデータ収集,②特別支援学校教員を対象とした児童生徒の運動技能改善に関する実態調査,③運動技能向上をめざした体育授業介入研究を実施してきた。その結果,特別支援学校の児童生徒においても運動技能に関する学習効果が充分に期待され,中でも小学部段階での運動技能の向上が大きいこと,中学部段階でも運動学習の効果が期待できること,学習前の運動技能水準が高い児童生徒においては改善の幅が小さい可能性があること,個々の児童生徒の障害特性によっては固定化された運動技能を改善することが難しい傾向があること等が観察されている。なお,高等部段階での運動技能向上がみられにくい背景には,基礎的運動技能向上をめざした授業展開よりも,選択性のゲーム形式の授業展開が多いことも背景にあるかもしれない。 児童生徒の運動スキルに関する学習可能性を探るには,多様な運動スキルについて様々な特性を有する児童生徒を対象にトレーニング研究を重ねていかなければならない。体育授業で取り上げられる様々な運動技能の縦断的変化を追跡するとともに,投げる,走る,捕る,蹴るなどについては介入的検討を試みた。各学校の年間指導計画の作成にあわせた実験的介入を,学校や保護者への説明とともに承認を得ながら実施していくことの難しさが研究がなかなか進まないことの背景にある。学習計画立案,授業実施,結果のまとめと発表という手順で進めているけれども,取り組むべき内容の多さと研究対象児の確保(学校および保護者の了解)の両面の問題から,研究がやや遅れている。介入研究の難しさがあるけれども,その一連の流れが構築され今後の研究を進めやすくなってきており,介入研究の一層の進展に尽力したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
知的障害児の動きの学習可能性を探るには介入的研究が欠かせない。先述したとおり,これまで投げる,捕る,蹴る,走るなどの運動技能について介入による変化をみてきた。まだ,充分な資料が得られたものではなく,本年度も介入的研究を積み重ねて行く。具体的には小学部児童を対象とした走る動作の研究,および高等部の運動技能の高くない生徒に対する介入的研究を追加したい。昨年度の研究では高等部生徒に介入効果が見られない結果となったが,これには介入前の運動技能水準が高い生徒が多かったことも影響しているのではないかと考えている。 また,これらの運動技能はクローズドスキルであり,オープンスキルについては取り上げていない。これまでの捕るや蹴るの研究においても至近距離のその場でのボールキャッチや静止しているボールを蹴る動作をみており,必ずしも状況変化に対応した運動技能を検討したものではない。知的障害児は感覚統合能力などの発達に遅れがみられ,とくにオープンスキルの習得が難しいと考えられる。ただ,オープンスキルの状況変化には多様な要因が含まれ網羅的に検討するには時間が足りないので,一部の要素を取り上げるとともにクローズドスキルの要素も含まれる運動課題について介入的に検討したいと計画している。例えば,相手との距離を変えたボール捕球や,走り幅跳び,ハードル走,跳び箱の学習可能性を介入的授業研究によって検討したいと考えている。 なお,本年度も昨年までの研究結果について学会発表し,討議を通して知的障害児の動きの学習可能性についての理解を深めるとともに,論文を作成していく予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度は特別支援学校において児童生徒を対象とした動きづくりの介入研究を行い,物品費を体育教材の購入に充当した。走る,投げるなどの運動動作習得をめざして,発泡スチロール製のブロックやダンボール箱を利用したハードル,手製のお手玉やジャグリングボール,水道用のゴムホース,灯油用のポリタンクなどを教材として活用した。こうした教材教具は特別支援学校の体育担当教員との討議にもとづく学習プログラムの立案とともに試行錯誤し改良しながら作成することが必要で,次年度においても知的障害児の動きづくりに関する介入研究を継続する必要があることから,教材購入のために計画的に研究予算を次年度に向けて残した。 また,次年度は二つの学会でこれまでの研究成果を発表し,質疑応答をとおして知的障害児の動きの学習可能性について理解を深めたいと考えて,そのための旅費として計画的に研究予算を残した。
|
Research Products
(4 results)